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【Book】『レイヤー化する世界』 - 光の帯になっていく個人

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佐々木俊尚さんの著書には、いつも打ち出されるキーワードに注目している。漠然と無意識に感じていたような空気感が上手く言語化されており、僕にとっては自分と時代との距離を測るモノサシのような存在だ。

ノマド、キューレション、当事者。そして今回はレイヤー。ノマドの時には、そのキーワードをずいぶん遠い世界のことのように受け取っていたのだが、キュレーションの時には「きっとこの先はこうなる」という確信を持つことができ、今回のレイヤーという言葉は、まさにリアルタイムな概念として受け取った。

世の中は、大きな流れとして垂直統合から水平分散へ。これをレイヤーという概念を用いて紐解いていくわけだが、ITの世界に閉じた話ではなく、世界システムという大きな構えから論考しているのが本書の特徴である。このような立ち位置をとることによって、IT以前の世界、さらにもっと前の近代や中世の時代へと地続きに流れを追っていけるのだ。

根底にあるのは、近代以降、蔓延ってきた国民国家及び民主主義というシステムの在り方が特殊事例だったのではないかという視点だ。これを中世以降の歴史を追いながら見ていく中に、レイヤー的な物の見方の一端が垣間見える。

ある一定の幅をもった歴史を輪切りにして、その切り口の断面を分析する。言わば水平軸を導入して、テクノロジーと文明の相関関係を解き明かすというやり方。また中心点がヨーロッパに置かれていない。「中世 ー 多くの民族がともに栄えた帝国の時代」の章で描かれているのは、イスラムが栄華を誇った時代、"辺境"に追いやられたヨーロッパの姿なのである。

このような歴史観というのは、先行する類書がないわけではないのだが、いずれもハードで難解な書籍揃いである。その中で本書は、徹底した分かりやすさという点において抜きん出ているという印象だ。

背後にはおそらくこのパートだけでもヘビー級の書籍50冊分程度の知識がそびえ立っていることであろう。これが、わずか100頁ちょっとの分量に纏められているのだ。また、本文中に掲載されている新書らしからぬ味のあるイラストも、柔和な顔つきに彩りを添えている。

著者によれば、中世の世界システムはとても強靭で、しなやかなシステムであったという。そこでは、様々な民族が同居し、帝国の内外を結んで交易のネットワークが整備されていた。いまのように「一つの民族が一つの国家」ではなく、複数の民族が集まって一つの帝国の下で暮らしていたのである。

それを可能にしていたのが、ローマ帝国の場合は言葉であり、イスラム帝国の場合は宗教であった。つまり国民国家成立以前の世界を眺めることによって警鐘を鳴らしているのは、自分が立っている前提条件としての世界システムに無自覚であってはならないということであり、それが副題の共犯というキーワードへとつながっていく。

現在、それに取って代わっているのが、Apple、Google、Facebookなどの超国籍企業が作り出す<場>というもの。この<場>と我々との関係というのが、実に奇妙なものである。互いが互いを出し抜こうと必至に動き、しかし結果としてそれが互いの存在を強くしてくことにつながっていくのだ。このいかにも人間らしい<共犯>という関係を、テクノロジーとの間に築くべしというのが、本書のもう一つの重要なメッセージである。

その先に、はたしてどのような世界があるのか?答えは、マクロな歴史の話から、個人の物語へと集約されていく最終章にある。ソトとウチという境界があることによって担保されていた多様性、その行き先としての個人である。レイヤー化された世界とまるで合わせ鏡のように、個人がレイヤー化した模様が描かれている。

事例の一人として登場する南 暁子さんについては、まさに僕自身も当事者として体験した出来事である。詳細は、こちらの記事を参考にしていただきたいが、このアイコンをきっかけに、僕自身、佐々木さんとレイヤーでつながる機会に恵まれ、さらにそのつながりはHONZのメンバーになることで、もう1レイヤー追加された。

今や、成毛眞を初め、メンバーの数人が使用しているアイコンがまさに彼女の手によって描かれたものだ。これが僕の目には、2つのレイヤーが重なり合う姿として映っている。

本とアイコン、そんな身近なことがきっかけでも他人とレイヤーという概念でつながり合えると実感したのが、このわずか数年での出来事だ。中にはたったそれだけのことでと思われる方も、いるかもしれない。だが、要はたったそれだけのことを、どこまで面白がることが出来るかなのだと思う。

自分自身のレイヤーを見つめ直せば、きっと何かが見つかる。レイヤーの数だけ青春がある。スケール感の大きな話題でありながら、素直に感情移入することができるのは、そんなパーソナルな着地点によるところが大きい。実に甘酸っぱい読後感であった。

本書は全ての人におすすめ、それだけではもはや物足りないようにも思える。スタンダードな部分も、マイノリティな部分も含め、あらゆる人の全てのレイヤーに染み込ませたい、そんな一冊である。

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