英語格差
先日、北海道のJavaFesta講師控え室で、Amazonの玉川さん、Oracle寺田さんと三人での会話において、こんな話が盛り上がりました。(いや、正確には盛り下がった)日本のIT従事者の中に「英語格差」が起きているという話です。以前にもブログに書いたことがあるような気がしますが、三人寄って同じ話題になると、実感もひとしおです。
話のきっかけは「英語で発表された内容を急いでブログに書かなければならなかった」というところから始まり、「翻訳予算の削減が進んでいる」という話。玉川氏がいるAWSは、ITサービスをしている企業という意味では、3人ともITベンダーの仲間であり、企業の中枢は米国にあります。グローバル企業であることも手伝って、基本的に新出の製品やサービスのほとんどが英語で発表され、ドキュメントも英語です。ものによっては、製品も英語のままであることも増えています。この傾向はおそらくすべての外資系IT企業に共通のことであろうとも。
私が入社したころ、社内技術部門だったので日本語のドキュメントなんてどこにもありませんでした。(技術資料は、ほとんどがConfidentialなので日本語に訳す必要がなかった)フィールド部門で日本語のマニュアルをはじめて見たときには感動したものです。ソフトウェア事業に移籍してからはフィールド部門になったため、日本語の資料の豊富さはブランド部門の強さに関係があることも知りました。
しかし、徐々に日本語化の比率は下がっています。その理由はたくさんあります。
- 日本の市場が成長傾向にないため、投資が減っている
- 新製品発表や買収などもあり、製品の数が多すぎてすべての翻訳に手が回らない
- ソーシャル・ネットワークの普及により、ドキュメント以外にも情報が爆発的に増えていて、翻訳が追いつかない
日本におけるIT従事者の英語力の低さは、自分もそうであることからも身をもって実感しています。このため、ソフトウェア事業でエバンジェリストをしてきたこの11年間の大きな課題は、日本の市場において英語のドキュメントしかない製品やテクノロジーが避けられている傾向に対する対応に終始していました。私が担当していた先進テクノロジーのほとんどが、当然のことながら日本語のドキュメントが十分に準備されていたわけではないからです。いち早く日本語で翻訳して情報を発信すること。英語でもドキュメントを読み下すヒントを与えること。そういった活動を通して、少しでも先進テクノロジーに触れていただく機会を増やそうと思っていました。
グローバルチームに、このローカル施策の意味を説明したとき、英語の壁について情報を収集したことがあります。日本のTOEFLのアジアランキングは、某共産国に継いで下から2位、TOEIC点数のSEの国内ランキングは、かなりの下位でした。つまり、SEはぜんぜん英語できないのです。
日本は比較的早くからITを取り入れた国のひとつでしょう。国産ベンダーも多く、ちょうど経済成長期にIT人口も増えたため、たくさんの人材が必要でした。このため日本語のドキュメントをふんだんに用意し、「IT業界には英語は必要ない」という議論が起ってしまうほど、手厚く保護されていた歴史があります。しかし、グローバルチームは、全く理解できていないようでした。英語ができない、というレベルを「方言がわからない」と言っている程度にしか理解しないのです。
しかし、今日、多くの先進テクノロジーが生まれる中、日本語に訳されないものが大量に存在します。このため、かなり大きな割合の日本国内IT技術者が、ほとんどの情報に触れられない(触れたくない)状態で過ごしている状態になりつつあります。これを、「IT業界の英語格差」と論じたわけです。IT業界で、英語のドキュメントを読む人と読まない人の間には、大きな格差が出始めています。
この問題は根が深いです。改善には大きく分けて二つの方向性があるでしょう。
一つは「IT業界の英語能力の底上げ」です。しかし周知のように、ある程度年齢が進んでからの英語力向上は難しい課題です。若い人には徐々に英語ができるひとが増えてきていますが、一巡して入れ替わるには何十年もかかります。
二つ目は「英語ができなくてもよい環境を整備する」ことです。これには多くの方法があります。旧来は大量の予算を使って翻訳していましたが、これをソーシャル化して「訳せる人が訳す」という方法が考えられます。この方法は、n.Fluent というプロジェクトとして実際に行われています。( http://www.research.ibm.com/social/projects_nfluent.html) しかし、「中身が間違っていて、訂正が必要になった」なんていう問題も発生する、という話もありました。そして究極は自動翻訳でしょう。日本人は先進国の中でも突出して英語ができない国なので、翻訳技術に税金をつぎ込んで、実用レベルの翻訳機を開発してみてはいかがでしょうか。