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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

ミャンマー・ダウェー深海港の開発パートナーを求めるイタリアンタイ

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今日の日経に「ミャンマー南部の大型開発」という見出しの記事が出ていました。関連事項を以前に調べたことがあるので、新しい情報なども付加して背景を記します。

■ダウェー深海港の位置づけ

アンダマン海に面しているミャンマーのダウェーは現在は小さな漁港です。ここに最大級のコンテナ船が着岸できる深海港を建設すると、ホーチミンシティ、プノンペン、シアヌークビル、バンコクを経由する大メコン経済圏(Greater Mekong Subregion)の南部経済回廊(Southern Economic Corridor)が海に出られることとなり、ホーチミンシティからダウェー、さらにその先にあるインドのチェンナイまで一気通貫でつながります。

Southerneconomycorridor

出所:Asian Development Bank, Logistics Development Study of the Greater Mekong Subregion North–South Economic Corridor

このルートができると、大型タンカーやコンテナ船で混雑しているマラッカ海峡をバイパスできるようになり、ホーチミンシティからインド・チェンナイまでの輸送が14日間から10日間へと短縮されます。時間が短縮されるだけでなく、ASEAN各国の経済活動とインドの経済活動を結ぶ大きな動脈ができあがります。また、タイ、中国、日本による対インド貿易にも大きな意味があります。

ちなみに、日本政府が進めているデリー・ムンバイ間産業大動脈構想に準じる計画として、ムンバイとチェンナイとを結ぶ経済回廊構想も動いているようで、それらと大メコン南部経済回廊を組み合わせると、ホーチミンシティからデリーまでの太いパイプが出現します。

ASEANの最近の会議では、テーマとして"Connectivity"がよく登場します。この「連結性」の1つの例がホーチミンシティからダウェーまでを結ぶ陸路です。

現在、小さな漁港であるダウェーは、将来の物流の要衝と言っていいでしょう。

■ミャンマーから75年のコンセッションを得たイタリアンタイ

このダウェーにおいて、ミャンマー政府から75年にわたる深海港建設・運営と臨界工業地帯建設・運営のコンセッションを得たのが、タイ建設会社最大手のイタリアン・タイ・デベロップメント(以下イタリアンタイ)です。昨年11月上旬にそのことが報じられました。

Reuters Africa: Italian-Thai inks deals for huge Myanmar port project

概要は以下の通り。

・イタリアンタイは75年間のコンセッションをミャンマー政府から得て、ダウェーに深海港と船荷用ヤードを建設。完成後は港湾運用とメンテナンスを行う。並行して石油化学工場、精油所、製鉄所、発電所、バンコクからの道路・鉄路との接続、石油パイプラインから成る臨界工業地帯を建設、運用する。
・深海港は2万〜5万トンの船が25隻同時に接岸できる22の埠頭を備える
・総事業費は最低でも67億3,000万ドル(その後の報道では80億ドル)。完成まで10年。
・250平方キロの敷地に2つの工業地区を造成。付設する発電所の発電容量は4,000MW。

なお、イタリアンタイにとって頭が痛い問題として、ミャンマー政府と中国政府により、チャウピュー(Kyaukphyu)に深海港を建設する計画が持ち上がっています。チャウピューには雲南省昆明から中国の高速鉄道が南下してくる計画もあり、ダウェー深海港にとっては手強い競合ということになるでしょう。

今年6月上旬のイタリアンタイ側の情報としては以下があります。

・出力3,600MW、総工費50億ドルの火力発電所をタイの電力発電公社(Electricity Generating Authority of Thailand)が建設中。他に6,000MWの発電所建設も予定。
・イタリアンタイはミャンマーに属するマルタバン湾(Gulf of Martaban)が産出する天然ガスを得て、日産10万バレルの精製所を運営。(LNG精製ということでしょうか?)
・タイ政府は、ダウェープロジェクトを支援するために、ハイウェイの延伸に300億バーツ、鉄道の延伸に250億バーツを拠出。
・イタリアンタイの資金調達先としては、アジア開発銀行系のAsian Infrastructure Fundをも想定。

■権益の49%を他企業に売却へ

そういうなかで、イタリアンタイは現在、ダウェー深海港と臨界工業地帯のプロジェクトに関わるパートナーを募りつつあります。ミャンマー政府から得ている権益の49%を他の投資家(企業)に売りたいということで、日本、韓国、中国、インドの企業を回っているとの報道が本日付日経および6月9日付Bangkok Postでありました(Dawei financing deals imminent)。Bangkok Postによると、現時点で10の投資家(企業)が興味を示しているとのこと。

おそらくはイタリアンタイの財政事情があり、現時点で部分的なエグジットを行うということなのだと推察されます。

日本企業がミャンマーへ投資するにあたっては、米国やEUがミャンマー政府の人権問題に抗議する意味で行っている経済制裁、およびそれと連携して日本政府がとっている以下のような姿勢を踏まえる必要があります。

経済協力の方針
2003年5月30日にスー・チー女史がミャンマー政府によって拘束されて以降の状況に鑑み、新規の経済協力案件については基本的に実施を見合わせている。但し、緊急性が高く、真に人道的な案件等については、ミャンマーの政治情勢を注意深く見守りつつ、案件内容を個別に慎重に吟味した上で、順次実施することとしている。また、2007年9月のデモに対する弾圧を受け、10月、従来より限定して行っている案件の一層の絞込みを行うこととした。

日本企業がイタリアンタイのパートナーとなってダウェー深海港および隣接工業地帯の事業を進めることが是とされるのかどうか、微妙な問題ではあります。一方で、インフラ輸出の機会として見れば、これはかなりの好機だとも言えます。政府および経産省の指針が求められるところです。

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