オルタナティブ・ブログ > インフラコモンズ今泉の多方面ブログ >

株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

シスコシステムズとコアvsコンテキスト

»

栗原さんが訳されたジェフリー・ムーアの新著「Dealing With Darwin」の邦訳版「ライフサイクル イノベーション」が5月中旬ぐらいから店頭に並ぶと伺いました。原著が昨年末に出たばかりでもう邦訳が出回るということですから、ものすごく速い展開です。翻訳に携わった栗原さんのご苦労がしのばれます(^^;。

同書のなかではシスコシステムズが取り組んできた複数のタイプのイノベーションが各所に事例として織り込まれており、内部の視点で見ても非常に興味深いです。

シスコシステムズは90年代半ばにIT戦略を事業戦略と整合させる必要を痛感し、その後、ITガバナンスの確立、業務プロセスのWebアプリケーション化、ITプロジェクトのファンディングモデルの改良、Enterprise Architectureの構築などを連綿と行ってきています。
手前味噌ながら自分が執筆したこの記事がそのへんの一端をうまく説明してくれてます。
業務のWeb化で21億ドルの改善効果を上げるシスコ

シスコはネットワーク機器の製造販売を行う製造業の会社でありながら、現実的な製造の9割以上を契約製造会社に委託しており、顧客の発注から納品まで、ほとんどシスコのファシリティを通過することなくお客様のところに送り届けられるという、ファブレスとはまた違った、仮想的な企業体というほかない事業モデルを確立しています。この形は2000年前後にほぼできあがり、それ以降、絶えざるリファインが行われてきています。

製造業でありながら自分のところで製造しないということは、ものづくりが根幹である日本の常識から見たら、「ふてぶてしいやつ」ということになるのかも知れませんが、なぜ、シスコがそういう形態を選んだか、何を考えているのか、先々に何を見ているのか、などは、同書をお読みいただければよくご理解いただけると思います。

同書に出てくるイノベーションの概念のなかでも、中核的な位置づけにあるのが「コアvsコンテキスト」です。"Core vs Context"、なかなか日本語になりにくくて「コア対コンテキスト」と訳されたり、「コアとコンテキスト」と訳されたりしますが、要は対になっている概念で、簡単に言うと、「顧客視点でその企業の製品にプレミアムを払わせる価値を生むものがコア」、「それ以外はコンテキスト」となります。
ジェフリー・ムーアが2000年に刊行した「Living on the Fault Line」(邦訳「企業価値の断絶」翔泳社)のなかで初めて出てきた概念であり、企業が取り組むべき対象を明快に整理するのに役立つ、一種の経営戦略策定用ツールという意味もあります。

シスコシステムズは90年代末ぐらいより、ジェフリー・ムーア氏から経営指南をいただいており(http://newsroom.cisco.com/dlls/tln/partners/index.html)、「Living on the Fault Line」が世に出る前から、経営資源集中させるべき領域の把握・整理およびそれに付随する合意形成に「コアvsコンテキスト」を用いてきています。
また、2000年頃から提唱している、インターネット環境下の企業戦略「Networked Virtual Organization」(NVO)においても、中核概念として「コアvsコンテキスト」を使わせていただいており、社内ではずいぶんとおなじみのものになっています。

コアへの集中を恒常的に行い、コンテキストを”アウトタスキング”するという手法については、同社が2004年1月に刊行した「The Bridge Japan Edition」(中は日本語です)でかなり丁寧に解説されています。

ジェフリー・ムーアの「コアvsコンテキスト」の根幹には、①企業の経営資源は限られている、②ならばコアに集中し、③コンテキストは積極的に外部化を図らなければならない、④けれども単純な”丸投げ”のアウトソーシングがふさわしくない領域もあるため、コントロールをかけつつアウトソーシングする”アウトタスキング”も必要である、というロジックがあります。
それと並行して、どのような企業においても今「コア」であったものが、しばらくすると「コンテキスト」に成り下がる(というのも語弊がありますが、シビアに見ればそうです)という現象が発生するため、それへの対処も必要です。これはすなわち、自社における「コア」を定期的にチェックし、コア性が失われつつあるなら適時コンテキスト扱いとして、それはつまり何らかの業務プロセスを外部化してそれによって社内の資源を”浮かせる”ということに他ならず、その”浮いた”資源を新しく定義した/浮上してきた「コア」に投入するという、そのようなサイクルの繰り返しが必要になります。
そのへんについては、別な小冊子で「イノベーションを加速化するITアウトタスキング」というのがありまして、非常にわかりやすく説明されています。

以上はシスコが「NVO」「アウトタスキング」を外部の方に対して説明する際に用いている「コアvsコンテキスト」のあらましです。

今回日本で刊行される「ライフサイクル イノベーション」は、この「コアvsコンテキスト」の説明ロジックよりもさらに精緻化されたロジックが使われている模様です。私はゲラをざっと読ませていただいたのと、原著をざっと眺めたぐらいなので、実見による咀嚼はまだこれからなので、楽しみです。ということで本ブログにおけるネタばれはありません。ご安心を。

*なお、以上は、公開されている小冊子や情報などに基づいた今泉個人の見解であり、どのような意味においても、Cisco Systems, Inc. およびシスコシステムズ株式会社の見解等を代表、代弁するものではありません。

Comment(2)