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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

スルメのごときすばらしい企業(ベキ法則下の企業活動-その8)

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トマス・フリードマンは、世界規模で起こっている非常に捉えがたい動向を両腕でがしっと捕まえて、それをいくつかの基本原理にまとめて見せるという技がものすごく優れています。直近では、ティム・オライリーがインターネット上で起こっている現象をWeb 2.0の諸原理に括って見せたのが、これに近いと思います。
Web 2.0
は純粋にインターネット上にのみ認められるトレンドだと理解していますが、トマス・フリードマンが「The World Is Flat」で描いているのは、その数万倍はインパクトがあるであろうリアルな世界の現象です。

うまくまとめてくれた概念のひとつに「Sourcing」があります。企業活動のある側面は、適切なアンバンドリングによって、デリバリーが可能なものになりつつある。選択肢には、自社から他社への外部化(Outsourcing)だけでなく、他社から自社への内部化(Insourcing)もある。この動きは、経済合理性があり、技術的に可能である限りにおいて、どこまでも進んでいく。こうした概念をSourcingという一言で表しています。

こういうモジュール化を前提とした考え方は、もの作りの擦り合わせの議論においても、クリステンセンの「イノベーションへの解」の議論においても、適用領域を限定してかかるべきだというコンセンサスがあり、私も最近そのことを知ってひどく納得しています。すべての業種のすべての企業にSourcingを適用してどうこうしようというのは正しくない。それを頭の隅に置きつつ、先に進みます。

Insourcingというのがひどく新しいです。一般的にFlatな文脈におけるOutsourcingでは、ネットワークを移動可能な職務のことを考えますが、Insourcingではネットワークを移動できない職務、すなわち物理的な作業環境が関わり、人の肉体的な関与が意味を持つ職務を、顧客企業の施設にまで出向いて行う形態が含まれます。フリードマン的にはむしろその形態のみを見ているフシがあります。その典型がUPSです。

個人的には、「The World Is Flat」で種々掲げられている企業事例の中でも、このUPSの事例がダントツに興味深く、しゃぶってもしゃぶってもまだ滋味が染み出てくるスルメ的な事象に思えてなりません。

まず、UPSは、物流が本業ではない企業と契約を結んで、物流部分を請け負います。これはよくある話。非常にデリケートな製品のパッケージングのまずさが原因で物流コスト高がもたらされている場合、パッケージングの最適化を提案しますが、場合によってはパッケージング&ロジスティクスの視点で、当該製品の設計段階に入り込んでアドバイスするということも行います。これもまぁわかる。
ただ、多種類の商品を製造したり販売したりする企業の社屋に出かけて行って、ロジスティクスの観点から種々の分析を行い、製造ラインの改良を提案したり、複数の組織にまたがって流れるフローを提案したりというところになると、これはもうコンサルティングの領域です。こうしたことも行う。
さらに、配送網はUPSが提供できる本分であるとして、そこに在庫を置いてくれたりするのは珍しくないとしても、世界的な配送網において在庫量が最小になるサプライチェーンの設計・提案や、補修が必要になる製品の補修回りの請負(部品の保管だけではない)や、消費地でアセンブリが必要になる製品については、当該消費地にアセンブリ工場を設けて、当該企業のユニフォームを着たUPSの人間がアセンブリをしてしまうというところに至っては、何をかいわんや、もはや何者だという感じです(無論よい意味で)。この種の業務を最大手情報機器ベンダーから請け負っているそうです。
まだ先があります。顧客企業の取引先からの集金も行います。顧客企業および取引先に対して何らかのファイナンスが必要であればそれも行います。最適なファイナンス商品がなければ、現地の法律が認める範疇でファイナンス商品を作りかねないぐらいの勢いがあります。さらに。その国において法人の信用情報データベースが完備していない場合、同社が、取引先の信用状態を調べたりなどします。もはやInsourcing業界におけるミュータントだと言っていいでしょう(くどいですが、ものすごくよい意味で言っています)。

ここでUPSの基本的なデータを。2005年売上:4258100万ドル(Fedex2936,300万ドル)、 2005年従業員数:407,000名(Fedex25万名)、1日当たり取扱個数15万、保有トラック台数:92,000台、保有輸送機数:600機。

UPSが偉大な企業だと思えるのは、上のようなInsource業務を最大手企業顧客に対して提供しているだけでなく、中堅企業にも、パパママストアみたいな企業にも提供しているという点です。少なくとも同書を読む限りにおいては、そのように紹介されています。(早くUPSがその種の業務を日本でも展開してほしいです。日通、ヤマト、佐川もがんばれ)

-Quote-
Insourcing is distinct from supply-chaining because it goes well beyond supply-chain management. Because it is third-party-managed logistics, it requires a much more intimate and extensive kind of collaboration among UPS and its clients and its clients' clients. In many cases today, UPS and its employees are so deep inside their clients' infrastructure that it is almost impossible to determine where one stops and the other starts.
中略 
said Eskew. "We answer your phones, we talk to your customers, we house your inventory, and we tell you what sells and doesn't sell. We have access to your information and you have to trust us. We manage competitors, and the only way for this to work, as our founders told Gimbel's and Macy's, is 'trust us.'
"The World Is Flat", Two - Ten Forces That Flattened the World" (p149)
-Unquote-

-今泉お手軽訳-
インソーシングは、サプライチェーン構築とは区別して考えられるべきものだ。実際、サプライチェーンマネジメントのかなり先を行っている。サードパーティ側が管理するロジスティクスであり、UPSとその顧客、およびそのまた先にいる顧客との間で、非常に親密かつ広範囲なコラボレーションを必要とする。現在多くの案件において、UPSとその従業員は顧客企業の相当奥深くにまで入り込んでおり、どこまでがUPSの担当領域でどこから先が当該企業のものなのか、識別に困るほどだ。
中略
エスキュー(UPSCEO)は言う。「顧客の電話を弊社が取り、顧客の取引先とは弊社が話します。在庫は弊社が保管させていただき、何が売れていて何が売れないのかを弊社がお知らせします。顧客の情報には弊社の者がアクセスしますので、顧客には弊社をまず信頼してもらうことが必要になります。場合によっては弊社が顧客の競合を何とかします。こうしたことがうまく機能するには、弊社の創業者がGimbel's(米大手小売業)やMacy's(米大手百貨店)にお伝えしたメッセージである「ご信頼ください」を繰り返すほかありません」
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このようなものすごいInsourceの巨人にして、代表者の口から出てくる言葉が、古きよき時代の偉大な商人の言葉のようだというのが興味深いです。滋味豊かな事例であります。

(気長に続く)

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