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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

[メモ] 中国政府系ファンドCICがGDFスエズの天然ガス事業を買収→その後に起こりうること

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ウォールストリートジャーナルによると、中国政府系ファンドのCIC(中国投資有限責任公司)が世界第2位の電力ガス会社であるGDFスエズ(GDF Suez)の天然ガス部門を買収する交渉が大詰めを迎えているとのことです。

Wall Street Journal: China Investment Corp. Nears Agreement to Invest $4.28 Billion in Energy Firm GDF Suez

■CICはマイナー出資で政治摩擦を避ける

CICは中国政府の膨大な外貨準備高の一部を世界のマーケットで運用しており、2007年に2,000億米ドルでスタートして昨年には運用高が4,100億米ドルに達しています。最近ではエネルギー関連企業への投資を活発化させており、昨年から今年にかけて米電力会社AESに16億米ドル、カナダの石油・ガス開発会社Pen West Energyに4億1,600万米ドルを投資しています。これは今後も急成長が続く中国国内のエネルギー需要を下支えする意図があるのでしょう。

WikipediaのCICの項によると、同社の投資戦略は中国の権益が関わる分野において世界展開を図る企業にマイナー出資で資本参加し、中国側の影響力を高めるというもの。マイナー出資を維持するのは、その国において政治的な摩擦を起こさないためです。上記AESに対する出資比率も15%に留まっています。

GDFスエズは、電力の発電・配電およびガスの配給においては世界最大手ですが、欧州やアジアでの天然ガスの開発・生産事業は同社の売上9兆2,873億円(2010年)の2%弱。これであれば、フランス国内で議論を呼び起こさずに買収が成立しそうです。GDFスエズの筆頭株主は出資比率35.9%のフランス政府です。

同社が天然ガス開発・生産部門を売却する意向があるのは、債務圧縮が目的。おそらくは欧州の金融界で動揺が続いていることから、銀行から返済加速が求められているのでしょう。

■ブラウンフィールドが売りに出される可能性

今後はGDFスエズに限らず、欧米のエネルギーおよびインフラ系の企業が資産の切り売りをするケースが増えるかも知れません。欧州の金融の不安定が今後も続くとすればですが。

日本の商社は海外で活発に発電事業を行っており、大手6社の持分発電容量を合わせるとすでに九州電力よりも大きくなっています。この大規模な展開のベースとなったのが、アジア金融危機で欧米の電力会社がアジアなどで行っていたIPP(独立系発電)事業から手を引いた際に商社が買収した発電資産である、という風に認識しています。

今般の欧州の金融危機でも欧米のエネルギー・インフラ企業がアジアなどで持っている現物資産および出資分を売りに出るとすれば、そこは日本企業の好機だと思います。

複数の日本企業がインフラ輸出の準備を加速化させていますが、外国政府の行う案件の公開入札への参加とその後の事業立ち上げとは少なめに見積もっても3年〜4年はかかり、配当収入を生むのはさらにその先です。それに対して、これから売りに出される可能性のあるエネルギー・インフラ資産は、いわゆるブラウンフィールドですから、保有した直後から収益に貢献します。

新規案件の受注活動はそれはそれとして行いつつ、欧米企業が切り離す可能性のある資産の動向についても注視しておき、投資枠がある場合には迅速に意思決定するのが得策だと言えるでしょう。ブラウンフィールド案件が手元に来れば、インフラ事業の実際的なノウハウも得られます。

国際インフラファンド業界においても今後は売り物が増えるのではないでしょうか。機敏に買いに入れる国内インフラファンドがあれば好機は多いと思います。

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