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夏目房之介の「で?」

ササキバラ・ゴウ氏のテプフェール論と「コマとは何か?」

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ササキバラ・ゴウ氏の「まんがをめぐる問題」の面白さについて書きましたが、そこで論じられている「西洋マンガの祖・テプフェール」の代表作をササキバラ氏が同人誌で出版しています。すでに「漫棚通信」で詳しく書かれています。

『M(ムッシュー)ヴィユ・ボア氏』

コミティアで販売されたのをゼミの聴講生でもある原氏に代表して買ってもらい、ゼミでグルンステン『線が顔になるとき』の議論の延長で議題にしています。
僕は西洋のマンガ史とかには全然疎いので、なぜテプフェールがこれほど評価されるのかも知らなかったわけですが、実際初めて読んで驚いたのは「面白い」ってことでした。ホントに驚いたことに、そこにはスラップスティックがあり、キートンがいて、ポパイとプルート、オリーブの関係がありました。事実、僕は声をあげて笑いました。

昨日のゼミでは、原氏がテプフェール前後のマンガの紹介、とくに影響のほうを紹介し、瀬川氏が多くの西洋マンガ史の資料を見せてくれ、僕がちょこっと表現論的な分析をして、ササキバラ氏の議論とすりあわせを試みました。マンガ以前の「コマ的なるもの」としての枠や並列的な表現が、いかにして今の我々にとっての「コマ」になるのか、というスリリングで厄介な問題ですね。いやあ、猛烈に面白い! 「まんがをめぐる問題」は、表現論の原理的部分としても画期的な段階を示すエッセイとして今後評価されるんじゃないですかね。
この議論は今後も進めたいと思っており、講義のほうでも視線誘導論から、その前提としての「コマとは何か」に移ってゆくので、テプフェールと「まんがをめぐる問題」の紹介をしようと思っています。学部生には難度が高いかもしれませんが、知ったことじゃない(笑 またいずれ詳しく紹介できれば、と思っております。

以下、ゼミ用のメモです。

2008.11.26 学習院大学 身体表象文化学 夏目房之介ゼミ 参考レジュメ

ロドルフ・テプフェール『M(ムッシュー).ヴィユ・ボワ』1839年版)

 佐々木果(ササキバラ・ゴウ) 制作 オフィスヘリア発行 2008.11.10

ササキバラ論文 12「テプファーのコマ割り表現」

「ある」と「ある」の足し算→〈テプファーの表現では、読むことによって、そこに描かれていない意味が生成する。A+B+CによってDが表現される。/もちろんテプファーの作品でも、多くの場合、A+B+CによってABCが表現されている。しかし、それだけでは収まらない剰余が生まれている。コマとコマの関係性自体が意味を生産するのだ。〉

〈「潜在的な複数」を呼び込んでいく連鎖〉 ※剰余と資本主義の増殖原理の社会化(近代)?  

参考 〈資本主義とは、かつてはそれぞれ孤立し、閉鎖されていた価値体系と価値体系とを相互に連関させ、それらを新たな価値体系の中へと再編制してしまう社会的な力にほかならない。〉 岩井克人「ヴェニスの商人の資本論」ちくま文庫 68p

図1 3p 同一室内での座りなおし=「近い時間の分節」 少しずつ視覚の変わる背景

 「退屈」の時間表現 表情、行動形態、ろうそく ほぼ同じ構図・視野の連続による併置

図2 12~13p 行動(失踪)の方向と結果 右向きの時間流 方向の逆転 行動の加算

 12p1コマ目→2コマ目の効果 前のコマでの失踪と障害→(帰路の同様の障害の連想)補完

 13pの「歩いて帰る主人公」=12pまでの失踪・速度感と急停止 モンタージュ?

図3 32p 縦方向の構図と行動 「下着を着替える」場面の非連続的反復 シークエンスの転換

 各シークエンスを結ぶ「と」のユーモア?(接続詞としての転換コマ 

図4 42p 図1に同じ時間 ただし気分の盛り上がりを表現 3コマ目=微妙にアップに

 パーマネントでない特性=情動の表現 「テプファーの法則」(ゴンブリッチ)

人の顔と解釈できれば、どんなに雑に描いた形象もそれ自体でなんらかの表情や個性を表す

図5 56~57p 最も失踪速度感の強い場面 56p2コマ目の効果(解き放ちの間

 空の大きさと白黒=情報の少なさ 情報量と「滞空時間」の比例→速度感との反比例?

図6 58~59p 奥行き視角の分節 〈連続性そのものがむき出しになって前面にあらわれる〉〈1コマ1コマの無意味さ〉(ササキバラ) 

図7 62~65p 恋敵(ポパイのプルート役!)の水車反復 別々の場面の並行

 同一時間(物理的客観的時間)上の異なる場所で同時並行の事件→一方のコマと他方の事件の補完生産する読者 そこに描かれない者の存在=関係そのものの表現=目に見えない物語

〈連続した絵の関係自体が、見る者の内に意味を生み出す〉(ただしホガースについての言及

図8 88p 砂煙の動的表現 「誇張」→肖似性ではなく現実とイメージの等価性(「文字」性?

モデル

二つの「反復」 反復1(図1) A/B/C( ) E    A(a)B/C/D(a)E   可視範囲

(図2)の省略コマ ↓    ↓ ・・・・ ↓  反復2(図3)

                       D        (aanの系列)  不可視の「関係」

18C. ホガース 「現実」反映としての「表象」 観相学(性格→顔) 自然科学的な反映論

19C. テプファー 「等価性」(アフォーダンス)としての「現実」と「表象」(表象の自律→創出・類型としての「性格」

 視覚文化の変容(自然科学的な「知覚」観への「身体性」の介在

参考図版

図9 『天狗通』1799 日本 ①ページ見開き効果と建物のラインによる「コマ」的効果

 ⑤手品の手順分節 ページの横割り枠 人物の手・顔アップの手法

図10 『人間一生胸算用』 江戸期 雲形「コマ」 シークエンスの転換(絵巻物などの伝統

 初期アメコミ映画的ショットの意識? ナレーション、吹き出しの形態

夏目『マンガの深読み、大人読み』

図11 「近代の連続コマ・マンガ成立仮説の図式」 絵・言葉と「絵物語」のモデル化

夏目「仮説・コマの発達史」『マンガの読み方』所収

参考

不変項 〈観察者の移動や環境の変化にともなって[包囲光]配列の構造が変化する。この変化(ギブソンは「遠近法構造」と呼ぶ)が環境の中で「不変なもの」が何かを明らかにする。〉佐々木正人『アフォーダンス 新しい認知の理論』岩波 94年 観察者の行動(アクティブ・タッチ)、環境への接触意志が認識を生成する 知覚とは環境との相互関係

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