住民票をとらなければいけない用事ができたので、試しに川崎市の行政サービス端末を使ってみることにした。行政サービス端末は近くの行政サービスコーナーに設置されていることを確認していたので、そこに行ってみた。まず、ショックを受けたのは、人がサービスする行政サービスコーナーの業務開始は7時30分なのに、無人の行政サービス端末は8時30分からしか使えないことだった。少し待てば行政サービス端末が使えるタイミングだったので、書類に記入したり印鑑を押したりする手間がない端末の業務開始を待つことした。

行政サービス端末を使うには、「かわさき市民カード」か「住民基本台帳カード」のどちらかが必要だということは、調べてあったのでしていた。なぜ似たようなカードが発行されているかはよくわからない。とりあえず以前別件で取得した住民基本台帳カードを持っていたので、行政サービス端末を使うことはできるはずだ。

もう一つ重要な点があった。住民基本台帳カードには、「有効な公的個人認証サービスの電子証明書が格納されていなければならない」ということだ。このあたりでだんだん「雲に巻かれる」雰囲気が出てきた。そういえば、カードを作るときに電子証明書を入れるかどうかを選択させられたように思う。そのときは、電子証明書が必要だったので、電子証明書入りにした。しかし電子証明書が格納されていないカードに何の意味があるのであろうか?

8時半になり行政サービス端末が動き始めたので、証明書発行を選択して、端末にカードを差し込んだ。まずパスワードを聞かれたが、タッチパネルのキーボードは、PC の配列ではなく、abc 順配列なので、文字を探すのに時間がかかる。大文字は shift lock される大文字キーを押して入力して、大文字が終わったら小文字に戻さなければならない。パスワードを入れ終わると、証明書の選択画面が出てきたので、住民票を押したところ、もう一度パスワードを聞かれた。再び、使いにくいキーボードでパスワードを入力すると、なんと「利用者登録がされていないので、まずは利用者登録をしろ」というような意味のメッセージが出て、カードが端末から出てきてしまった。「利用者登録」というのも意味不明だが、この重要な条件を知らなかったために、利用者登録から始めなければならなくなった。

画面を見ると端末から利用者登録ができるようなので、それを選択してカードを入れた。おっとまたパスワードの入力だ。何回入れさせれば気が済むのだろうか。先ほど利用者登録ができていないというメッセージを出したときに、カードを返さずに(セッションを切らずに)利用者登録画面に行ってくれれば、このパスワード入力は不要ではないかと、いらつきながらパスワードを入れた。利用者登録とは、このカードで可能なサービスを選ぶ作業のようであった。住民票とか戸籍とか証明書ごとに「登録する」「登録しない」が選択できる。将来、何に使うかわからないので、すべての項目で「登録する」を選んだ。選ばないという選択肢を作る意味は不明である。こんな選択がなければ、利用者登録も不要であろう。そうして、予想通りこの作業が終わると、カードが返却された。

ようやく住民票の取得のための操作である。カードを入れてパスワードを入力した。さすがにこれだけ入力すると、この変なキーボードでのパスワード入力にも慣れてきた。住民票の交付を選んで、いくつかのオプションを選ぶと、すべて正しく操作を終了することができたらしく、発行料300円を入れろという画面がでた。自動販売機のようにコインを入れると、住民票が印刷されて出てきた。

すべての操作にかかった時間は10分以上。人がいるカウンターでは待っている人はいなかったので、申請書を手書きして、印鑑を押す手間をかければ、端末よりも早く住民票を手に入れることができたであろう。

この端末は、行政側が要件を決めて発注したものであろう。確かに住民票を発行するという機能は動いているし、おそらく当初必要とされた要件はすべて確実に満たしているであろう。しかし、利用者側にとっての使いやすさが、全くといってよいほど考慮されていない。住民票の発行という業務は、既存の業務であるからその業務を端末に置き換えただけの用であるが、既存の業務にはパスワードの入力も、利用者登録もない。こういった新しい物を作るときは、頭で考えただけでは決して使い物になる物はできない。そのために、製品開発に置いてはプロトタイプを作って、実際に使ってみる UI (ユーザインタフェース) レビューというものが行われている。この行政サービス端末は、UI レビューが行われなかったか、行われたとしても不十分であったことは明らかである。運用に関しても、人が7時30分から動いているのに、機械が8時30分からというのは全く無駄な話である。これまでよりも手間がかかって、複雑な行政サービス端末を使うモチベーションは、普通の人にはないであろう。もし本気で行政サービス端末を使わせたいのなら、銀行のように端末を使うと手数料を割り引くなどしても良いと思う。

しかし、実際に手数料が安いという理由で、この端末を使う人が増えると、使い方がわからずに端末の前で途方に暮れる人が多発して、よけい人件費がかかるということになるな。端末があるのに、端末を使うことがあまり奨励されていない雰囲気を感じるのは、そういう事情があってのことかも知れない。

Katsushi Takeuchi

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竹内 克志

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電子機器のハードウェアとソフトウェアの融合を模索中。
日本およびアメリカで一貫してソフトウェアの製品開発を担当。ソフトウェアに限らずテクノロジー全般に興味を持つ。

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