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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

ものを書いて食うための環境として「Amazon Kindle+Twitter+リアルイベント」が大きなポテンシャルを持つというお話(上)

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先日のイベントでお話して多少受けた部分を少し詳しく展開して書き留めておきたいと思います。Kindleが日本語に対応して、例の印税35%という個人出版が可能になった暁の話です。SlideShareに上げたスライドの11~12枚目の話ですね。なお、このスライドの10枚目までは、Kindleの最新動向に加えて、Apple iPad、Sony Reader、Amazon Kindleの力関係の分析をしています(簡単な分析です。濃密なものを期待されると困ります)。

■そこそこ食えていた時期でも現実は…

自分も1996年ぐらいから2002年ぐらいまでは書き物が4~6割、企業から受託したリサーチなどの案件が4~6割という売上構成で、まぁ物書き的な意識で職務に邁進していました。96~97年頃は、当時刊行されていたインターネット誌が8誌ぐらいあったうち、6誌ぐらいに連載ないし寄稿していて、その他にも単発などが重なったりするので、毎月10本弱の締め切りがあり、忙しくて忙しくてうれしい悲鳴を上げていました。ライターというものは、忙しければ忙しいほどマゾ的なヨロコビが湧き上がってくるものなのですね。しんどいしんどいとか言いながら、その実、からだ中がヨロコビに浸っていたりします。
とは言うものの、雑誌原稿を毎月10本弱コンスタントにこなしていて、それで十分に食えるかと言うと、「う”~ん」という現実があるということも、1~2年するとわかってきました(雑誌編集者の方、バカヤロと言わないで下さいw)。

雑誌原稿のライティングは完璧にフローの商売なので、高速にフローを回していかなければ一定水準の売上が維持できません。一方で毎月毎月新ネタを仕込んで、高速にフローを回転させていくのは、労働集約的なしんどさがあるのはもちろんのこと、ネタを仕込むためのコストという点でなかなか難しい問題を突きつけてきます。
簡単な例で言うと、新しく市場に出たガジェット系の原稿を書く場合、自腹で購入して書くとなると、自腹購入費が2.5万円に対して、いただく原稿料が3.5万円というケースがあるわけですね。これが原稿単品ベースで黒字になっているうちはまだよいのですが、往々にして、投入した時間とかけた経費とを勘案すると、いただく原稿料ではどうしても合わないということが起こってきます。
毎月の雑誌原稿が1~2本ならまだよいのですが、5本、8本と増えてきて、いずれの原稿においても、実質的に薄っすらと赤字という状況が続いていくと、書けば書くほど、忙しくなればなるほど、ライターとして高速に回っている期間が長ければ長くなるほど、有形無形の赤字が累積していって大変になるということが起こります。例えばカードの払いがきつくなるとかですね。次の大波に備えた仕事の仕込がどうしてもできないとかですね。
そうしたことをインターネット誌やIT誌数誌に書いていた96年~97年頃に経験しました。
96年初頭に刊行した初めての単行本が3万部強売れて、これはうれしかったです。3万部売れると、大雑把に価格1,000円、印税10%として300万円ですね。当時の自分にとってはなかなか大きな売上でした。現在で言うB2Cのビジネスモデルを日本で初めて解説した本なので、そこそこ売れたわけです。こういう状況だと、単行本書きはストックになるわけですね。雑誌書きのフローと単行本書きのストックが両輪としてあれば、収益面では非常に好ましい。

これに味を占めて2冊目、3冊目を割と短いインターバルで書いたのですが、1冊目ほどには売れませんでした。1万部前後、7,000部といったあたり。
単行本は通例、書くのに3ヶ月はかかります。フルに1冊に集中して3ヶ月ということはないにしても、事前インプット、企画構成の詰め、書きに直結するインプット(取材、リサーチ等々)、そして書き。これらを雑誌原稿や企業案件など他の仕事をこなしつつ、並行して行っていくと書き終わりまで3ヶ月はかかりますね。短い方でそうです。単行本の書きそのものは、ほぼ集中して1ヶ月弱という感じでしょうか。最後の2割が異様に苦しい世界です。出すネタすべて出しているところへ「あと40~60枚、同じ密度で書け~」という世界。これがほんとに苦しい。でもまぁ何とかこぎつけて、必要枚数を書き揃えて、出版社さんに渡します。書き終わってみると1ヶ月弱。その間他の仕事の優先順位はぐっと下がって、色々と溜まっている状況になっています。自分も床屋にずっと行けてなくて髪がもさもさになってたりとか。部屋を片付けてないので魔窟状態になってたりとか。単行本書きは、ある意味、出産に似た行為です。脱稿すると「産まれたぁああ」という多幸感が訪れます。

こういう単行本、書くのは苦しくともあれ、基本的には楽しい仕事です。だがしかし!そこそこ売れてくれれば、別に問題もないのですが、売れないとなると非常に問題。
上述のように書くのに3ヶ月かかります。以前は初刷が7,000部ぐらいでした。印税70万円。少ないと言えば少ないですが、これぐらいでは文句は言えません(出版社さんから見たら、初刷を増やせるようにネームバリューをもっと上げてね、というところです。書いた当人が「初刷少ないです」と言える世界ではない)。

ご参考までにこのようにして私がやっていた時期の年間売上は、おおむね800万円~1,000万円程度。事務所を借りて、経費を払って、人並みの生活ができるという水準です。後に企業系の案件の比率が増えた時期には売上が2,000万円程度になったことも最大瞬間風速的にありましたが、基本、カラダひとつですから、そういう水準はサステイナブルではないです(なお、これらはすべて自分の個人事務所の話。過去のお話で、ピーポーズ株式会社の話ではありません)。

■単行本書きがリスクになる

私が単行本を書き始めた96年頃は、ビジネス系のIT本で初刷7,000部程度がまぁ普通でした。けれども2000年頃になると、現在見られるような版元さんの過当競争のような状況が少しずつ見られるようになり、初刷5,000部を切るという世界になって行きました。場合によっては初刷3,000部。
書きで食っている人にとって、(他の仕事と並行しているとしても)3ヶ月かけて初刷3,000部、印税30万円だとチト苦しい…というより、完璧に食えない世界です。

初刷が少ないというのは、もちろん担当編集者さんの責任ではないし、版元さんの責任ではない。出版業界の構造的な過当競争に真因があるので、誰にも文句を言えない世界なのですね。とはいえ、書きで食っている人にとっては非常に切実な問題です。この頃から「単行本を書くことは、自分にとっては大きなリスクなのだ」と思うようになりました(出版社のみなさん、僭越でどうもすみませんが、最終的には建設的なご提案でまとめたいと思うので、いましばらくご辛抱下さい)。

「単行本を書くのはリスク」というのは、わかりやすく言えば、「単行本を書くと生活が苦しくなる」ということなんです。3ヶ月間がんばって1冊書き上げたのに、数ヵ月後に締めが来て、自分の銀行口座に入ってくるのが50万円以下では、かけた経費(上記のインプットに使った経費、資料購入、取材、試用等々)を考えると完全に赤字。この赤を生身の1人の書き手が追わないといけないわけです。
これはおかしいと思う。単行本を書くことが大きなリスクになる…。自分に負えるリスクではない…。ということで、単行本を書くことはやめようと思うようになりました(繰り返しますが、特定の版元さんが悪いのではなく、構造的な過当競争に真因があるわけです)。
純粋な職務という意味で、他の方の名前で出る単行本を書くお手伝いは、仕事として引き受けてはいましたが(投入作業に見合うペイがいただける案件として)、ある時期から自分の単行本は書かないようにしようと思うようになりました(そもそも、2001年頃には単行本執筆依頼の引き合いも少なくなっていたということはありますw。あとは、当時の自分には構造的な遅筆の問題もありました)。

「ものを書く自分がいかにして食えるか?」、この大きなテーマに自分として解答が出せないまま、2003年頃から、現在もお世話になっているC社さんにリサーチャーとして勤務するようになります。

それでも「いかにして食うか?」は自分にとって、依然として大きなテーマであることに代わりはなく、その後も延々考え続けて、ピーポーズが初めて世に出した「その人の時間を売ることができるサービス」([pepoz]ライブショウ)につながったりしていきます。これ端的には、書きものをしている人が書き以外の収入源として「問い合わせ対応」を有料化するという発想ですね。そんなものがあればよいかと思い、一生懸命考えて、システムとして具体化しました。

■Kindleの印税35%があれば

さて、ここからはKindleの話です。Kindleはこちらに上げたスライド9枚目にあるように、印税35%の個人出版プラットフォームになっています。英語の著作であれば、日本居住者もこれが使える状況になっています。
日本語著作をこのプラットフォームに載せるためには、Kindleが日本語に対応することと、Kindle版書籍を編集するためのオーサリング環境が日本語に対応する必要があります。報道ではすでに日本語版開発が進んでいるそうですから、1年も経てば出てくるのではないでしょうか。
マーケティングがうまいAmazonのことですから、Kindle日本語版リリースに合わせて、本好き、小説好き、ビジネス書好きがうなるようなタイトルを揃え、戦略的な価格設定を行ったりして(当然版元さんとネゴした上で)、Kindle日本語版が発売3ヶ月で十万台単位で売れるという風に持ってくるのでしょう。

とすると、個人出版プラットフォームとしても大いに意味を持ってくる。
ここからです。ものを書く方の未来が開けてくるのは。

現在の過当競争下では、ニッチな分野の著作は初刷3,000部。この部数ですら本にならないニッチな企画もあるかと思います。書き手の方は、筆も立つ、分析も鋭い、話もおもしろい、著作内容も濃密である。しかし分野がニッチであるがゆえに書籍として成立しない。そういう世界に光が当たります。

執筆に3ヶ月かけて(他の仕事と並行しつつという前提)、書籍であれば1万部刷ってもらい、100万円の印税がいただければ、まずは御の字です。
しかし現在は3,000部から始まる。これでは食えない。
そこに、Amazon Kindle個人出版プラットフォームの印税35%が登場すると、非常にニッチな著作であっても、3,000部売れればまずは食えるという世界になります。ここですよ!ポイントは!

専門誌を編集していた経験から、日本ではどのような特化した分野の話題であっても、おおむね、3,000人程度は財布を開いていただける顧客として存在しているという、一種の規模感があります。どのようなニッチな分野の著作であっても、それが著作として本当に意味があるものであれば、潜在読者は下限で3,000人程度いる可能性がある。
この3,000人にしっかりリーチできて、しっかりお財布を開いていただければ、この著作家の方は食えるわけですね。Amazon Kindle個人出版プラットフォームで。

自分の見立てでは、非常に売れている方もそうでない方も含めて、日本でもの書きとして食べていらっしゃる方は3万名程度いると考えています。これもおおまかな規模感です。その3万名のうち、2000年頃まではまぁまぁ食えていたけれども、今日び実際しんどいという方が8割ぐらいいらっしゃるのではないでしょうか。現在のこの出版不況、単行本に加えて、雑誌がどんどん休刊になっている状況では、なかなか食いづらいということになっているかと思います。
そういう方々がAmazon Kindleの個人出版プラットフォーム、印税35%の環境で、著作だけで食べられるという可能性が出てくる。

3,000部売れれば=3,000人の固定客がいれば=3,000人がその方を支持してくれるファンとして存在していて、それらの方々と心理的なつながりが生じていれば、ということですね。
ここでTwitterの出番となります。(続く)

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