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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

鉄道相更迭、巨額負債、安全性懸念で大きく揺れる中国高速鉄道(下)

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鉄道省の1兆3,000億元(1,980億米ドル)とも2兆元(3,030億米ドル)とも伝えられる債務が高速鉄道の順調な営業によって返済できていけばいいわけですが、現在営業している路線では乗車率がきわめて低いとが報じられています。

Should China Rethink High Speed Rail?
Do China’s High-Speed Rail Investments Make Sense?

上の記事では武漢ー広州線の乗車率が5割以下、最近開業した上海ー杭州線ではそれよりも低いと記しています。また、武漢ー広州線は時間帯によってはほとんどがらがらという指摘もあります。今回の劉氏失脚に先立つ昨年12月の時点で、上の2本の記事は中国高速鉄道の採算面の先行きについて疑念を呈していました。賢明と言わざるを得ません。

乗車率の低さは高速鉄道の運賃が高すぎることが原因だそうで、武漢ー広州線の場合は約70米ドル。これは同じ区間を飛行機で移動する場合とほぼ同水準とのこと。参考までに武漢ー広州間は968km。日本の東海道・山陽新幹線で東京から新山口と新下関の間ぐらいの距離に当たります。飛行機の方が当然速いでしょうから乗客がそちらに流れるのも無理はありません。中国高速鉄道の運賃の高さを指摘する記事はいくつもあります。
中国全土にこれから拡大していく路線網のあちこちでこうした低乗車率が見られるとすれば、投資回収はおぼつかなくなります。

「世界最大かつ最高速度の高速鉄道網を持つ」ということは、事業性よりも政治的な意味を持っていたという指摘が中国の識者によってなされています

劉志軍元鉄道相の収賄に関するニュースは現在も毎日のように流れてきており、壮大な高速鉄道計画が氏の政治目的を達成するための1つの手段であった可能性すら見えてきます(こちらも参照)。巨額の債務を把握した中国政府当局が今後どのような対応策を打ち出すのか。まず、計画の大幅縮小は避けられないのではないでしょうか。

■安全性にも赤信号か?

巨額の債務に加えてもう1点、中国の高速鉄道に暗雲を投げかけているのが最近New York Timesの記事で指摘された安全性に関する疑問です。

China Rail Chief’s Firing Hints at Trouble

この記事では、以下を報じています。

・軌道のコンクリート基礎は非常に安価に作られている。また、基礎を化学的に硬化させる物質が不十分。結果として現在の時速217マイル(349km)を数年以上維持することはできない。5年以内に時速186マイル(299km)以下での運行を余儀なくされる可能性がある。
・堅固なコンクリート支柱は高品質の飛散灰(フライアッシュ。石炭燃焼の副産物)の注入を必要とする。高速鉄道の建設ペースが飛散灰の供給ペースを上回って行われたために、飛散灰が十分ではない可能性がある。
・中国の高速鉄道の建設コストは、西欧や日本においては1マイル当たり4,000万〜8,000万ドルであるところ1,500万ドルに抑えている。この低コストを実現するために、建設に必要な部材が不十分ないし低品質のものが用いられた可能性がある。
・中国では日本が設計した高速鉄道車両の最高速度を25%上回る水準で運行している。日本の安全基準では考えられない。

中国政府当局は「今後の高速鉄道建設は安全を最優先にしなければならない」という方針を発表したと伝えられています。これは劉志軍元鉄道相の指揮下では安全が最優先ではなかった可能性があることを示唆しています。非常に由々しき事態です。

世界最大規模の高速鉄道網という壮大な計画によって各国の羨望を集めてきた中国の高速鉄道。劉氏の更迭をきっかけに大きな転機を迎えそうです。

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