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ITに強いビジネスライターとして、企業システムの開発・運用に関する記事や、ITベンダーの導入事例・顧客向けコラム等を多数書いてきた筆者が、仕事を通じて得た知見をシェアいたします。

『IT現場の文章作成術』

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l日経BP社から7年ぶりに新刊が出ましたので、少し宣伝させてください。

短時間で的確に作り上げる IT現場の文書作成術』という本です。

日経SYSTEMSに、2015年10月号から2016年9月号まで連載されていた「ITエンジニアの文書作成術」をまとめ直したものです。

ITエンジニアが現場で書くことがある代表的な12種類の文書の書き方を詳しく書いたものです。ただし、設計書やプロジェクトマネジメント関係の書類は、詳しい本が何冊も出ているため除いています。

読めば文章力がアップする12本のコラムもあります。

単行本と電子書籍の両方があります。

以下に「はじめに」を全文載せさせていただきます。

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「IT エンジニアは文章が下手だ」
「専門用語ばかりで何を言っているのか分からない」
「ダラダラと技術的な話が続き、結論が何なのか見えてこない」

 IT エンジニアの文章に対するこのような苦言は、筆者が若手IT エンジニアだった1990 年ころからずっと呈されてきました。実際、情報処理試験の問題作成と採点をしている知人によれば、「小論文をきっちり書けるIT エンジニアは一握り」なのだそうです。
 それなのに、IT エンジニアには高度な文章力が求められています。具体的には次のような力です。

  • 高度な技術情報を一般のビジネスパーソンに分かりやすく伝える
  • 業務要件をユーザーが分かる言葉でとりまとめる
  • 自社発行の小冊子やIT 系の雑誌に技術関連の寄稿をする
  • 顧客との打ち合わせ内容を関係者全員が分かるように議事録に記す
  • システム障害発生時に原因や対応内容、今後の対策、および謝罪の意思を、怒っている相手が納得するように報告書にまとめる
  • ユーザー自身にも見えにくい真の要求を見抜き、コンペに勝てる提案書を作る
  • 自社の商品やサービスをPR するための文章を書く

 後半にいくほど違和感を覚えたかもしれません。「それは営業の仕事ではないのか」と思った方もいるでしょう。もちろんすべてをIT エンジニアが書くわけではなく、営業担当者や外部のライターとの分業になるケースも多いでしょう。しかしコアの部分には、IT エンジニアでないと書けない箇所があるのです。
 その「コアの部分」を書けるIT エンジニアがいない企業は、今後競争力を失っていく恐れがあります。逆に「書けるIT エンジニア」が多数いる企業が有利ということは容易に想像できるのではないでしょうか。企業の問題だけではありません。個人のキャリアアップについても、文章力があるほうが有利です。特に自分で企画した仕事を事業化していきたい----すなわち、やりたいことをやれるIT エンジニアになりたい人にとっては、文章力は必須だと言えます。

 では、IT エンジニアは本当に「文章力がない」のでしょうか?
 筆者は約20 年をシステム開発の現場で過ごし、その後はフリーライターとしてIT 企業から多くの仕事をいただいてきました。その中で多くのIT エンジニアと打ち合わせをし、その文章も拝読してきました。また一般企業の情報システム部門にも多くの取材をしてきました。その経験から言えば、IT エンジニアにいわゆる「文章力がない」というのは嘘だと考えます。確かに文章を書くことが苦手な人はいますが、その割合はせいぜい5% 程度でしょう。逆にプロのライターとしても通用する人も、同程度います。
 恐らく、IT エンジニアの文章力は、他の業界と大して変わらないのではないでしょうか。けれども、求められる文章力が高度なために、文章力のなさが目立ってしまう----これが本当のところだと思うのです。
 IT 現場で作成する文書は、国語力があれば書けるというものではありません。それぞれの文書に対する知識が不可欠です。それゆえに、筆者はIT 企業のマネジャーから「部下の文章力を高め、質の高い文書を作るにはどうしたらいいか」という相談をよく受けます。IT エンジニアが作成した文書をリライトしてほしいという仕事も頻繁にあります。
 例えば、議事録を作るにしても、5W1H (いつ、どこで、誰が、何を、なぜ、どのように)が漏れていると、読み手が中途半端な理解にとどまってしまう恐れがあります。だからと言って、国会の会議録のように誰が何を言ったかを忠実に再現した長大な議事録では、読み手が決定事項を把握するのに苦労を強いられることになります。
 本書は、ビジネスの現場でIT エンジニアがよく作る代表的な12 種類の文書(設計書類やプロジェクトマネジメント関連書類は構築やプロマネの実務書で扱うべきものなので、本書では取り扱わない)について、それらを書く上で必要な知識と方法をまとめたものです。中には、今すぐには作成が求められない文書もあると思いますが、考え方や作り方を知っていれば自身の活躍の幅を広げたり、ビジネスのヒントをつかんだりしやすくなるはずです。

 一般的な文章作成術の書籍とは違って、12 種類の文書がそれぞれどのような役目を担っているのか、その役目を果たせるようにするには何が大切なのかについて、具体的に説明します。どちらかといえば、IT エンジニアの仕事術の本に見えるかもしれません。だとしたら、それでいいのです。なぜなら筆者は、ITエンジニアにとって文章力は、スムーズに仕事をして、ビジネスを成功に導くための強力な道具だと考えているからです。
 仕事のできる人は、自分の考えを分かりやすく、相手の心に響くように伝えられます。中には「個性的」な文章を書く人もいますが、冒頭に挙げたような苦言を呈されることはありません。
 本書が、顧客や上司からその文章を褒められるだけでなく、「仕事ができるようになりたい」というIT エンジニアの役に立ったとしたら、それに勝る幸せはありません。

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