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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

読後メモ:「愚直に積め!」

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「愚直に積め!」
辻 俊彦著/東洋経済新報社

ベンチャー企業が株式公開を1つのマイルストーンとして事業を立ち上げていく場合、資金調達や顧客の定義から、会計の仕組みづくり、システム仕様に関する開発会社との詰めなど、多種多様な仕事をごく限られた人数で回していかなければなりません。

そういうなかで腹の底から納得できる経営関連の書籍と言うと、これまでは、ドラッカーの「イノベーションと起業家精神」の中の一節か、神田昌典氏らに代表される中小企業の経営者向けに書かれた戦略およびマーケティングの本ぐらいしかありませんでした。ランチェスター戦略本などもありますね。

後者のほとんどは、ニッチな場に踏みとどまったまま高い利益率を上げる企業を実現するための方策を論じています。これはこれで非常に価値があり、ビジネススクールの教科書では絶対に得られない「顧客と収益に関する着眼点」などが得られます。

一方で株式公開を前提に企業の骨格を作っていく際には、利益率もさることながら、成長のための目に見えない仕組みづくりも必要になってきます。中期的な成長をにらんだ組織の基本原理(インセンティブ、個人の成長)、未来の市場の発展から収益を自社に取り込むための事業ドメインの設定、顧客とステークホルダーに知っていただきたい新しい価値観、社のビジョン、そして組織に必要な”躾け”などです。

こうした部分をカバーしている本はなかなかありません。

株式公開を念頭に置く企業向けとしては、資本政策関連本が唯一その世界に近いですが、それであってもテーマは資本政策とその周辺であり、実際に、日々の業務を回していくための現実的な知恵というものは得られません。

辻俊彦氏が書かれた「愚直に積め!」(東洋経済新報社)は、まさにそうした既存の書籍が論じてこなかった領域を真正面からカバーしている好著です。株式公開などのエグジットを念頭に置いた企業の経営に携わるすべての人たちが読んでおべき本だと思います。
最近ではもっとも多く線を引き、チェックの目印を付けた本になりました。
引用したいところが膨大にあります。

1箇所だけなら以下。

-Quote-
 ベンチャー企業は、失敗の連続であり、失敗から学ぶ力で差がつく。
  中略
 真面目さや熱心さが評価されてきた人は、失敗に対する免疫力が低い。自分に対する厳しさで失敗を埋め合わせようとするが、弱った自分をさらに責めても、得られるものは少ない。失敗した経験そのものから学んでいくことが重要である。責められるべきは、失敗の事実と向き合わず、自傷する自分自身に自己陶酔することである。
  中略
 存続のために常に成長を求められるベンチャー企業が成功を収めるためには、失敗を生かしきることが重要である。失敗に対する免疫力の低いエリート意識は害悪であり、挑戦を避けるプライドは不要である。失敗にめげることのない雑草の心を育み、純粋に自分を信じ、情熱を持って前進を続ける子どもの姿勢が必要である。
  中略
 成功と失敗の関係は、勝ち負けのような裏表の関係ではなく、失敗の積み重ねの上に成功が存在するのであり、失敗を生かす姿勢こそが、経営者としての資質の優劣を決めるものだと思っている。
-Unquote-

こうした精神論的な部分もすばらしいですが、腹の底にどしんとくる実務面の金言、至言もたくさんあります。一度読んで基本的なメッセージを頭に入れてから、あとは必要に応じて、必要な箇所を読み返すのがいいでしょうね。

辻さんは、business thinkerとして大成される方だと思いました。

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