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ビジネスモバイルITベンチャー実録【朝メール】から抜粋します

経営は資金繰りですよ。強いものが勝つんではなくて、勝ち残ったものが強いんです。

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★事業がなかなか軌道に乗らない。そのような苦しみの真っ只中にいたときにあるパッケージソフトを自社で直販する先輩社長にお話しを聞きに行きました。以来5年近く経ちますが、未だに沢山学べることがあると思いました。今朝はそれについて。

【朝メール】20050502 20050506 20050510より__

■外注はしない。自社で新卒を中心に事業を構成している

「今、年商7億円なんですよ。派遣業界専門のソフトパッケージを1200社に販売している。日本で派遣との付く会社は2500社ほどあるんですね。そして、そのうちの500社ほどは架空の会社です。つまり、残り2000社のうちの1200社がうちのパッケージを使っている。」

「すごいですね。小さいところもあるでしょうから実質殆どの派遣会社が使っているということですね。寡占ですね。ということは、今後の伸びは厳しそうなのですが、保守がメインで事業運営なされているのですね。社員は何名くらいでそれをまわしているのですか?技術者は何名いらっしゃるのですか?」

やはり、普段、どのように組織を構築していこうかといつも思っていることがまずストレートに質問になって出てきます。

「30名くらいです。そのうち技術者は5-6名ですね。」

「後は?」

「後は営業が5-6名、そして10数名がインストラクターです。社員の平均年齢は27歳です。毎年5名は新卒を取っていますよ。新卒はやはりいいですよ。すぐに実力も付くし。」

頭の中で「定着率が低いのかな」などと思いながらも質問を続けます。

「技術は外注されないのですか?」

「全くしませんよ。外注をしていたらお金が残りませんから。うちは全部がその若手技術者だけで運営していますよ。パッケージは私がほぼ今の形にまで仕上げました。後は5-6名もいれば充分にバージョンアップをしていけるのです。そのおかげで粗利率が8割ですよ。」

「すごいですね。粗利5億円ですか。社長はこのパッケージソフトご自分で現在の形までに開発されたとのことでしたが、元々はソフト技術者でいらしたのですか?」

「いえいえ、私もメーカーで技術者やっていましたから。顕微鏡の開発ですよ。ずいぶんと知らぬ間にメーカー技術者だということを鼻にかけているんですよ。独立すると、本当に、まず、誰も相手にしてくれない世界から始まりますよねぇ。今まで自分がいかに無意味なことを鼻にかけていたかということを充分に知らされる。

「そうですね。全く分野違いで、かつ、小さいですからね。」

「そうです。私は32歳でサラリーマンから独立したんですね。当初は仕事が全く無くて。そのため下請けの下請けで食いつないで行くんですね。それでも小さいからとか、実績がないからといって殆ど仕事が来ないんです。」

「よく派遣業務とか受託をやったりしますが?」

「そうです。まず、自分を自己派遣しました。東芝系の会社に。そこでソフトの勉強をしながら徐々にやったんですよ。そこで月間の残業時間が200時間でした(笑)。」

「残業が200時間もですか!?」

「そうなる仕組みをしているんですよね。まず、社員がコンピュータの使用時間でいいところを占領してしまう。そして、普通の残業時間には一時下請けがそこを使う。そしてわれわれみたいなところは誰もが使わなくなった真夜中とかにそれを使うんですよ。」

「そういった時代があったんですね。そして、それから少しずつ受託をされるようになったのでは?」

「受託もなかなかやらせてもらえませんでしたよ。ほら帝国データバンクとか、興信所とかがやってきて調査して、『取引はしないほうがいい』と言われてしまいますからね。」

■ターゲットした業界でのガリバー的存在になる
  こうすると頭打ちになるどころか新規案件も継続的に入ってくる

その製品は1200社への販売実績があります。きっとその保守だけでもビジネスが安定している状態にあるのだろう。つまり、自分たちも目指している『固定ビジネス』の確立がなされている状態だと考えました。続けて聞いてみます。

「30名の社員さんでやっていらっしゃる、、、つまりそれは、保守の業務からの売上が継続的に見込めることで安定させているんですよね?」

表情を変えずに社長は答えます。

「いいえ、新規案件からの売上が殆どですよ。年額保守は初期費用の8%ですからうちの売上の中ではあまり多くを占めていません。やはり初期売上です。うちのパッケージはまず買うと300万円、そしてそこにクライアントを一つ足す毎に50万円必要なんです。」

「えっ?ということは新規案件からの売上でですよね?派遣業界2000社の内1200社と、殆どのシェアをお持ちでいて、さらに新規案件があるのですか?普通、サチュレートするのではないですか?」思わず手振りでサチュレートするカーブを描きます。

「ええ。派遣業界ってある意味、淘汰が激しくって、雨後の筍のように新しい会社ができるんですね。だから新規案件が結構あるんですよ。派遣会社を開業するのにうちのパッケージが必要だということが定着してきている。うちのソフト実績を100とすると、2番手は7~10くらいの実績しかないですから、どうしてもうちのものを買うことになるんですね。」

「もちろん、その業界の伸びがあったことは必要ですよね?」

「そうですね。そういう意味では派遣業界が出来始めた80年代の後半からともに成長できたのが幸運だったかも知れません。」

法人向けのパッケージソフトを販売しているにあたって保守よりも新規での売上継続を続けているようです。ターゲットとする業界を狭く絞り込む、そしてその業界でのガリバー的存在になる、こうすると頭打ちになるどころか新規案件も継続的に入ってくることを実践しています。

■直販でいくか代理店販売でいくか、宣伝費を思い切れるか!?

新規案件といえば、代理店政策をいかにうまく展開できているかが成長とドミネーション(市場支配)のポイントです。追って聞いてみます。

「新規案件売上が殆どということは、営業が大変そうですね。ずっと走り続けなければならない。売れなければ倒れてしまう。代理店政策とかをきっちりとなされているのですか?その辺の勘所をお教えいただけませんか?」

「あ、うちは全部『ジキ(直)販』です。代理店経由で販売しようとした時期もありましたが、結局は上前をはねる意識が強いけど、実際には動いてくれず、売れると『俺が売ってやった』的な態度をされてしまうのですから。『コンチキショー』って思いましたね。同じ苦労をするなら利益率が高いほうがいいじゃないですか。直販だから粗利率80%ですよ。うちは。」

「でも、営業マンは確か5-6名とおっしゃっていた。それで足りなくありませんか?」

「そうです。それくらいできっちりとフォローが出来る業界です。」

「あ、いいものをお見せしましょう。」

そう言って浅野さんは席を立ち、会議室の角にある電話に向かいます。

「あ、あのぉ、日経新聞のあれと、あと、パンフレット一式、2階の会議室まで持ってきてくれない?」しばらくすると、事務の女性が資料を一式持ってきました。社長は日経新聞を広げると続けます。

「ほら、ここ、4月22日版ですけどねぇ、、、」

新聞のページを覗き込むと全面広告があります。良く見てみると『The Staff2000』とか『ビジネスアプリケーション』とか書いてあります。そしてセミナーの案内を出しているのです。

「こ、これ、日経の全国紙での全面広告ですよね。一体いくらかかるのですか?」

「あ、だいたい1500万円です。これを毎月出しています。」

こともなげに言うのを聞きながら頭の中では[1500万円×12ヶ月=約2億円]!!
と、こんないう計算をしていました。

「他にもですねぇ、ゴルフとかタイアップして提供したりしましたよね。やはり法人向けですから、圧倒的に見る人たちは日経新聞やゴルフ番組なんです。そこに広告を出し続ければ、営業はできます。宣伝費は出していますよ~。あと、この機関紙、年4回出しているんですけどね。毎号4000部刷っています。」

そういって渡されたものを見てみると、『avancer 11月号』と書いてあります。立派な写真付きの雑誌です。

「こういったものを発行するの、社内で企画とかをされているのですか?」

「いやいや、全部外部に委託しています。年間1000万円で企画から記事から印刷から全部込み込みです。」

「おおっ、それくらいでできるのですか、、」

ここではパッケージソフトの販売をして年商7億円です。粗利率80%ということは5億5千万円くらいのなかから営業管理費を出しているのです。そのうち、宣伝費はどうやら半分近く2億円を超えるところで推移しているようです。

■決算の〆は何月がいいのか

売上の発生時期についての話題になりました。

「法人向けの販売の場合、やはり年度末、特に3月に売上があがる現象はあるのですね。今年、うちでは3月に売上が突出したのですが。」

「ありますねぇ。駆け込みで費用処分するところが実に多いですよ。でも、問題は4月以降、つまり、新年度にそのフォローする費用と工数を取られてしまうことにあるんですね。うちなんかは年間の4分の1は3月に売上が発生しますね。」

「4分の1ですか。2億円近くが3月ですか。確かに、、、年度末に売上が上がるのはいいですが、その後に費用発生するのは会計的にもしんどいですよね。」

ニヤッと笑って先輩社長は言います。

「だから、うちは10年前に決算を2月締めにしたんですよ。」

「えっ?」

「2月に〆れば3月から新年度です。そこに年間売り上げの4分の1が発生するので、しばらく安心です。特にキャッシュフロー的な心配がなくなってきますね。」

「そういう理由で決算期を変えることって、、、あり得るんですねぇ。」妙に納得してしまいました。

決算をするということは損益を固定することであり、新年度はゼロからクリーンスタートをするということです。3月の年度末に対する駆け込みで売上が発生したとしてもその後、新年度に「やらなければいけないこと」が多数残るよりはいいわけです。

さらには、3月に他社がばたばたしたところに一緒になってばたばたしている必要というのは全く無いわけです。早期上場を目指す際のアドバイザーがよく言います。「ぐっと伸びたときにそこを起算にして新会計年度にするんです。そうすれば会計上綺麗な数字で上場に向けたスタートを切れます。」

自分としては「そんなことで決算期を変えていいものだろうか」と疑問を持っていたのですが、「別にそれは3月にしなければならないなどという法律は無いわけで、フレキシブルに考えていい部分なのだ」とあらためて思いました。話を続けます。

「確かに、そうすれば、いつも新年度からいつもプラスのキャッシュ状態で進んでいくことが出来るわけですね。」

「そうなんですよ!経営はキャッシュです。とにかく、何が何でもそれをショートさせない、これだけが本当に重要なポイントなんですね。そこのつぼを押さえておくことがいかに大切か、これは独立してみたらわかるでしょ?そういうことなんですよ。キャッシュがプラスであれば利益が上がる。そこで高い事業税や所得税を払うんですよ。ほら、資本金が5000万円を超えると事業税が高くなりますよね。だからうちは資本金を4000万円に抑えてあるんです。」

「それで利益は社員になるべく還元されているのですか?」

「そうです。頑張った人たちに戻すんです。うちの社員の平均年齢は27歳です。毎年5人は新卒を採っていて、社員数は30人ですね。新卒であれば月給20万円で採用できるし、賞与は年3回。一番稼ぐトップ営業は年間賞与が27か月分ですよ。なるべく儲けは社員に還元するのです。」

「27ヶ月ですかぁ!すごいですね。月額20万円としてもボーナスで540万円ですか。」

「坂本社長ね、本当に経営は資金繰りですよ。資金繰りさえなんとかして、とにかく生き延びることです。死んだらこういわれるだけですからね。『それみたことか』って。強いものが勝つんではなくて、勝ち残ったものが強いんですから。」

「『勝ち残るから強い』ですか。確かにそのとおりですね。いつも自分の自分に対する甘い部分をいかに戒めるかというところに腐心しているんですが…」

「何をおっしゃる!人は自分に対して一番甘いんっです。どんなに立派なこと言っているひとでも、自分には一番甘い。そういうもんじゃないですか。戒める必要なんか全くありませんよ!」

「・・・・」

思わず言ってしまいます。

「Aさんって、こういうと聞こえが悪いかも知れないんですが、『ツッパリ』経営者ですね。」

「そうですね。確かに『突っ張って』いますね~!坂本社長、これからも、私と直のビジネスはすぐにはないかも知れませんが、私のネットワークにはどんどんと紹介して差し上げましょう!」

なんとも面白い、逆張り思想の経営者だと思いました。

★ちなみに、その後その人のネットワーク紹介に全く甘えていないところが、振り返ってみると自分は商売下手です。

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