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ロシアは2兆4,000億円の投資を予定 - 2018年Wカップでロシアに超大型の高速鉄道需要(下)

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ロシアの高速鉄道は2018年のワールドカップのためだけに計画されているものではなく、元々2030年までを見据えた長期計画が存在しています。その枠組みの中で、Wカップの試合が開催される都市については建設の優先順位を上げようということのようです。

ロシア全域の鉄道網は国営企業Russian Railwaysが運営しています。Wikipediaによると総延長8万6,000km。米国に次いで世界で二番目に大きな鉄道網です。従業員95万人、社員数という意味では世界最大の企業の1つです。ロシアの鉄道事業は同社が独占しています。

Russian Railway社のウェブサイトで2030年までの高速鉄道計画マップがありましたので、以下に掲げます(これはWカップ開催決定以前に作成されたもののようです)。これを見るとロシアの高速鉄道および準高速鉄道は以下の3ランクに分けて考えるのがよい、ということがわかります。

Russiahsrplan

・ランク1:最高速度が時速300〜350km
・ランク2:最高速度が時速250km
・ランク3:最高速度が時速160km〜200km

ランク3の時速160km〜200kmはひどく遅いように思えますが、日本でも専用軌道を走る新幹線以外では、営業時の最高速度が160kmを超えるものはないようです。あるQ&Aサイトによると、首都圏と成田空港を結ぶ成田エクスプレスでさえ最高速度130kmだとのこと。これからすれば、ロシアのランク3でもそれなりに速いスピードだということがわかります。

■すでに営業を開始しているランク2の高速鉄道2路線

日本の新幹線に慣れたわれわれからすれば、高速鉄道とは「時速300km以上」という先入観があるわけですが、上のランク2でも立派な高速鉄道ですし、国によってはランク3を高速鉄道扱いしているところもあります(こちらの投稿にあるヨルダンが一例)。数十年も前に建設された鉄道インフラで走る旧型車両が一般的な国では、200kmも出れば十分に速く、二都市間の移動時間も大幅に短縮されるでしょう。

ロシアではすでにランク2の高速鉄道が2路線で営業を開始しています。
モスクワ・サンクトペテルブルグ間
- 2009年12月営業開始、最高時速250km。
- シーメンス製機関車Velaro系を採用。
ヘルシンキ(スウェーデン)・サンクトペテルブルグ間
- 2010年12月営業開始、最高時速200km。
- アルストム製機関車Pendolino系を採用。

しかし、Wカップのために建設される高速鉄道の花形部分は何と言っても以下の区間に建設されるランク1です。

- モスクワ・サンクトペテルスブルグ間
- モスクワ・ニジニノブゴロド間
- ニジニノブゴロド・カザン間。将来はエカテリンブルグまで延伸

■ロシアは高速鉄道に300億ドル(2兆4,000億円)を投資

このランク1に関して、中国製の車両が利用される可能性が高いと新華社が報じています。

China Daily: Russia invites China for high-speed rail co-op

この記事にから、Russian Railwaysは高速鉄道建設に300億米ドルを投資する用意があるということ、調達では公開入札が予定されていることがわかります。新華社の取材に対して、Russian Railwaysの担当者は「中国が落札できそうだ」という意味のコメントをしています。
とはいえ中国側メディアに対するリップサービスであることは確かで、中国の受注が決まったわけではありません。ロシアがEUのインフラ調達ルールに準じる感覚を持っているのであれば、これほどの規模の調達はフェアな国際競争入札で行われるはずです。

300億米ドルは現在のレートで2兆4,000億円。先日、日立の受注がほぼ本決まりとなった英国都市間鉄道の受注額は6,000億円ですから、かなりの大型案件であることは確かです。

Russian Railwaysウェブサイトの高速鉄道セクションを見ると、同社は「ロシア国内における高速鉄道車輌製造」にも意欲があるようです。ライセンス生産を想定しているのでしょうか?だとすれば、受注した企業はそれにも対応しなければなりません。

別な記事ではスペインの車輌製造メーカーTalgoがRussian Railwaysと車両納入契約を交わしたと報じています。こちらはランク2の区間向け(モスクワ・ベルリン間とモスクワ・キエフ間)で最高速度が200km。同社はロシア国内にメンテナンス拠点を設けます。

Rail.co: Russian Railways orders high speed trains from Talgo

Talgoの機関車は列車を停止させることなく、ロシアの標準軌である1520mmからヨーロッパの狭軌である1435mmへ自動的に軌道幅を変更できる機能を持っているそうです。

2018年ワールドカップに向けた高速鉄道建設では、やはりランク1の調達が焦点になるわけですが、これに向けて日本の車両製造メーカーも準備を進めていくものと思われます。中国のように低価格で売る国に対抗していくためには、国際協力銀行の支援を得てロシア側の初期投資負担を軽くするファイナンススキーム(リース?)を用意するといった、新手のアプローチも必要になるのではないかと思われます。

それとともに、ランク2およびランク3の需要についても、依然として好機であることに違いはなく、積極的な営業展開が望まれます。

Comment(5)

コメント

いつも拝見させていただいております。
11日にブラジルの高速鉄道計画に入札企業無しと報道があったのですが、
http://indyglobe.com/?p=925
プロジェクトの実現性の違いは資金力の違いからくる部分が大きいのでしょうか?
私見ではロシアもW杯後はこれらの高速鉄道と準高速鉄道が航空機に対してシェアを維持し続けるのは難しいと感じます。
都市部の人口密度もその他ヨーロッパの高速鉄道に比べれば、ずいぶんと低いのではないでしょうか?

質問ありがとうございます。
ブラジルの高速鉄道案件の場合は、官側の案件設計に無理がありすぎて、民間が受注できないということらしいです。営業年数40年を要求していると、どこかで読みました。一般的にインフラ案件では、官が引き受けるべきリスク、民が引き受けるべきリスクの配分バランスが重要だと言われています。ブラジルの場合は、官が民に無理なリスクテイク(超長期の営業に伴って設備の更新が必要になるかも知れないリスク等)を求めたということになりますね。
ロシアの場合、案件設計がどうなるかまだわかりませんが、民間側から見て旅客収入の不透明さのリスクをうまく吸収してくれる仕組みになっていれば、入札が活発になるでしょうね。(先日のオーストラリアのゴールドコーストのライトレール事例が好例) 最近では、PPP案件を設計する政府側もよく勉強していて、入札が活発になるように、民間側が負うリスクをコントロールするようになってきていると思います。ロシアが勉強しているならば、そういう案件設計になるでしょう。とりとめないですが…。

今泉

ロシアの高速鉄道はおそらく、旅客サービス営業はこれまで通りRussian Railwaysが行い、鉄道車両および鉄道設備の発注のみ、外国企業に行うというパターンになると思います。数十万人いる自社の従業員を活用するためです。この場合、旅客収入リスクは同社がとることになりますね。

Ryusuke

なるほど、つまりはブラジルやフロリダのように、オペレーターから探しているケース、しかもオペレーター側がどれだけオペレーションリスクを負えばいいのかわからないケースは失敗が続いており、成功のケースは基本的にその国の国鉄がオペレーターとして決まっており、車両や設備の導入時に外国のテクノロジーを購入するというケースがビジネスになっているという感じでしょうか。
ただ感覚的に、ロシアの鉄道員が90万人必要で、その雇用を守るためにさらに高速鉄道に投資するというのは、長期的に見れば間違った投資になるような気がします。

今泉

少し違います…。
インフラPPP案件は大きく「独立採算型」(受注企業が自ら顧客と向き合い料金を徴収し、その売上で独立採算にするタイプ)と「サービス購入型」(受注企業の売上は自治体が予め設定して定期的に払う大口のサービス購入費)とに分かれます。前者であれば市場動向によって売上が減少するリスクがあるわけですね。後者は売上が一定するため、採算割れするリスクから逃れられます。
鉄道事業を民間に委託する国・自治体では、前者にしてもよいし、後者にしてもよいわけですが、前者であって、民間が負うリスクがあまりに大きなものでは、入札する企業が増えません。
一方、後者は、オペレーションを民間に委託する場合でも、リスクが小さいため、入札する企業が多数出現する可能性があります。
このように、官側の案件設計次第です。「サービス購入型」でも民間に支払われるサービス購入費は常時一定というわけではなく、民間企業が努力をすれば増えるし、そうでなければ減るというメカニズムを組み込まれるのが普通です。
上述のゴールドコーストの案件では、オペレーションも含めて委託する案件でしたが、サービス購入型の案件であったため、入札企業が多数出ました。

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