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夏目房之介の「で?」

徐園「ジャンル別に見た初期の新聞連載子ども漫画」(「ビランジ」28号)

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前掲「ビランジ」28号掲載の中国人民大学・徐園氏の論文「ジャンル別に見た初期の新聞連載子ども漫画」も、色々と考えさせてくれるものだった。

徐園氏は、現代日本のマンガの多様性を生み出した先行ジャンルとして、明治末~大正期に成立する子ども漫画に焦点を当て、新聞連載漫画の中の子ども漫画を三つの主要な下位ジャンルに分けて考察している。

まず、欧米の影響で成立する生活ユーモア漫画(明治35年からの北沢楽天『凸坊』、昭和9年からの横山隆一『フクちゃん』シリーズなど)。これは、戦中に翼賛物に変化し、戦後は『サザエさん』などの生活漫画の定着につながる。

次に大正期に始る忍術・武者修行物(大正11年からの宮尾しげを『漫画太郎』など)。これは明治44年から始る「立川文庫」シリーズに影響された全国的な「忍術ブーム」が子ども漫画に影響したものとされる。

最後に、大正期に新たに成立するジャンルとして「冒険・ファンタジー漫画」(大正12年からの『正ちゃんの冒険』、昭和5年からの『スピード太郎』など)をあげる。これも欧米の影響を受けての、バタくさい世界で、戦後の手塚・酒井『新宝島』への関連を指摘する。

このうち、「忍術修行」と「冒険・ファンタジー」は、日中戦争以後、国家総動員令、児童読み物取締りの流れの中で失われていったという(たしか松下井知夫が戦中戦後にまたがる冒険ファンタジー系の新聞連載をしていたと思うので、このあたりは例外もあるかもしれない)。

重要なのは、この流れを、児童読物規則の、生活重視、科学的思考啓蒙といった流れの中で、空想的な忍術やファンタジーが抑制された側面を指摘しているところと、とくに忍術物について、立川文庫も『漫画太郎』の東京毎夕新聞も、中産階級以下、「労働者階級」の受容メディアだったと指摘している部分だ。

立川文庫や娯楽性の高い子ども漫画などに敵対的だった良識的な児童文学を推進する啓蒙主義(戦後も同じ流れの人々がマンガ・バッシングを進めた)は、メディアの受容層を考えれば、一種の階級対立でもあったのかもしれない。単純な階級対立イデオロギーで考えたいのではなく、近代主義と対立する要素が、どのような抑制を受け変容して戦後に連続してゆくかを考えてみたい。

「忍術」は、この三つのジャンルの中では、日本の講談本的空想の継承だろうし、紙芝居など、いわゆるモダニズムとは一線を画す想像力の系譜だろうと思われる。この系譜が戦後の時代小説復活に伴って、「忍者」「忍法」という異なった姿で復活したことの意味を、戦前との関連で考えてみることは、なかなか魅力的なテーマだろうと思う。

実際には、膨大な戦前戦中戦後の小説の流れを調べないと何もいえないので、手につかないが、忍者ブームと忍者物の意味は考えるに値するテーマだなと、あらためて思う。誰か詳しい人いないかなあ。

以前、忍者物について書いた備忘録。
「備忘録 忍者ブームのこと」
http://blogs.itmedia.co.jp/natsume/2010/10/post-bc5a.html

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