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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

ウォールストリートジャーナルに掲載された原子力発電再考に関する筋の通った指摘

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ウォールストリートジャーナルのアジア版に福島原発事故に関する興味深い意見が載っていたのでご紹介します。欧米メディアではヒステリックな記事が多いなかで、かなり冷静に、これから何を考えるべきかを述べています。

Wall Street Journal: Nuclear Safety After Fukushima
New reactor designs are safer, but how to retrofit old power plants?

書いているのはOrrick, Herrington and Sutcliffeという香港の法律事務所のシニアパートナーChristopher Stephens氏。経歴を見るとアジアの発電所等のプロジェクトファイナンスを取り扱っている弁護士です。

事故の中身については、日本にいるわれわれと同様に正しく知っています。すなわち、今回の事故は、原子炉圧力容器、原子炉格納容器が地震・津波で被害を受けたのではなく、双方の冷却に必要な電源、冷却装置、非常用電源、緊急冷却装置などが津波で破壊されたことに伴って発生した、一連の予期せぬ事象だということです。

彼は、現在の第3世代の原子炉については、冷却系の故障および水素の圧力について、より進んだ措置がなされていると述べています(福島原子力発電所は第1世代)。
ウェスチングハウス(Westinghouse)のAP1000原子炉では、外部電源およびディーゼル電源がなくとも、また、運用者の操作がなくても動作する一連の受動的な冷却システムが設けられているとのこと。また水素爆発を防ぐ"recombiner"(再結合器)も備えています。

この設計は、地震が予想される中国内陸部で進展している原子力発電所計画において公式に採用されています。フィンランド、フランス、中国で建設されつつあるアレバ(Areva)のEPR原子炉では、4つの独立した緊急用冷却システムと、追加的原子炉格納エリアが用意されています。三菱重工のAPWRでは、受動的な、および電源を備えた、冗長性のある冷却システムが備えられています。(こうした知識は、推測ですが、アジアの原子力発電所プロジェクト複数にリーガルのアドバイザーとして参加することによって得られているものだと思われます。)

第3世代ではこうしたより進んだ冷却システムになっていると説明した上で、彼はなぜ、そうした新技術が福島第1原子力発電所に適用されなかったのか?原子力発電を規制する当局は、その時々で得られる最良の技術を古い原子炉に対しても適用すべきではないか?と問うています。

続く自問自答で次のように述べます。では、非常にコストが高くつく可能性のある、新しい安全技術の古い原子力発電所への適用を、いつどうやって決断するのか?取り替えの利くモジュラー機構であればそれは簡単だが、一体型となっている原子炉や格納容器に対してそれは可能か?いや、そうとは言えない。放射能があるから無理だ。とすれば、最終的な問いは「最新の安全技術を適用するかどうか」ではなく、「古い原子炉を完全にシャットダウンすべきか否か」になってくる。

この問いを前にした時、原子力発電所運用者と規制当局とは、古い原子炉を現状のまま動かす選択をしがちになる。想定されるリスクがはるか遠くにあるように思えるからだ。福島第1原発の事故の後では、日本だけでなく世界において、そうした姿勢が見直されるようになるだろう、と彼は述べています。

また彼は、今回の事故に日本が適切な対応ができているのは、日本が経済大国であり、対応に必要な資源(資金、技術、組織等)があるからだとも指摘しています。一方、現在、原子力発電所の設置を考えているベトナム、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシアといった太平洋の断層に連なる国々においては、福島原発事故と同等の事故が起こった時に、国内に対応できる資源があるのかどうか、しっかりと考えた方がよいと述べています。

これらは非常に筋の通った指摘であり、よく考えてみなければならない点だと思います。

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