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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

Pike Research:2016年までの海水淡水化投資は878億ドル

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クリーンテック系のリサーチを行っている米Pike Researchが12月20日付けで流したリリースです。

Desalination Plants to Attract $87.8 Billion in Investment by 2016

同社が刊行した報告書"Desalination Technology Markets"によると、海水淡水化市場は従来よりも低コストの技術が普及しつつあるなかで着実に拡大しており、2010年から2016年にかけて世界で878億ドルの投資が見込まれるそうです。

似た領域を扱っている報告書「海水淡水化の現状と原子力利用の課題」(2006年7月、日本原子力産業協会)によると、世界の人口増加と水需要の増加の伸びを比較すると、人口の伸びに対して水需要の伸びは2倍になっているそうです。発展途上国と新興国の人口の伸びはまだまだ続きますから、水需要は今後も長期にわたって大きな拡大が見込まれます。
また、新興国では都市化が急速に進んでおり、都市における真水の確保は重要な課題になっています。さらに、発展途上国においては、水が確保できることで生活水準が向上するだけでなく、農業用の灌漑が可能になって食糧不足も解消すると言われています。

このなかで、海水の淡水化には非常に大きな意味があります。上記の日本原子力産業協会の報告書から引用すると…

地球の70%は水で覆われており、その97.5%は海である。残りの2.5%が真水であるが、この真水の約70%は南極大陸やグリーランドの万年雪の中の氷河であり、残りのほとんどが土壌中の水分や我々が利用できない地下水である。つまり、1%以下が地球規模での真水として存在し、かつ、地球上に存在するすべての真水の約0.007%が、我々が利用できる真水である。しかし、海水は無尽蔵の水資源であり、その海水の淡水化は水問題への有力な解決方法の1つである。

とのことです。

従来、海水淡水化は、エネルギーコストが安い中東において、発電施設と淡水化施設が併設される形で行われてきました。これは過去において主流だった淡水化方式の「蒸発法」、特に「多段フラッシュ法」と呼ばれる方式が火力発電と技術的に共通部分が多く、併設によってメリットが出せるためです。元々、蒸発法では多くのエネルギー投入を必要とし、生成水の単位当たりコストが高くなります。産油国の強みを生かしてその高コストを緩和し、さらに発電所との併設によって設備投資額も節約するという図式がありました。

近年になってから蒸発法に代わる「膜法」、特に「逆浸透圧法」が浸透し始めます。これは、プラント建設費が蒸発法よりも安く、水の生成に用いられるエネルギー量も蒸発法より少なく済むということと、オペレーションに欠かせない水処理膜のコストも徐々に下がりつつあることが理由です。また、蒸発法はプラントを大きくすることによってコストメリットが出せることから、大規模なプラント、すなわち初期投資額の大きなプラントが建設される傾向があるのに対して、逆浸透圧法は真水生成機構をモジュール化することができ、規模を大きくも小さくもできるために、導入地の必要に応じたプラントが建設しやすいという事情もあるようです。
過去には海水淡水化処理プラントと言えば、富裕な中近東の産油国のものという印象がありましたが、逆浸透圧法の普及により、真水を必要としている他の国でも淡水化施設の建設が動きつつあります。

Pike Researchのレポートでは、逆浸透圧法プラントの大手プレイヤーとして、Veolia、Doosan、Fisia Italimpianti、Suez Environnement、GEを挙げていますが、これら5社でも市場の25%しか確保しておらず、多くの新規参入余地があるとしています。
以下に同レポートから、2010〜2016年の国別海水淡水化処理市場の伸びを表すグラフを掲げます。KSAはサウジアラビア、ROWはその他の国々です。

Desalination

周知のように、水処理膜においては日本のメーカーが大きな役割を果たしているわけですが、その動向を把握するには以下の東洋経済の記事がお勧めです。

水ビジネスの幻想と現実[2]——日本勢唯一の“独壇場”に異変、水処理膜の覇権争い
激化する水処理膜バトル、日本企業はどう生き残るか——日東電工、東レのキーパーソンに聞く

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