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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

IBCSブロガーズミーティング備忘(その2)

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「イノベーションの普及 第五版」(エベレット・ロジャーズ、翔泳社)を少し前に入手して、ゆっくりゆっくり読んでいます。噛めば噛むほど味が出るような記述がすばらしいです。

序文を読むと、この本は1962年に初版が出て以来、ロジャーズが40年以上にわたって書き継いで、版を重ねてきたものであるということがわかります。40年ですよ!第五版では、イノベーションの最たるものであるインターネットも事例として取り上げられており、非常にモダンな中身になっています。(Social Network Analysisの知見も大いに取り入れられています。中盤以降は、SNAそのものという感じです)

「イノベーションの普及」という時の「普及」(Diffusion)について、彼は、コミュニケーションの一種であると述べています。

 普及とは、イノベーションが、あるコミュニケーション・チャネルを通じて、時間の経過のなかで社会システムの成員の間に伝達される過程のことである。メッセージが新しいアイデアに関わるものであるという点で、普及はコミュニケーションの特殊な形式の一つである。(p9

平たく言えば、コミュニケーションがないところではイノベーションは普及しないわけですね。

イノベーションの基本的な定義を確認しておくと、彼は、

 イノベーションとは、個人あるいは他の採用単位によって新しいと知覚されたアイデア、習慣、あるいは対象物である。人の行動に関する限り、あるアイデアが「客観的」にみて新しいかどうか、つまりそれが最初に使用されたり発見されたりしてからどれだけ時間が経過していようと、ほとんど意味がない。個人がそのアイデアを新しいと知覚するかどうかによって、個人の反応が決定づけられる。あるアイデアが個人にとって新しいものと映れば、それはイノベーションである。(p16

と述べています。世間的にイノベーションであると言われている技術系の事物だけでなく、考え方なども、その人や組織にとって新しく、いまだ採用されていなければ、それはイノベーションであるわけですね。

組織に、新しい考え方が入っていく際に、それが浸透しにくかったり、組織の文化が障壁となって、新しい考え方が排除されたりするとすれば、そこには、イノベーションの普及一般に伴う問題があると考えられるということになります。

前回、私は次のように書きました。

米国の経営コンサル分野で新しい概念が生み出され、それを日本で広めようという際に行き当たるもう1つの課題が、「頭ではわかった。じゃ個々の企業ではどうやってそれを広めるの?」という切実な問いです。概念を説明して終わるのではなく、こうした現実的な問題にも指針を示す必要があります。

ロジャーズの考え方を援用すれば、この「切実な問い」は、イノベーションの普及一般に必要なコミュニケーションの問題であると言うことができます。

 このコミュニケーションについて、彼は、近しい人同士のやり取りが非常に重要であるということを言っています。

 これまでの普及研究によると、最も初期にイノベーションを採用する人は別にして、ほとんどの人は科学的な見地からイノベーションを評価してはいない。そうではなくて、ほとんどの人はイノベーションをすでに採用していて、しかも自分自身と似通った人たちからもたらされる主観的な判断に依拠している。身近な同僚の経験に依拠しているという事実は次のことを示唆する。つまり、すでにイノベーションを採用しているネットワーク仲間を、潜在的採用者が模範的なモデルにするとともに模倣することが普及過程の本質ではないかということである。普及は、対人コミュニケーション関係を伴う社会過程なのである。(p26

なるほど、イノベーションの普及には、自分と似通った人から入ってくる情報が非常に大切だというわけですね。

と、ここまでが前置き。非常に長くなりました。

米国のマネジメントコンサルティングの世界で「よし」と評価された新しい経営の概念が、日本に移入されてきて、日本企業にとっても大いに意味があるということになったとしても、それの現実的な普及ということになると、一般的には非常に難しいと考えられています。

誰もが、新しい経営の概念を論じはする。本は書く。クライアントなどの前で講釈は垂れる。そういうことは、普通にします。しかし、その先、その企業においてほんとうに普及させるということになると、具体的な方法論を持っている方はあまり多くないのではないかと思います。

けれども、そこから先の普及にも責任を持つのが、マネジメント系のコンサルタントであると、私は考えています。

そこで、前回の投稿で触れた、金巻龍一氏のやり方が意味を持ってきます。

彼は、次のようなことを言っていました。

・社内で、議論の場をなるべく多く作る。部門の壁や組織の階層をなるべく取り払って、自由な議論ができるようにする。

・ある新しい概念をよいと認め、それを普及させる意気込みを持った人は、何度も何度も繰り返し、そうした議論の場で、その概念のよさを語る。何度も語ることが必要。

・最初は、相手にはなかなかわかってもらえない。

・けれども、だんだんと、「ひざをポンと打つ」ような、気づきのタイミングが訪れるようになる。

・社内のあちらで「ひざをポン」、社内のこちらで「ひざをポン」。そうした気づきが繰り返されていけば、いずれは組織全体で、その新しい概念を理解するようになる。

 

これはまさに、ロジャーズが言っている、イノベーションの普及の姿そのものであり、そこにおいて発生するコミュニケーションは、まさに上で述べられている「自分自身と似通った人たちからもたらされる主観的な判断」をベースにしているわけです。

このような道筋をたどれば、受け入れにくそうな概念もよく理解されることとなり、それが組織的な動きとなって、会社のカルチャーまで変えていくということは、あるのではないでしょうか?

「ひざをポン」と打つようなわかり方。そのようなわかり方を誘発するカジュアルな議論の場。そうしたものが、イノベーションとしての位置づけを持つ「組織の新しいあり方」の普及に、大きな意味を持つであろうことは、ロジャーズの本を読むことによって非常によく納得されます。「ひざをポン」は、かなり絶大な意味を持っているのです。(この項おわり)

Delhi

 

 

 

 

 

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