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デリー・ムンバイ間産業大動脈構想のまとめ

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インドで進められている「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想」(Delhi-Mumbai Industrial Corridor, DMIC)の全体像については、ネットを探しても「まとめ」に相当する資料が見つかりません。ということで、インフラ投資ジャーナルで簡単にまとめてみました。

■プロジェクトの背景としてのインド

インドはこれからの日本の経済成長に不可欠な巨大な市場ポテンシャルを持ちながら、現時点では貿易量がきわめて少なく、ある資料によれば日中貿易の1/20、最近のインド紙の報道では、日本はインドの全貿易量の2.3%を占めるに過ぎず、印中貿易の1/4以下で他のアジア新興国と同程度の重みしか持たないと伝えています。

これは逆に見れば拡大の余地がかなりあるということを示しています。インドの経済は貿易依存度が小さく、5.5億人いるとされる中間層の消費が柱です。この層の消費がこれから底上げしてくると同時に、ボリュームも大きくなってきます。以前にもお伝えしましたが、まだ100万人に満たない50〜60もの都市が今後10年で100万都市に昇格するそうです。都市化に伴うインフラ需要だけでも相当なものだと思われます。

このポテンシャル豊かな市場で日本企業が活発に展開するためには、よく言われるように、インドのインフラのボトルネックを解消する必要があります。また、進出の妨げになっているその他の問題についても、中央政府および地方政府ともどもが協力的になってくれないといけません。

道路を例にとると、郵船ロジスティクスのサイトで報告されている現状は以下のようになっています。

 道路交通インフラは、有料の高速道路でさえも完全に舗装されているものもあれば、舗装されている箇所とされていない箇所が入り混じっているものもあるなど、モザイク模様のような状況である。インド国内各所で新道路の建設、既存道路の整備、及び立体交差化が進んでいるが、道路補修はやや遅れ気味であり、そのため交通渋滞が激しくなっている。また、幹線道路を一歩出ると何年か前に舗装した様子は窺えるものの、穴ぼこだらけの未舗装状態の道路が多く見受けられる。
 貨物運送を行うトラックは幌車が多く、雨季におけるウエットダメージが心配される上、市内においても雨水排水機能が完備していない為、道路が冠水となる場合が多く、配送が滞るといったケースも少なくないというのが現状である。

最近のインドではタマネギが高騰していることが伝えられています。デリーの野菜・果物不足は深刻なようで、急遽、ムンバイから野菜・果物専用列車を走らせて不足を緩和することも検討されています。これも物流インフラの不整備を示しています。「野菜が配送途中で腐る」という記述を何度か目にしました。

物流インフラの未整備以外に、日本企業が進出する際に課題となるのが、現地固有の制度上の問題、主なものでは、農地を工業用地に転換する手続きの複雑さ、時間がかかりすぎる点など、行政の非効率・不透明性があります(「躍進するインド経済と三菱商事のインドビジネス」インド三菱商事社長・中垣啓一)。様々な資料を読むと中央政府と地方政府とで足並みが揃わないことが多々あるようです。結果として、ある特定の地域に日本企業が進出しようとする際に、行政対応で多大な時間がかかるということになりかねません。

■デリー・ムンバイ間産業大動脈構想のポイント

デリー・ムンバイ間産業大動脈構想(DMIC)は日本政府が2006年末にインド政府に提案して始まった大型プロジェクトです。発想としては、デリー(人口1,256万)とムンバイ(人口1,383万)とを結ぶ地域を日本における東京大阪間の「太平洋ベルト地帯」と見なし、物流インフラを整備した上で、周辺地域の諸都市で重点的な開発を進めていくというものです。対象となる6つの州でインド全体のGDPの約4割を占めます。

経産省からはDMICに関する資料が複数出ていますが、もっとも新しいと思われるのが以下です。

デリー・ムンバイ間産業大動脈構想

他の資料にもあたって確認したプロジェクト概要のうち、特筆されるポイントは以下の通り。

●デリー・ムンバイ間の1,500kmに新線を建設。電気機関車で二段積み貨物コンテナを大量輸送する貨物専用鉄道を走らせる。第1フェーズ(レワリ・ファドダラ間の950km)の建設費用4,500億円は日本政府のタイド円借款(日本企業が受注)。

●インド側のプロジェクト推進主体として、デリー・ムンバイ間産業大動脈開発会社(DMIC Development Corporation、DMICDC)を設立。ここがプロジェクト開発ファンド(PDF)1億5,000万米ドルを持ち、関連地域における多数のプロジェクトを管轄する(PDFの半分は国際協力銀行が融資。残り半分はインド政府)。PDFは個々のプロジェクトを実施可能なレベルにするために使われ、実施可能なものは土地や許認可などをパッケージ化した特別目的会社の形にして民間事業者に売却。DMICDCの主たる収益は特別目的会社の売却益。

●デリー・ムンバイ貨物専用鉄道が走る6つの州にまたがる対象地域内に24の投資地域、工業地区を指定。各地域・地区で工業団地、IT産業のハブ、農産品加工ハブなどの産業インフラ、および、物流基地、港湾、空港、発電プラントなどの物理・社会インフラの開発を行うプロジェクトを走らせる。

●先行的に動いているアーリーバード・プロジェクトがインド側運営で21件、日本側運営で6件ある。日本側6件は以下の通り。

▼ラジャスタン州
1.ニムラナ工業団地共同エネルギーセンター構想 : 日立製作所、ニムラナ工業団地進出企業
2.ニムラナ総合物流ハブ構築プロジェクト: 日本郵船

▼ウッタル・プラデッシュ州
1.自由貿易倉庫地区プロジェクト: 三井物産

▼ハリヤナ州:
1.自由貿易倉庫地区プロジェクト: 三井物産

▼マハラシュトラ州
1.ものづくり人材育成プロジェクト (マハラシュトラ州(拠点)、インド全域)
 企画、提案 : テクノブレーン株式会社、
 システム技術協力 : ソニー
 実施予定機関 : サイエンステクノロジーパーク・州公社

▼グジャラート州
1.繊維製品・携帯電話リサイクルインフラ構築プロジェクト:日本環境設計株式会社

●2010年末には経産省が追加でアーリーバード・プロジェクトの提案を公募。選定結果は近々発表される。

●最近の動きとしては、2010年10月のインドのマンモハン・シン首相が来日した際に、スマートコミュニティのさらなる進展についても歓迎の意を表したということがある。

●デリー・ムンバイ間産業大動脈構想の実施の枠組みが1つのひな形となって、今後取り組まれるメコン総合開発(こちらこちらを参照)、インドネシア経済回廊開発にも活用される。

こうした大規模なプロジェクトが実施されることで、冒頭で記した物流の問題は、GDPの4割を占めるデリー・ムンバイ間地域においては抜本的に解決することとなります。また、日本企業の進出の妨げになっていた手続き上の問題もDMICDCが間に入ることによって、スムーズになるはずです。

■スマートコミュニティのプロジェクトもスタート

これら全体をざっと見ると、いわゆるインフラ系の事業だけではなく、その地域において日本企業が強みを持つ事業であって、インドの経済発展に資するものであれば、参画可能なように思えます。無論、経産省が行う公募などの手続きを経る必要はありますが。

スマートコミュニティのさらなる進展もデリー・ムンバイ間産業大動脈構想に含まれたとのことで、スマートコミュニティに意欲を示す日本企業のインド進出も活発化しそうです。
今年1月には、三菱重工がインドのグジャラート州政府およびDMICDCとスマートコミュニティづくりで協力していくことに合意したことが発表されました。
スマートコミュニティ計画の概要は三菱重工のこちらの資料で知ることができます。

また、2月15日には、NEDOとDMICDCとがスマートコミュニティの共同開発で合意しています。MW級の太陽光発電などの再生可能エネルギーを組み入れたマイクログリッドを生かしたスマートコミュニティ事業のFS調査が行われるとのことです。

インドでは電力の需要に供給がまだまだ追いついておらず、膨大な数の石炭火力発電所の建設が予定されています。日本が得意とする発電効率に優れた石炭ガス化プラントによる発電事業についても、このプロジェクトの枠組みの中で実施可能であれば、進出を考える企業にとっては朗報となるでしょう。

また、インドでは今後進む都市化に伴い、上水の供給不足も懸念されています。海水淡水化の需要もかなりあると見られており、そうしたプロジェクトも枠組みに入ってくるのではないでしょうか。

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