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「名ばかり管理職」と成果主義の爪あと

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 先日のNHKスペシャルでの「名ばかり管理職」の特集を、人事コンサルタントとして興味深くみた。
http://www.nhk.or.jp/special/onair/080331.html

 今年の1月28日に、世間を驚かせた日本マクドナルドに対する判決は皆さんもご記憶に新しいところだろう。長時間労働を余儀なくされた店長に「管理職」を理由に残業代を払わなかった日本マクドナルドに対し、東京地裁は未払い残業代など約755万円の支払いを命じた判決である。日本マクドナルドは控訴し、現在も争われている。

 NHKスペシャルは、この判決以降話題となっている「名ばかり管理職」について、世論調査や店長への密着取材により特集した内容であった。

 労働基準法では、労働時間を1日8h・週40hと定め、これを超えると残業代などの割増賃金を払わなければならない。しかし、管理職はその対象から外れる。法律が定める管理職の条件は、「経営者と一体的な立場」・「労働時間を管理されない」・「ふさわしい待遇」の3つとなっている。

 「名ばかり管理職」とは、人件費の削減を目的に、本来管理職にはあたらない職務の者を「管理職」として、残業代を支払わないことを指す。こうした『名ばかり管理職』は、十分な経験を積まないうちに「管理職」に就かされる。

 実際にNHKスペシャルでは日本マクドナルド以外にも、某コンビニチェーンの店長だったという人も取材していたが、この人もやはり入社して1-2年で店長になったとのことであった。そして、店舗で唯一の社員である彼が人手不足を補うために、慢性的な過剰勤務になっていった様が描かれていた。ちなみに、テレビに取り上げられていた彼の勤務時間表は、朝5時ー朝5時(24時間労働)といった内容がほとんどであった。長時間労働、そして労働量に比べれば低い賃金で企業に酷使されるこれらの「名ばかり管理職」には、体調を崩す者も相次いでいるのが実態のようだ。コンビニ店長の彼も、今は体を壊して休職している。

 外食チェーンやフランチャイズの小売業を中心に似たような立場の店長は多い。競争が激しく、絶えず人件費の削減に晒される状況が、「名ばかり管理職」を生む素地になっている。

 最近は、店長を管理職から外したり、管理職でも残業代を払う企業が増えている。紳士服のコナカは未払い残業代を求めた元店長と解決金の支払いで合意した。またセブンイレブンジャパンも最近では直営店の店長に残業代を支給する発表をしたばかりである。

 しかしながら、私個人としては、店長を管理職から外したり、管理職でも残業代を払うという対応策では根本的な解決になっていないと感じている。そもそも、「長時間労働をどう解決するのか」という問題を先送りした対応に思えるのだ。「ワークライフバランス」が声高に叫ばれる昨今、長時間労働をしていても、対価が見合っていればいいという訳にはいかないだろう。

 管理職の長時間労働は、昨今の経営上の課題に「人手不足」が叫ばれていることとも、実は密接に繋がっているのではないかと思う。というのも、2000年前後の日本では、成果主義と言う名の総人件費の削減が徹底して行われた。それにより、結果として管理職の給与は相対的に削減されたというのが正直な所であろう。また、成果主義では、「出来る人をどう育てるのか」という点が抜け落ちている企業が多い。結果として中間管理職は疲弊し、企業に人を育てる文化が薄れた。こういった一連の流れと「名ばかり管理職」は一体的な問題であると思う。中間管理職は給与が上がらず疲弊している所に、企業は人を育てないから人手不足を補えず、過剰労働に拍車がかかるといった図式だ。

つまりはこの問題、人材を育てて、大事にする文化をきちんと企業に根付かせることが必要だと思うのである。

 もう一つ「名ばかり管理職」の大きい問題を指摘するなら、「経営者と一体的な立場」を管理職と呼ぶと定めている点だ。昔の個人商店に毛が生えたレベルの企業であればいざ知らず、今の大企業に「経営者と一体的な立場」の人がどれだけいるだろうか。経営層の数人以外は管理職ではないとでもいうのだろうか。ここは確実に実態にあった内容に法改正が迫られるべきだと感じている。

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