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通信業界特殊偵察部隊のモノゴトの見方、見え方、考え方

Starlinkのアンテナ設置の話から気が付いた工事に資格が必要かどうか議論の存在

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ふと気になって調べてみたのが、PoEのLANケーブルに36V以上の電圧がかかる場合(たとえばStarlinkの引き込みケーブルとかも含むんですが)、ケーブルが転がしなら電気工事士免許不要だけど、これをモールに収める場合には「(電気工事士法施行規則第2条第1項に基づく電線管、線樋ぴ、ダクトその他これらに類する物に電線を収める作業」を厳密に解釈すると電気工事士免許が要るんじゃないかという疑問。

なお、調べてみたらやはりいくつか議論があるのがわかってきました。ただし主張されている方が電気側=強電側の方なのか通信側=弱電側の方なのかによって一部主張が異なっていて、でも共通しているのは法解釈の曖昧さが現状は簡単に解決できないというところのようです。もっとも弱電側の方の主張の方が「技術動向からこうなってるんだし危険はないと思われるから電気工事士じゃなくても良いんじゃない?」という主張が多いようには見受けられる気がします。

因みにどういうところが多く議論になるかというと...
たとえばPoE Hub使ってる場合、その先につながる機器との間のケーブルをモールに入れるとき。
たとえばStarlinkの引き込み線をモールに入れるとき。

36V以上の電圧がかかるケーブルの取り回しかぁ

因みに既成のケーブルを機器に接続する場合、それが機器間の接続であれば接続作業自体には免許は基本的には必要がありません。ただし通信事業者や機器設置者との間の責任分界点の話や、あるいは通信機器そのものの設置に関わる部分、更にはデータセンターなど管理対象の規模によっては公的あるいはその場所での何らかの資格が必要になることがあるのは事実ですが。

で、それを踏まえての話なのですが、要は機器間接続の場合にケーブルの固定をしない「転がし」の状態なら基本どんなふうに敷設されていようがその場所の責任なので別に問題はありません。

例えば家庭や通常のオフィス環境での床や壁面からのLAN配線、あるいはマシンルームの上げ床のフロアパネル下とか天井近くを這わせてる配線ラック上を伸ばして接続してるならOKだけど、PoEで使う=36V以上の電圧がかかるLAN配線を配管なりモールなりに入れるのは法令上電気工事士の免許が必要という解釈ができるよねという話なんです。

「転がし」じゃない配線って結構普通に見かけるんですよね

例えばルータなどがフロアの中にあって、そこから天井に向けてLANケーブルを伸ばす場合に壁面にモールを張ってその中を通すのは珍しい話ではないと思うんですが、これがオフィスフロアの天井や壁面に設置したPoEのAPに繋がっていたりします。あるいはもっと違う次元の話で言うと、ビル縦系の配管は防火上の問題から管路が金属パイプのケースが普通にあって、そうすると縦系を通すのは電気工事士免許が必要って解釈できる気がします。

その縦系の配線の部分でいうと、最初から36V以上の電圧がかかるPoE機器がつながる可能性がある場合には配電盤施工と同時に電気工事士が縦系ケーブルを敷設してIDFのところに転がしておく必要があるって解釈自体は成立する気がするんですよね。

もう少し具体的な話にすると、例えばCISCOとかのWiFi APをPoEで使ってるとき、普通はLAN工事の一環としてLANケーブルの敷設と機器接続を弱電屋がやるケースが殆ど(現場の職人さんの手配状況によっては強電さん=電気工事屋さんがやるケースもある)な筈なのですが、ふと思い起こすと今のCISCOのAPのPoE Power Injectorって出力がDC50Vくらいなんですよね。

ということはLANケーブルが天井パネルの上での転がしなら誰が引きまわしてもOKだけど、床面やルータラックから天井への立ち上げとかでモールに入れるのは電気工事士の施工範囲になり、更には壁内のPF管とかに通すのも本来やばいって話になるのかなと思った次第なんです。

曖昧な解釈

うーん
そもそもPoEを前提でケーブル敷設するケースってどれくらいあるんだろうと言うところに更に考えが進みます。

オフィスビルとかで複数の天井APや壁面APが設置されているケースは少なからずあると思うのですが、そのためのケーブル敷設工事ならPoEが前提になるから例えばビル新築時の弱電図上は36V以上の電圧はかからないケーブルですよと言い切ることは難しい気がしています。


もちろんフロアのレイアウト変更などで既設ケーブルの先の機器を変更したとき、例えばそこに36V以上の電圧を必要とするPoEの機器を新たに繋ぐような場合には「初期工事時点でモールにケーブル収めたんですけど、あとから勝手にPoE機器が繋がって、しかもそいつが50Vになるなんて知らんかったんですよ」って話でよいのかなという疑問です。勿論既設ケーブルが元々モールに入っている場合にはそのまま使っちゃうんだと思うんですが、なにかの都合で同じモールにLANケーブルを増設するとか、あるいは既設のケーブルを抜いて引き直すとか。

なんだか厳密に考えるとどんどんループに入ってしまいます。

まぁ壁面とかにすぐ入るLANケーブルだとネズミに齧られたりしない限り劣化って殆ど考えなくて良いからケーブル自体から発火するとか考えなくていいけれど、どこかで床を這う場合には踏まれたりして被覆が劣化して芯線が露出するとか断線する場合はあるので、そこに50Vとかの電圧がかかってる場合はちょっと怖いっちゃぁ怖い話ではあります。だからといってモールに入れるのは云々となると、うーん。どこまでどういうふうに法律を解釈すれば良いんだろう。


仮に「モールや配管にPoEのケーブルを入れる作業は絶対に電気工事士の免許が必要である」という行政当局からの指導が行われた場合、LAN工事の仕事を続ける場合にはそもそも弱電屋だからと言う事で取っていなかった電気工事士の免許取れよという話になりかねず、色んな人が泡吹いて倒れるような気が少しだけしています。

議論の対象となるのは電気工事士法施行規則第2条第1項の解釈なのですが、実は電気工事と通信工事って近いようでめちゃめちゃ遠くて、殆ど別世界のように見える部分もあります。私の場合は無線屋(第一級陸上特殊無線技士) & 弱電屋(工事担任者AI(アナログ)三種・DD(デジタル)三種)な人なので、強電さん(電気工事)の世界は基本的な知識は持っていますが資格は持っていないヘタレです。ということで電気工事側の解釈を厳密にすると例えば天井や壁面設置のWiFi APやStarlinkのアンテナに伸びるPoEのケーブルをモールに入れる作業はできなくなるんですがハテサテ。

因みに純粋に通信機器関連の配線や設置作業のために必要な免許は存在します

例えば自宅に引かれている電話の壁面コンセントやローゼットの作成、あるいは光回線のONUやVDSLモデムの設置作業の場合には電気通信の工事担任者という資格が必要であり、ユーザーが勝手に設置や移動の作業をやるのは本来NGです。

更に責任分界点の問題点があって、ユーザーには接続機器のコンセントやLANポート引き渡しとなるので、本来ユーザーが触れるのはそこに挿すケーブルから先になります。なお厳密にはONUやVDSLモデムの移動や電源の入れ直しなども本来は提供している事業者の責任範囲になるのですが、現実問題としてユーザー宅内の機器としてユーザー自身が触るケースは普通にあるのは多くの方が御存知の通り。

ただし責任分界点としてはそういう区分ですね。

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