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メルマガ連載「ライル島の彼方」最終回 ケアラーの働きかた(3) ~情報力が介護力になる~転載(2015/10/26 配信分)

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この記事は、メルマガ「デジタル・クリエイターズ」に月1回連載中の「ライル島の彼方」の転載です。

第13回/最終回 ケアラーの働きかた(3) ~情報力が介護力になる~

前回からの続き)

この国には、健康な成人が少ない(★1)。高齢者介護に限らず、既に、支える側の絶対数が不足している。
自分自身の健康維持さえままならない者が、仕事に加えて介護を担うことなどできようか。
在宅介護の推進は、介護離職を増やすだけである。労働力は不足し、税収は上がらず、社会保障は縮小される。
ITの活用が、悪循環を断ち切る唯一の方法だ(★2)。

■福祉機器とITで、負担を軽減

看護や介護と自分の人生の両立に困った時は、一人で抱え込むのではなく、情報を収集してから、助けをもとめよう(★3)。
公的機関の支援だけでなく、福祉機器や民間のサービスについても調べよう。
情報力は介護力になるのだ。

医療技術も福祉機器も日々進化している(★4)。
次にあげたものは、bingで単純に検索した結果である。筆者が使っているわけではない。
それでも、進化の様子は見てとれるだろう。

(1) 服薬管理

「服薬管理システム」や「服薬管理ロボット」をキーとして検索すると、多くの情報が得られる。

ケアボット」のような薬の飲み忘れを防ぐ機器も登場している。介護者がパスワードを設定しておけば、誤った過剰服薬も防ぐことができる。介護ロボットは、いまや楽天で購入できる時代なのだ。

マイナンバー制により個人の識別に対する関心が高まり、クラウドやスマホは普及している。服薬履歴管理システム「MEDLLECT」のようなクラウド型サービスも増えていくだろう(★5)。

(2) 排せつ処理

寝たきりなら排せつの都度介助が必要、というのは、既に常識ではなくなりつつある。
「自動排せつ処理」で検索すると、複数の企業がこの分野に参入していることがわかる。

たとえば、ダイワハウス工業株式会社の「マインレット爽(さわやか)」
全自動の排泄処理ロボットだ。センサーが排泄を自動感知し、吸引、洗浄、乾燥まで自動処理するらしい。介護保険の貸与品目対象機器でレンタル可能だという。

株式会社ライフの「自動排泄処理装置ダイアレット」。
株式会社エバーケアの「エバーケア」。これらも全自動システムだ。

草分け的存在だった「フローレット」は在庫限りの販売となっているようだ。
長年継続利用するにはメンテナンスも重要であるから、企業の持続力とサポート体制も導入機器の判断材料か。

トイレといえばTOTO。家具感覚で移動可能な介護用ロボットトイレを開発しているようだ。

こういったシステムを活用すれば、介護者の負担は大いに軽減する。介護される側にとっても、おむつより衛生的で気持ちよく過ごせるのではなかろうか。

なお、要支援や要介護1の段階であれば、全自動システムを使うほどではないだろう。呼べば近づく自走式ポータブルトイレがあれば、便利だと思うのは筆者だけか?
声に反応して移動させること自体は技術的には可能だ。だが、移動させる位置の計算、移動後の安全なロックの方法、この2点を解決する必要はあるだろう。

(3) 体位交換

寝たきりのままでは褥瘡ができる。しかし頻繁な体位交換は、介護者と要介護者の双方に負担が大きい。

旧・三洋電機株式会社バイオメディカ(現パナソニック ヘルスケア株式会社)の、体位変換介護ベッド「hist」のように、自動で体位交換を行うベッドは、必要だろう。

こういった体位交換ベッドに前述の全自動排せつ処理システムが一体化すれば、夜間の介護負担はより軽減するだろう。

(4) 機能支援

手足の動きを補完する機器が、続々と開発されている。
有名な「ロボットスーツHAL」は、現在は法人向けである。いずれは個人ユーザー対象にリースされることを期待したい。

こうしたパワードスーツは、以前は介護者の足腰の負担軽減が主目的であったが、現在では、要介護者の自立動作を支援するものになってきている。

ロボットだけでなく、装具も進化している。電源不要で手軽である。
たとえば、高齢女性には多い変形性質関節症には、関節装具「CBブレース」といった製品があるようだ。

靴も、オーダーメイドのサービスを行う企業がいくつかあるが、おしゃれなものになっていくだろう。
いずれ、松葉杖「スマートクラッチ」のように、ヴィジュアルも福祉機器選択の重要な要素になっていく。

3Dプリンタによるオーダーメイド装具や靴、新素材でワイヤーフレームを編み上げたような膝サポーターや靴下などの制作サービスも活性化するはずだ。

(5) 安否確認

要介護者と同居していない場合は、安否確認の手段が必要になる。遠距離介護ならなおさらである(★6)。
要介護者のプライバシーの問題やハッキングの問題をクリアできるなら、ネットワークカメラは有効だろう。

生活リズムや人感センサーを使った安否確認製品は、既に販売されている。
Amazonで「安否確認システム」をキーに検索しただけでも、デンケン「見守りくん 孤独死防止 安否確認センサー」、株式会社LIBERO「一人暮らし高齢者安否確認システム ドアセンサー基本セット」、アイトシステム「高齢者生活支援システム『きずな』 基本セット」などなど、複数の結果が表示される。

ウェアラブルの生体センサーが小型化すれば、より迅速且つ正確に通知されるサービスが増えると考えられる。

(6) 緊急対応

高齢者に高血圧や循環器系の持病があるなら、警備保障会社の緊急時通報サービスを契約しておくと安心だ。
筆者はサービスが登場した18年前に契約し、これにより、出張が可能になった。

いざという時は、警備保障会社のスタッフが駆け付けてくれる(★7)。 今ではAEDのリースもある。自宅にあればより安心だろう。

こういった緊急時通報サービスは、地方自治体の助成対象になっていることがある。だが、複数の保証人がいなかったり、防犯面も危惧される場合は、個人で契約した方がよいかもしれない。

(7) 食事と買い物

昔から御用聞きといえば、醤油店や酒店の得意とするところである。酒の配達の延長線上で、宅配サービスの加盟店として、御用聞きを行っている店もある。 また、近所に出前を行う大衆食堂があるなら、毎日の夕食の契約を相談してみるのも一方法だ。

介護者が数日に一度は訪問できる近距離に居住しているなら、自宅で調理したお弁当をホームフリージングして届ける方法がある。
届けられない場合のバックアップとしては、パックごはんやレトルトやフリーズドライ製品を常備しておけばよい。災害非常用品も進化しており、調理が簡単で味も良いものが増えている(筆者が長年利用している「あんしんの殿堂 防災館」)。

かかりつけの病院に尋ねてみるのも一方法だ。栄養士が管理する弁当「ミールタイム」のカタログを常備している病院もある。

地域医療機関のテナントとしてレストランなどを手掛ける企業が、配食サービスを手掛けている場合もある。社会福祉協議会に相談するか、企業名で検索してみるとよい。入院患者の食事のノウハウを持っているので、咀嚼力と嚥下力の衰えにも対応してくれるだろう。

週5日の昼食と夕食、あるいは夕食だけを、弁当の形で届けるサービスは増えている。ごはんの有無も選べるので、食が細い人も利用しやすい。地元の食材を使ったり、食品添加物に配慮している企業もある。

地元密着型のスーパーがネットスーパーを運営しているなら、タブレットで商品を表示して高齢者の希望を聞きながら、翌日分を注文するという方法もある(★8)。

コンビニも介護分野に乗り出している。セブンミール介護ローソンなどだ。
Amazonしかり、便利なサービスは競うように増えていく。

■ネット利用でスキルアップ

介護者は、四六時中介護に邁進するのではなく、自分の人生も考えおかなければならない。能力が錆びつかないように、学ぶ姿勢を維持する必要がある。インターネットは大きな力になる。

知識を得る方法は変わり続けている、学ぶ方法はいくらでもある(★9)。
通信制高校、通信制大学も増えた。放送大学もある。大学の無料配信授業もある。海外の大学の講座を受講することも可能だ。

自分の老後の不安を取り除くためにも、長期的視野をもとう。ITを活用した人生の長期計画を立てるのだ。

もし高校のレベルから学び直したとしても、大学卒業までは、たかだか7年である。仮に介護を終えたときに75歳だったとしても、82歳まで学んだ後に実践すれば、90歳までには何らかの成果をあげることはできるのではないか。寿命100歳以上があたりまえになる近未来、健康に留意する限り、自分の人生に注力する時間はある。

できれば通学して学ぶ方が、効率よく短期間で人生の山を登っていくことはできる。
だが、独学でも不可能ではない。険しいけもの道を行くことになるが、登っていくことはできるのだ。

むしろ、先導者がいないがゆえに、注意深く歩くため、その道中には、効率よく歩いた者の目にはとまらない、発見がある。
その発見に打ちのめされた瞬間、脳神経は一気に伸び、新たなネットワークが生まれる。それは、険しい道を歩いた脳にしか起こりえない。
そして、その経験以降、誰かに教えてもらう「知識」ではなく、誰かに伝えられる「智慧」が、蓄積していくようになるだろう。

これからは、計算機が処理可能な知識よりも、ヒトの中に眠る智慧が重要になっていく。
そのとき、平坦な道を歩んだ場合には得られなかった情報こそが、役に立つ。

生きることから学ぼうとする姿勢を失わない限り、何歳になっても、自分の道を歩むことはできるのだ。

ヒトの能力はひとつではない。
一つ目の夢は断たれるかもしれない。ならば二つ目の夢を見つけよう。二つ目も断たれたなら三つ目を見つければいい。
9個目の夢が叶わず、10個目の夢を見つけている最中に、自分の健康寿命が終わったらどうしようと不安にかられるかもしれない。 だが、不安は、状況を良い方向へと導くだろうか?

諦めるな。絶望するな。
科学技術は日進月歩で、今日発表された知見を明日には書き換えていく。
明日、画期的な機器が、画期的な治療方法が、発表される可能性もある。
人類の寿命は延びている。脳の健康寿命も延びる。伸びしろがある。可塑性がある。
自分の人生を自分の手で潰してはならない。

不可能?前例がない?
それなら、自分が前例になればいいだけだ。

■メルマガ連載の無期限執筆休止のお知らせ

こういった内容の記事を書いていることからもお分かりのとおり、筆者は、長年、親をケアしている。頻繁な通院、度重なる入院を支援しつつ、家事を担い、仕事をしている。

開業後は、納期前や締切前の緊急出動に備え、調査や技術習得にかかる時間を圧縮することにより、数日間前倒しのスケジューリングをする方法で、締切や納期をクリアしてきた。
本連載についても、夜間の救急搬送に付き添った後、初代Surface Proを親宅に持ち込んで泊まり込み、枕元で執筆したことが何度かある。

そして、現在は、本格的な介護が必要になる手前の段階にある。それだけではない、関わることの多い家族親族の中に病人が増えている。
心身ともに健康なのは筆者ひとり、という状況にある。家事や生活支援に使う時間は年々増えるばかりだ。
共倒れを避けるには、作業を絞り込むしかない。

そのようなわけで、2010年12月20日号から月1回書き続けてきた連載は、今回でひとまず終わりとさせていただく。
締切までに字数を埋めるだけのラフな書き放しなら継続は可能だが、練り上げてもいない生煮え原稿を晒すことはできない。

今後、より進化した福祉機器を導入し、家族親族が健康を取り戻して、筆者に余裕が生まれた暁には、再び続きを書き始めるかもしれない。

連載「データ・デザインの地平」と「ライル島の彼方」の、読者の皆さまに感謝いたします。

今後は、このブログ「イメージ AndAlso ロジック」に、気軽な雑文や近況を書いていきます。

★1 厚生労働省 平成15年度地域保健・老人保健事業報告の概要(1) 2 基本健康診査「図2 性・年齢階級別にみた基本健康診査における指導区分別構成割合」参照。

★2 筆者がXML黎明期の1998年に執筆し、CALS関係のメルマガで配信されたコラムの中の、一画像である。
17年経った今も、介護のための情報連携は進んでいるとはいえない。

★3 ケアマネージャーの経験と口コミ情報に頼るだけでなく、自治体のウェブサイトの情報もチェックしよう。高額医療費、介護保険負担限度額認定、バリアフリー化リフォーム助成、福祉機器の貸与、高齢者向け優良賃貸住宅など、さまざまな情報がある。

★4 「介護ロボットポータルサイト」も参考になりそうだ。

★5 日経デジタルヘルス、2015年10月14日「"錠剤を取り出すだけ" 服薬管理システムの有用性は?」を参照。

★6 神奈川県は同自治体のウェブサイトで「センサー・機器等による高齢者の見守り・安否確認サービス実施企業一覧」を掲載している。

★7 賃貸物件で合鍵を預けるには、オーナーや管理会社の許可を得るべきであろう。警備保障会社からは鍵の預り証が発行される。

★8 愛媛県松山市の配食や買い物のサービスの一例。
御用聞きチラシがしばしば投函されるわんまいる。。
クロスサービスは、松山赤十字病院B1食堂テナントであり、社会福祉協議会の外注先のようだ。コープえひめ「らっくる」も、フリーペーパーにしばしば広告が。大手スーパーの買い物サービス、フジネットスーパーおまかせくんは、配達区域拡大中のようだ。。
宅配は増えている。お届けガスト、釜飯、寿司など、ポスティングされる情報も多い。個人食堂の出前のような検索されないサービスも多々ある。ただし、冒頭にも書いたが、筆者はまだ利用したことはなく、これらはパンフレットやbing検索によって知った情報にすぎない(今後利用する可能性はある)。

★9 働く両親の代わりに祖父母を介護、要介護の親を介護しつつ家事も担当、介護する親の代わりに就業、といった学生が増えつつあるらしい(自身がヤングケアラーだった筆者は、増えているというよりも、表面化しただけではないかと思うのだが)。彼らの一部は、介護離職ならぬ介護退学することがある。「一般社団法人日本ケアラー連盟 ヤングケアラープロジェクト

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