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株式会社インフラコモンズ代表取締役の今泉大輔が、現在進行形で取り組んでいるコンシューマ向けITサービス、バイオマス燃料取引の他、これまで関わってきたデータ経営、海外起業、イノベーション、再エネなどの話題について書いて行きます。

電通+民放5社と楽天とはまだ互角(29日朝加筆修正)

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11月29日の日経朝刊一面で「楽天・TBS 和解へ最終調整」と報じられていました。これが真実だとすれば、楽天の判断は非常に正しいと思います。方向転換を行った上で、もっと同社に有利なエリアで展開していくことができます。

以下は28日夜に書いたものですが、基本的な内容には現時点でも意味があると考えているので、そのまま掲げます。なお末尾のパラグラフを修正しました。

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各所で報じられている通り、電通と民放大手5社がネット配信事業の共同検討を開始しました。先週末に日経で報じられた記事では背景についての説明もありましたが、本日公開されたプレスリリースでは非常に淡々とした記述になっています。
http://www.dentsu.co.jp/news/release/2005/pdf/2005063-1128.pdf

おそらくは日経が半ばリークのような形になったため、株式公開企業として必要最低限の情報を出そうということで、このプレスリリースの内容に落ち着いたのだと思われます。
何も具体的なことは書いておらず、ブロードバンド環境におけるテレビコンテンツの配信について、広く多方面から意見を募りつつ検討していきたいという意思表明だけです。しかし、これが楽天に対する間接的な宣戦布告になっていることに間違いはないと思います。

自分なりにポイントを整理してみます。

①顧客を握っている企業は強い
まず思ったのが「顧客を握っている企業は強い」ということです。言うまでもなく電通は、地上波テレビ広告で多数の優良顧客と取引があります。ブロードバンドでテレビ配信が一般化(視聴率の何割かが移行)した暁には、これらの既存顧客がブロードバンドでも広告を打つのが自然な流れ。媒体購入と広告制作をどこに依頼するかと言えば、すでに取引があって信頼関係も構築できている企業になるのが普通です。

インターネット広告が今の数倍~十数倍になったとしても、ロングテールのY軸にへばりついている圧倒的に取扱高が大きい顧客は、これまで通り電通が押さえるということになるのかも知れません。

2004年の日本の広告費は5兆8,571億円。このうち約35%がテレビ広告になっています。インターネット広告は年々拡大してきてラジオ広告に並んだとは言え、まだ3%強。

普通の人がブロードバンドでテレビ番組を見るようになるのかどうか、本当のところは誰にもわかりません。しかし、仮にそうなるのだと仮定すると、電通の稼ぎ頭である地上波テレビ広告部門ががたがたになってしまうわけで、放置すれば長期衰退企業ということになってしまいます。なので電通もおそらく必死です。
全力を挙げて戦ってくる電通と立ち向かうには、土俵を変えないとダメだと思います。

②コンテンツサプライチェーンという視点では、楽天に仕掛ける余地がある
ブロードバンドテレビ配信をコンテンツサプライチェーンという視点で捉えると、まったく違った世界が開けます。

周知のように、テレビ番組の制作は多数の制作プロダクションによって支えられています。現実問題としてテレビ会社の社員が行うのは予算の調整だけで、中身の企画からタレント手配、撮影、編集まですべてをプロダクションがやっているというケースも少なくないのではと推察します(間違ってたらすみません)。

要は、テレビ局は制作予算を握っている。そして地上波という媒体を持っている。けれども中身はプロダクションが作っている。
インターネット空間では、制作予算を拠出することができる企業は楽天を含めて多数ありますから、テレビ局が持っていた予算面での優位性はなくなります。同じく、媒体自体が多数のプレイヤーに開放されている空間なので、そこでもテレビ局の優位性はありません。

ということなので、どこか意欲的な企業が、野心的かつ優秀なテレビ制作プロダクションと組めば、オリジナルな、ブロードバンド向きのコンテンツを制作・供給できてしまいます(ただそのプロダクションはテレビ局からほされてしまうリスクがありますが)。よいプロダクションと提携することができるなら、電通+民放各社がやろうとしているTVコンテンツサプライチェーンの一部をスライスして、そこに割って入ることは十分に可能だと思います。

楽天がTBSの2割弱の株式を取得して経営統合を働きかけたのは、非常によくわかる話で、同社にはテレビ局事業の実体のほかに赤坂の一等地にものすごい現物資産(建設中のビルにはリッツ・カールトンが入る)があります。ネット配信新規事業がこけたとしてもあまり財布が傷まない。
けれども、このへんでそろそろ方向転換して、現在TBS株に投じている資金の一部ないしすべてを、テレビ局に依存しないTVコンテンツサプライチェーンの確立に振り向けるなら、駆使できる戦術オプションは無数にあるのではないかと思います。プロダクションの買収、勢いのある才能を集めた新会社の設立、等々。
また、電通+民放5局とは相互補完的な形で、テレビ番組の動画検索技術を提供するとか、高度にパーソナライズされた広告エンジンを提供するといった形で、ブロードバンドテレビの拡大に一緒に貢献するシナリオもあります。
コンテンツサプライチェーンを図にしてよく見てみると、仕掛けられる部分はたくさんあるように思います。

音楽配信を見ればわかるように、新しいコンテンツがイノベーター層からアーリーマジョリティー層に拡大してくるまでには5~7年かかるのが普通なので、今から準備してもまったく間に合います。

③可処分時間獲得競争として捉えれば、どちらが有利とも言えない
そろそろ可処分時間を軸にした議論が活発化してもいい時期だと思います。
広告費全体に占めるテレビ広告やインターネット広告のシェアも、詰まるところは、消費者の可処分時間をどれだけ獲得できるかにかかっています。

ヒトの1日は有限であり、可処分時間も増えるわけではないので、ある時間をブログに投入すればテレビを見る時間は減り、ある時間をブロードバンドTVに投入すれば新聞を読む時間は減ります。一定時間eye ballを奪わなければメッセージが伝えられない広告というビジネスを考える時、有限の可処分時間に依存するブロードバンドのテレビ広告は、他の既存広告と同様に、ある種の脆弱さをかかえています。(その点、移動時間という有効活用度が低いエリアをがっちり押さえたiPod+iTunesはすごい)

仮にブロードバンドTVを圧倒的に凌駕する可処分時間活用法が出現すれば(例えば大多数の人が1日1~2時間ブログの読み書きに投入するような事態が起これば)、それだけで広告取扱高は激減します。
そういう意味では、メディア視聴とは一線を画す「検索行為」でプレゼンスを持つGoogleが競合であり、これからたくさん普及する可能性があるWeb 2.0系の優れたツールがもたらす「エクスペリエンス」が競合になります。それを考えると、現時点では、電通+民放5社と楽天とでどちらが有利であるかはまったく判断できません。

いずれにしても、ブロードバンドテレビを強力な収益源に育てていくためには、技術や新機軸への積極的かつ継続的な投資が不可欠になってきます。Amazonはインドで非常に優秀なプログラマーを集めて店舗機能の強化を継続しています。Gooleは超優秀なプログラマーを数名単位で編成して、ものすごくたくさんの新規開発プロジェクトを走らせています。無論、多産多死を想定しての研究開発です。
こういった技術への投資を軽視すると、最初はサービスを立ち上げられてもしばらくするうちにユーザーの離反を招くでしょう。日本のインターネットユーザーは非常にリテラシーが高く、かつ要求度も高いです。世界でもっともウルサい顧客を相手に、お手本のない世界で、世界最高のブロードバンドテレビを実現していくことが期待されています。

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