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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

制度的なイノベーションの好機

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自分は、現在の経済環境の大きな変化が必ずしも恐慌に結びつくとは思っていません。というのも、現代では、ネットワークで明示的暗示的に結びついた様々な主体(企業と個人)が状況に接してすばやく自らの行動にフィードバックをかけ、状況に適応していくメカニズムが働いているからです。先般の世界各国の経済政策の同時多発的な連携などにも、そのメカニズムの一端を窺うことができます。大手製造業の過去に例を見ないスピードで行われている生産調整などもその表れだと思います。

1920年代末に始まった大恐慌では、多くの企業や個人がその時々の状況を正確に把握するための情報を得る術がなく、あったとしてもパニック的に現象を喧伝する新聞やラジオだけだったでしょうから、状況に対して、あり得べきフィードバックをかけることができなかったと思われます。言い換えれば、フィードバックに多様性が生じ得ない状況だったはずです。そこには群衆心理に突き動かされたネガティブフィードバックの連鎖しかなかったと思われます。

先般のニューヨーク市場の株式の連続的な暴落も、瞬間的にネガティブフィードバックが最高度に高まった状態であったと言えますが、この、大多数の投資主体が同一パターンのネガティブなフィードバックをかけあって増幅していく状況は、そうそう起こるものではなく(いわゆるブラックスワン的状況なのでしょうね)、普通は、ポジティブなフィードバックとネガティブなフィードバックが混交して、ある種の均衡状態がもたらされるというところだと思います。

ポジティブなフィードバックという意味では、現在の環境にイノベーションを実施する余地を見い出し、それを粛々と実践していくということには大きな意味があると思います。特に、これまでは着手が難しかった非常に大きなイノベーションの準備を行う好機だと思っています。

イノベーションは、ロジャーズによれば「イノベーションを広めるためのコミュニケーション」を含んでいる必要があり、そうしたコミュニケーションが欠落したイノベーションは成立しません。よく、イノベーションは、新しい技術だとか考案物だとか発明といったものとして考えられています。しかし、ロジャーズによれば、その技術自体、考案物自体、発明対象自体と同等か、それ以上に重要なのが、浸透のためのコミュニケーションであるということのようです。件の大著は、そのコミュニケーションのあり方について延々と記述しているものすごい書物です。

仮に、イノベーションの成立にそうしたコミュニケーションが欠かせないのだとすれば、市場にいる多くの顧客を取り巻く状況が大きく変化している現在、過去には関心を引かなかった考案も、現在は大きな関心を引く可能性があり、そのイノベーションは普及していく可能性が出てきます。

現在は、企業の生産活動、雇用、消費者の所得の将来の可能性、現在の消費活動などにおいて、大きな調整がかかっている時期です。特に消費者の心理が大きく変化していると思われます。(企業はこれに追従する必要がありますが、その追従が既存のやり方では間に合わないぐらいの状況にあるのではないかと察します。)

企業は、こうした消費者の心理の大きな変化を踏まえて、過去には取り組むことができなかったような大がかりなイノベーションに着手することができるのではないでしょうか?
現在消費者側では家計の将来見通しが立てにくくなっているので、先日記した「消費生活トータルソリューションパッケージ」的な発想などはすごくよいと思います。これは企業1社では実現不可能な、個々の業界が持つ既存の商慣行の大きな改革を必要とする大きなイノベーションです。

その他にも「消費者向けビジネスのサービス化」という軸があります。これまで、単一の商品に価格を付けて販売してそれで終了としていた形態を抜本的に改め、契約を結んだ消費者に対して連続的に商品を供給し続け、プロダクトライフサイクルの全体で面倒を見る、しかも多くの顧客接点はインターネットやケータイを使ったやりとりでなされ、もって顧客ロイヤルティも増す、という形態です。
これも、消費者側の支出が結果的に削減できるなら、大きな支持を得る可能性があります。

ウィークリーマンションのツカサが行っているような若年層に対する職業訓練と雇用の組み合わせも、いくつもの新機軸が可能だと思います。

いずれにしても、以前であればあまり真剣に向き合ってもらえなかったイノベーションの提案が現在では現実味を帯び、多数の顧客に歓迎されるということも大いにある話であり、そういう意味で「大きなイノベーション」を推進していく好機だと思うのです。

大きなイノベーションとは、巨額の投資を必要とする意味ではなくて、既存の制度や業界慣行などの抜本的な変更を伴うイノベーションという意味です。顧客側のマインドセットも、業界側のマインドセットも、長年の商慣行によって固定化してしまっている状況において、そのマインドセットに大きな変更を迫る制度的なイノベーションということになります。

現在の経済の激変は言うなれば、世界規模で起こっている資金、人材、資源などのミスマッチの調整プロセスですが、発想を逆転させると、マッチングの好機は至るところにあり、そこではネットやケータイを大いに活用できると思うのですが。

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