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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

韓国、中国、ロシアと海底送電ケーブルでつなぐことについて

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先日週刊ダイヤモンドのサイトで公開された「ソフトバンクが極秘裏に進めるアジアグリッド構想という奇貨」という記事を非常に興味深く読みました。

韓国、中国、ロシアなどの隣国と高圧直流(HVDC)の海底ケーブルで結び、電力を相互に輸出入することが可能になれば、日本の電力供給の構造は一変します。

日本は島国であるため、何かを発想する際に「大陸と結ぶ」という発想にはなりにくいですが、電力に限らず、ガスや石油の供給でも「国をまたぐ」供給網づくりが一般的であり、今回のような電力需給の逼迫を経験した後では、むしろその方向で考えるべきだと思います。

同誌編集部が推定したアジアグリッド構想の図をお借りして以下に載せます。非常にインパクトのある絵です。

Weeklydiamond

出所:「週刊ダイヤモンド:ソフトバンクが極秘裏に進めるアジアグリッドという奇貨」2011年9月12日

電力供給で大陸と結んだ送電網ができあがると、以下のポイントについて、白紙ベースで新しい枠組みを構想することが可能になり、日本のエネルギー需給には大いにプラスです。

・原子力発電の先行きが不透明ななかで、代替電源である火力の燃料調達の戦略を考える際に、「逼迫」を前提とした思考から、「若干余裕がある」という前提の思考にシフトできる。よって、打てるオプションが増える。
・世界に対して約束した二酸化炭素削減の具体策を再考する際に、上と同様の流れで多くのオプションが得られる。
・現状、国内の系統連系では、出力変動が大きな発電源、すなわち風力の連系可能量に制約があるが、隣国と結んだ送電網があることで、夜間の出力の余剰を隣国に引き取ってもらうことも可能になり、風力発電の連系可能量が増える可能性がある。同様に太陽光発電の連系可能量も増えることが期待される。
・国内だけで電力供給を考える際には、中長期的な電力料金の上昇が避けられないが、中国、ロシアなどから低コストの電力を輸入できれば、価格上昇を緩和できる可能性がある。

日本では引用されることが少ないですが、欧州では大陸とイギリス本土など、海を結んだ送電網がすでにできあがっており、その絵が色々な資料に登場します。10年後、20年後の姿を描いた、もっとたくさんの経路が記されている図もよく目にします。

Eurogrid

赤:稼働中のケーブル、緑:建設中のケーブル、青:計画中のケーブル

出所:Wikipedia: Electric grid

エネルギーの調達は、できるだけ1つの国や1つの供給源に頼ることなく、調達先を多様化し、ネットワーク様の供給網を作った上で、その都度その都度、最適な相手から購入するのが鉄則です(それができないと、ウクライナがロシアから天然ガスの供給を絶たれて政治的圧力を受けるような事態が発生します)。中国だけでなくロシアとも韓国とも結ぶことが可能になれば、買うこちらとしては、色々な戦術が打てるので、価格交渉で有利な立場が得られます。

エネルギーに恵まれない日本としては、高圧直流(HVDC)の海底ケーブルで隣国とつなぐという方策は、中長期的なエネルギー需給を緩和するよい方策だと思うのですが。

追記:

9月26日付日経朝刊5面で、一橋大学名誉教授の今井賢一氏が、「日韓ロにパイプラインを」と主張されていますが、これも同じ意味で、これから現実的に検討すべき方策だと思います。

なお、インフラ投資的な観点から言えば、世界にあまたあるパイプラインが、プロジェクトファイナンスで資金を得て中長期的に利用料で回収するというスキームで事業が成立しているのと同じように、海底送電ケーブルも投資スキームが成立しやすいと思います。従って、「やる気」のある事業者がいさえすれば、具体化は早いはずです。決して夢物語ではありません。

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