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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

インフラ投資基礎資料「アセット・クラスとして拡大するインフラストラクチャーへの投資を」読む

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日本語で書かれたインフラ投資関連の資料では、2006年〜2007年にかけて書かれたものに非常に充実したものがあります。以下はその1つ。

「アセット・クラスとして拡大するインフラストラクチャーへの投資」
瀧 俊雄
野村資本市場研究所「資本市場クォータリー」2006年夏号所収

インフラ投資の特性として、インフラ資産の保有者が国や自治体などのパブリックセクターであり、そもそも民間人にはあまりなじみがない、また、公開されている市場があるわけではなく情報流通も乏しいために、なかなか全体像がつかめないということがあります。
このレポートでは2006年という非常に早い時期に、全体像をしっかりと記述しています(ありがたいことです)。

なお、欧米のインフラ投資の世界でも、専門メディアがインフラ投資をトピックとして取り上げるようになったのが2008年頃からであることを知ると、このレポートがいかに早い時期に書かれたかがよくわかります。

これを読んでよくわかったのは、インフラ投資では、オーストラリアが世界の先頭を行く先進国だということです。少なくともこれが書かれた2006年当時はそうでした。
オーストリアに拠点を置き、投資銀行業務などを行うマッコーリー・グループ(Macquarie Group)が早くから、政府・自治体等が保有するインフラ資産に対する投資スキームを開発し、ファンドを作って、比較的良好なリターンを上げる手法を開発していたそうです。その背景にはオーストラリア固有の公共資産の民営化が急がれていた事情があるとのこと。
現在ではインフラ投資関連の専門サイトを見ると、登場するプレイヤーに米英投資銀行や中東の政府系ファンドが多くなっていますが、2006年頃はマッコーリー・グループの独壇場という観があったようです。また、先日取り上げたブリズベーン港の99年リースの案件についても(本ページ末尾の[関連投稿]を参照)、そうしたオーストラリアの経験の蓄積あったからこそ、スムーズに投資家を見つけることができたのかも知れません。

このレポートで興味深かった点を何カ所か引用させていただきます。

まず、インフラストラクチャの定義について。

インフラストラクチャーとは、「ある地域が成長・発展するにあたって依存することとなる基本的なサービス、設備、機構を提供する物理的な構造」であると定義される。インフラストラクチャーへの投資とは、これらのインフラを保有もしくは運営する事業に対して、主にエクイティ部分への投資により、直接もしくは間接的な保有を行うことを指す。
 中略
このうち、投資対象となり易いのは、経済活動における需要があり、明確なキャッシュフローを見込むことのできる経済インフラである。

「エクイティ部分への投資」とは、当該インフラが特別目的会社等の法人形態を取っており、その法人の株式を保有するという形で投資を行うという意味ですね。自治体等が当該インフラの保有者である場合は、保有権は自治体等が持ったまま、営業権や借用権を法人形態に落とし込んで、そこに出資するというパターンもあります。

それから、「明確なキャッシュフローを見込むことのできる経済インフラ」という指摘は大切ですね。一般に、経済記事などでは、インフラ的な対象に対する資金投下をすべて「インフラ投資」と言って読者を混乱させていますが、投資家目線で見ると、「明確なキャッシュフローを見込むことのできる経済インフラ」であるからこそ投資をするわけなので、そこの線引きは非常に大切です。さらにその延長で言うと、「明確なキャッシュフロー」の源泉は、そのインフラを利用することになる顧客が使用料等を支払う用意があることが前提となります。顧客が使用料を払う意向のないところにインフラを作っても、それはインフラ投資の対象にならない可能性=投資家が集まらない可能性があります。

インフラ投資の対象は非常に大きいという記述がありました。

インフラストラクチャー全般を潜在的な投資対象と見た場合、その市場規模は非常に大きい。
 中略
米国において公的部門が保有するインフラ資産は2.98兆ドルに上り、民間保有のインフラ資産も2.66兆ドル存在しているとされる。これらを合計した5.6兆ドルは、米国における投資用不動産市場に匹敵する規模となっている。

米国では投資用不動産市場に匹敵する規模があるということは非常に印象的ですね。おおむね他の国や地域でも同じような事情があるのではないでしょうか。

続いて、投資対象としてのインフラの特徴について。

マッコーリー・グループによれば、インフラストラクチャーは、次の6つの特徴を有するとされる。
1. コミュニティにとって必要不可欠な存在であること
2. 事業の競争優位が、高い参入コスト等の独占的条件により確保されていること
3. キャッシュフローが安定的で予見可能性が高い。またキャッシュフローとインフレとの連動性が高く、コスト控除後も相当程度の収益をもたらすこと
4. 他のアセット・クラスのリターンとの相関性が非常に低いこと
5. 需要の弾力性が非常に低いこと
6. 長期に渡ってキャッシュフローを生み、代替されにくく、技術革新による陳腐化が生じにくいこと

これらの点は、インフラ投資を解説するどの文書でも挙げられていることですが、キャッシュフローの予見可能性とか、需要の弾力性が低いなど、改めて読むと興味深いです。
需要の弾力性が低いとは、インフラであるだけに、使用料が高くなるなど条件が変わっても、需要は減りにくいということを指しています。

以下の図は、インフラ投資の分野別の平均的な内部収益率をマッピングしたもの。以前にご紹介したインフラファンドGlobal Infrastructure Partnersの投稿において、同ファンドが空港の経営に参画してよいリターンを得ていることを述べましたが、以下の図を元にすれば高いリスクをとって投資する一方、経営内容の改善を図って高いリターンを実現していることになります。また、ファンド代表が有料道路には投資しないと発言していましたが、リスクは低いものの想定したリターンが得にくいからなわけですね。投資スタイルは様々です。

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2006年は、米国の有料道路の民営化が始まって成功事例が出始めた頃だったようです。最近の専門誌では、米国のインフラ投資スキームを使った公共資産の民営化がやや爛熟状態にあることが紹介されたりしています。

米国における有料道路民営化の最初の例となったのは、2004年のシカゴ・スカイウェイのプロジェクトである。
 中略
ゴールドマン・サックスが3年間に渡り市の財務アドバイザーを務めた後、同スカイウェイの民営化が実行され、入札によりMIG=シントラのコンソーシアムが事業者として指名された。その結果、同市は99年間の事業運営契約を年間利用料収入の45倍に相当する18.3億ドルで売却することができた。

インフラ投資は、財政難に悩む国や地方自治体などにとっては、天恵と言ってもいいスキームを提供します。 

このように、入札者の多様化が進むことは、各国の公的部門からすれば民営化の選択肢が拡がることを意味する。その結果、民営化案件のベースの拡大に繋がることも期待されよう。

しかしその一方で、安易な活用は投資家を傷つけることになるだけでなく、それに続く事例に悪影響を与えますから、慎重な取り扱いが必要だと思います。

全体としては、インフラ投資の背景ががよく理解できる非常に良質の資料だと思いました。PPPを検討されている自治体等の関係者の方には必読の資料でしょう。

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