指揮者とは腰が低い職業
指揮者という仕事、やってみたいと思わない男性はいないといわれています。
なにせ、100人ほどのオーケストラを、しかもプロともなれば一人一人はソリストでも通用するほどの腕前の人たちを、それこそ棒一本で自由自在に操る職業。演奏会成功の賞賛の拍手は全て指揮者に向けられる。
しかし、自分の言うことを聞かないような演奏者は簡単にクビにしたり、トスカニーニに至っては、癇癪を起こしてコンサートマスターを怪我させてしまったり、などという独裁者のような指揮者はもう一昔前の話。
この頃は腰の低い指揮者が多いのです。
先日ご紹介した人気若手指揮者、グスタボ・ドゥダメルも、名門ウィーン・フィルを振ったとき、ステージ挨拶でもバイオリン奏者最前列のラインから一歩も出ずに控えめにしていました。指揮者はこういうとき、一身に脚光を浴びるはずなのですが、最後まで謙虚な態度を崩さなかったといいます。
また、ある有名指揮者は、オーケストラに対する言葉が丁寧で、本番でも必ず指揮台に上がる前にオーケストラに向かって頭を下げています。
以前、一緒に仕事をしていた指揮者の先生は「ホルンが音を外してしまうのはボクの指揮が悪かったんじゃないかって反省する。ホルンは演奏が難しいから、指揮者が考えて棒をふらなきゃいけないんだよ。小澤征爾さんだったら、スパッと合うんだろうなあ・・・」と普段の強気はどこへやら、ものすごく気を使っている様子でした。
また、あるところでは毎年新人指揮者何人かと契約します。古株の団員が腕組み足組みしながら、ドスの効いた声で一人一人挨拶が終わるごとに「よぉ~し」「よぉ~し」と言われ震え上がった、という話を聞きました。力関係は最初が肝心なのですね。
長い期間修練を積み、一過言持つ専門家集団が、それを統率する人間に技術や人間性がなかったら言うことを聞くわけがありません。
「すみません、ここはもう少し、こう・・・強めに演奏してくださいますか」
というように言って、オーケストラに動いてもらわなくてはならないのです。
コンサートでみているだけだと偉そうな感じがしますが、大変気を使う仕事。オケに気を使い、インテンダント(劇場総支配人)に気を使い、ストレスも尋常ではありません。
この頃、経営者といえども、威張ってはいられないといいます。
ある人は「私は、社員の皆さんに自分のできないところをやっていただいています。喜んで雑巾がけをさせていただきます」とお話ししてたのが印象的でした。
オーケストラの指揮者といえども意外と一般の社会と同じような感じなのです。
想像しているよりカッコイイだけの仕事ではないようですね。