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【書評】『世界をやりなおしても生命は生まれるか?』:解けない問題へのアプローチ

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著者: 長沼 毅
朝日出版社 / 単行本(ソフトカバー) / 304ページ / 2011-07-01
ISBN/EAN: 9784255005942

表題の問いに対して結論から述べると、「わからない」というのが本書の解答だ。いきなりのネタばらしで恐縮ではあるが、それによって本書の魅力が損なわれることはないだろう。本書の最大の魅力は、「わからない」ことを追求するためのプロセスを描いているところにあるからだ。本書は自称「変な生き物」の研究者が、十人の高校生と行ったセッションをベースに、「生命」の輪郭を描いた一冊。

◆本書の目次
第1章 地球外生物の可能性は地球の中にある
第2章 生命のカタチを自由に考える
第3章 生命を数式で表すことができるか?
第4章 生命は宇宙の死を早めるか?

科学者の思考とは、どのように推し進められるのか?そのアプローチが、ドンズバで描かれている。例えば地球外生物について考える時に、多くの人の頭の中に浮かぶのは、地球や他の惑星の地上にいる生命体のことだろう。しかし、著者の思考は、まず地球の深海に棲むチューブワームの方向へと向かう。

深海底のさらに奥には、生物世界のフロンティアが広がっているという。その生物量の数は、陸上・海洋生物圏の二倍以上にも達する。これらの生物は海底火山から湧き出る化学エネルギーによって生きているものだ。ここに着目すると、当然他の惑星で、海底火山のあるところはないかという疑問がわいてくる。そんな絶妙のタイミングで、木星のガリレオ衛星において火山活動が確認されているという話が紹介される。こうした迂回路を経由するアプローチによって、地球外生命体の存在が、にわかに現実的なものに思えてくるから不思議なものである。

生物の三大特徴とは、自己複製・増殖、代謝、細胞である。これを著者は、油滴を水の中に溶かすことで人工的に再現してみせる。さらに、これを見せながら、この油滴は生命かなどと問われると、誰しもが違和感を感じる。その違和感の正体こそが、生命の本質的なところなのだ。ここから話はいつのまにか化学、物理学、哲学の方へと舵を切り、分かったような分からないような寸止めのところまで読者を誘う。

そして、その過程で繰り広げられる生物学者と高校生とのセッションが、実に瑞々しい。まるでサンデル教授の白熱教室のようだ。ただし、サンデルは高校生の方。的確な質問で、生物学者の多彩な知識を引き出していく。相互の活発なやり取りによって、学者と高校生の知識が平衡になっていく様が、本書の後半に頻出するエントロピーの増大とも重なって見える。

解けない問題と対峙することで生み出される好奇心、未来への可能性。日頃は答えのある問題にばかり直面しているであろう高校生というフィルターを通して、科学の魅力を存分に伝えている一冊である。

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