竹内義晴の、しごとのみらい:ITmediaオルタナティブ・ブログ (RSS) 竹内義晴の、しごとのみらい

10年後、仕事を「ツライもの」から「楽しいもの」に変えたい

親しくさせていただいている工務店の経営者ご夫婦がいます。昨今の不況もものともせず「自分達の力でなんとかしなければ!」と、とても勉強熱心なご夫婦です。

工務店を訪ねると、奥さんから「竹内さんって、コミュニケーションのプロなんでしょ?○○さんって知ってます?」と聞かれました。その先生は有名な方で、ご夫婦は顧客と信頼関係を作るためのコミュニケーション手法をその先生から習ってきたのだとか。セミナーで教わったこと、実践したことなどをお話してくださいました。

セミナーでは、「顧客との信頼関係を築くためには、話し方やしぐさなど、顧客がやることをとにかく真似ろ」とか、「『はい』と3回は言わせることが大事だ」とか、「最初の7分で勝負は決まる」などと指導されたそうです。

これらは、方法論として有効です。類は友を呼ぶという言葉があるように、「話し方やしぐさなど、顧客がやることをとにかく真似る」というのはマッチングと呼ばれていて、信頼関係を作るために非常に有効な方法です。また、「『はい』と3回は言わせる」のはイエスセット法と呼ばれていて、これも有効な方法です。最初の印象が肝心なので、「最初の7分で勝負は決まる」も確かにそうなのでしょう。実際、私が関わっている講座の中でも、このようなトレーニングを行うシーンがあります。

奥さんはこう言います。「竹内さん、お客さんの真似をすると反応が良くて、何でも話してくれるようになるんですね。なるほどな~と思って。でもね、竹内さん。お客さんの真似をすると、確かに反応が良くて、何でも話してくれるようになるのだけれど、お客さんは『馬鹿にされている』とは思わないのかしら?」。実際社長は「なんだか、お客さんをだましているような気がする」「そんなやり方でうまく行くはずがない」と、その方法に納得いかなかったのだとか。

私はこう答えました。「同じ関わり方をしても『お客さんの悩みや気持ちを理解しよう』と思って接すればお客さんは信頼してくれ、何でも話してくれるでしょうし、『お客さんをこちらの都合のいいように誘導しよう』と思って接すれば、そのような結果になりますよ」。それを聞いた社長は「竹内さん、やっぱりそうだよね。ただ真似をしてもダメだよね」と、わが意を得たり!という表情、声のトーンに変わったのでした。

言葉(コミュニケーションスキル)というのはナイフと同じなんです。ナイフは相手のことを思い、おいしい料理を作るために使えばすばらしい道具になるし、こちらの都合で使えば、殺人の道具にだってなるでしょう?

だから、表面的にテクニックを使っても上手く行くわけではないんですよね。奥さんが言うように「この人、さっきから私と同じことをしてる。私のことを馬鹿にしているのかしら?」と、逆に不信感を抱かれる危険すらあるわけです。単に真似だけされたら誰だって嫌でしょう?もし、「何か、こちらを操作しようとしているな」と感じてしまったら、もう金輪際関わりたくないと思うでしょう?

なぜ、こう言いきれるかというと、私も以前、習ったとおりにやってみて、たくさんの失敗を繰り返し「理屈どおりではないな」ということを経験してきたからなんですよね。その結果たどり着いたのが「こちらの気持ちの持ちようで、結果は大きく変わるのだな」ということでした。

だから、お客さんのしぐさをただ真似するのではなく、お客さんが安心して話せるように、気持ちよく話せるような場を作る。そのために、少し雰囲気を合わせる。お客さんが「今年は冬が厳しくて、家中が寒くて困っているんです」と言うのなら、お客さんの悩みに共感し、「なるほど、今年は寒波が続いていますから、寒さにお困りなのですね」とお客さの会話を繰り返しお客さんに気持ちを確認する。このように、お客さんに寄り添うことが結果的に「合わせる」ことになるんです。

「『はい』と3回は言わせる」もそうです。「人は何度か『はい』と同意すると、すぐには反論しにくくなる」から3回「はい」と言わせるのではないのです。「寒さにお困りなのですね」とお客さんに寄り添えば「はい、そうなんです」は自然に出てくるし、お客さんが本当に困っていることを知るために、「今のお住まいでお困りのことでもあるのですか?」と問いかければ、「キッチンが狭くて困っています」という悩みを話してくれるでしょう?「なるほど、キッチンが狭くて困っているのですね。毎日のことだから大変ですね」というねぎらいの一言が、「はい、そうなんです」を生むのです。

「最初の7分で勝負は決まる」もそうです。お客さんが心を開いてくれ、悩みを共有してくれたら、別に8分でも9分でもいいのです。

「顧客を何とか『うん』と言わせる」ことが大事なのではなくて、「お客さんの悩みや気持ちを理解しよう、お客さんに最大の価値を提供しよう」という気持ち。その気持ちをより表現するために、少し会話や振る舞いを合わせたり、意識したりするんです。そうすると、自然に寄り添う形になっていきます。

工務店の奥さんが抱いた違和感も、社長が抱いた「なんだか、お客さんをだましているような気がする」という気持ちも、「お客さんに寄り添おう」という気持ちがあればこそ。私はこのご夫婦とご縁があって本当に良かったと心から思いました。そして、ちょっとしたヒントをお知らせしたのでした。

最後に……ビジネスに関わるコミュニケーションをご指導されているみなさんの中には、受講者の成果を本当に望み、ご自身で実践された方法を伝えられている諸先輩がたくさんいらっしゃいます。一方で、相手を操作するようなキャッチーな言葉で、テクニックが中心の方もいらっしゃいます。「はい」と3回言わせれば相手は落ちる?ふざけないでください。テクニックだけでは人は心を動かしません。むしろ、関係を壊してしまう場合があることをよく理解して欲しいと切に願います。お客さんに寄り添う気持ち(あり方)と、効果的な方法(やり方)が合わさったときにお客さんは信頼してくれるのです。

そして、コミュニケーションを学ばれるみなさん、いろんな方がいるので教わる人をよく選んでくださいね。有名な人だからといって、それが正しいとは限りません。少しでも「本当にそんなので上手くいくの?」と疑問を抱かれたら、みなさんが抱かれた感覚のほうを信頼してください(直感もすばらしい情報です)。情報を収集して、感性や普段の発言が自分と合う方から学んでくださいね。

今日は少し、辛口の内容となりました。

タケウチ

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コメント
大川宗之 2011/12/27 12:35

私もコミュニケーション・コラボレーションに関わる身ですが、大変腑に落ちました。良いエントリをありがとうございました。

タケウチ 2011/12/27 16:56

大川さん、コメントありがとうございます。
大川さんもコミュニケーションに関するお仕事をされていらっしゃるのですね。私も、本当に役立つ情報をお知らせしていきたいなと思います。


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プロフィール

竹内 義晴

竹内 義晴

NPO法人しごとのみらい理事長
コミュニケーションの専門家 研修講師 心理学トレーナー 「職場がツライ」を変える会話のチカラ 著者。

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