フランス料理・恵比寿「マッシュルーム」山岡昌治シェフに聞く【第三回】アイデアの秘密とは 人に教えることこそ自分の才能をのばす
恵比寿「マッシュルーム」フレンチレストラン、山岡昌治シェフへのインタビュー第三回。
1984年から4年半、苦労して渡仏し、本場での修行を積んできた山岡シェフ。
当時と比べて、現在の日本におけるフランス料理界はどうなのでしょうか。
「日本のレベルは高いですね。フランスでも、今までやってきた人の実績で日本人の評価は上がっています。」
「日本人は味覚が繊細で、いろいろな要素を取り入れるのが上手。元々、日本料理という素晴らしいフィールドを持っているので、そこから素材の扱い方や技術を学んでさらに高い領域にに昇華している。日本人のアイデンティティを生かした、フランス人には表現できないような、日本人だからこそ出来るフランス料理を作るシェフが増えてくると思う。それが今、一つの食文化になっている。」
「美味しいものを作るだけだったら、もはや日本で修行しても十分できるようになった。しかし、フランス独特の、日本人ではちょっと考えられないような香の組み合わせや、味のつけ方、表現の仕方は、フランス人が文化として持っているものがある。文化を学び感じるのであれば、やはり現地行ったほうがよい。ボクだってあと4~5年・・・10年くらいはいたかったもの。」
と山岡シェフはいいます。
山岡シェフの料理は、しっかりとした奥の深いソースと卓越した技術で作る本物のフレンチだと思います。そして、ゆるぎない正統派としての基盤の上にある独創性。ミステリアスなキノコや叙情的な山菜などと合わさるその料理は、口に含むと官能的でさえあります。
その素晴らしいアイデアはどうやって生み出されるのでしょうか。
「自分の中に、香や味、食感の引き出しがあり、それらを組み合わせる。食べたことない味なのに頭の中でシミュレーションすると味が感じられるのです。そして”これはうまい”となったとき、イメージがバッと固まる。そして、実際作ってみるとそういう味になるのです。最近はこれがはずれない。以前は引き出しが少なく、イメージがわかなかった。組み合わせの味が浮かんでくるようになったら、そういうときは間違いがない」
山岡シェフは、数年前まで料理を教えていました。「人に教えることはとてもプラスになった」とおっしゃいます。
真剣に分量を考え、「シンプルで美味しいもの」という組み合わせのレシピにすることが必要で、それはシェフにとってもすごくいい勉強になるのだそう。
教えることで、教える側がレベルアップするということがあるのです。
「事前に作って味はわかっているけれども、実際に目の前で生徒たちが食べて、喜んでもらえると、本当に楽しくて。料理人冥利に尽きますね」
山岡シェフの教室は、お店でも出すようなオリジナルのレシピを教えてもらえて、しかも、ワインとの組み合わせも勉強するために、わざわざワイン専門の講師も招いて行う贅沢な教室でした。
私もそこの生徒の一人だったのですが、毎回楽しくて仕方ない。「自分の中にこんな味覚のフィールドがあったのか!」という新しい発見が必ずあるのです。イマジネーションの可能性が広がる、そんな瞬間をいつも感じていました。
「教えたものを作ってもらえたというのを聞くと、とても嬉しい。作れるようなのを教えているのだから、どんどん作ってほしいね。そしてその料理を皆に広めてもらえたら、本当に素晴らしいと思う」
職人が自分を守るために教えないという古い感覚ではなく、自分の知恵や技術をオープン化して、フランス料理の文化をさらに多くの人に知ってもらい、人生を豊かにしてもらいたい、という山岡シェフの高い志を感じました。