鳥のように高いところからの俯瞰はできませんが、ITのことをちょっと違った視線から

InDesignユーザーが一堂に介したイベントで電子書籍の今と未来が語られた

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 先週金曜日は、「INDD 2012 Tokyo」というイベントに取材のために参加。このイベントは、「InDesignユーザーの祭典」となっており、制作の現場でInDesignを使いこなしている人たちのためのセミナーイベントだった。

 今回のイベントが開催された背景は、かつては「InDesignコンファレンス2008東京」などのイベントが開催されていたが、ここ最近はInDesignをテーマにした集中セミナーは開催されておらずその開催が望まれていた。一方でユーザー主体の勉強会などは活発化しており、「これらのノウハウや熱意をもとに、ユーザー主体で、毎年継続開催していけるようなセミナーイベントを開催していこうと、有志によって企画されたのがこの「INDD」(アイ・エヌ・ディー・ディー)です」とWebにある。アドビやモリサワが特別協賛している大規模なイベントではあるものの、イベント自体は有志によって運営されているユーザー主導のイベントだ。

電子書籍化で自動化できるところはより安く早くできるようになる

 今回は、InDesignトラックと電子書籍トラックの2つが用意されていた。セッションタイトルや内容を見ると、まさに現場で使っている人などが講師となり、ユーザーが知りたい情報を共有するものとなっている。私が参加したのはもちろん電子書籍トラック。じつは、1つ目のセッションには、ここ最近オープンエンドとeBookPro共同で開催しているセミナーでも講師をしてもらっているイーブックデザイナー 境 祐司氏が「電子書籍オーバービュー」について語り、2つ目のセッションには我らがeBookProの佐々木さんが「EPUB制作におけるInDesignの活用」と題してEPUB制作の現場の話しをしたのだ。

 境氏は、EPUB対応のkoboの登場はもちろん、Apple iBooks Store、Google playでの書籍提供の状況をみても「EPUBは外せないフォーマット、急激に増えていくだろう」と指摘。EPUBではないけれど、Amazon Kindleの新しいフォーマットであるKindle Format 8でも縦書きの日本語が表示でき、これもEPUB3から変換できることが伝えられた。

 もう1つのトレンドとして紹介されたのが固定レイアウトのEPUB。さらにはリフローと固定のハイブリッド型といった、両者のいいとこどりをする電子書籍。こういった電子書籍でのCSSを用いた複雑なレイアウト表現については、Adobeが開発中だとのこと。InDesignからKindle FormatやEPUBへの書き出しは、いま大きな進化の最中とのことだ。そして、InDesignのようなツールで自動的に生成できる範囲については、今後どんどん迅速かつ安価になっていくだろうと指摘。そうなれば、この制作部分でビジネスを行うのはかなり厳しくなりそうだ。

 ビデオを活用するとか、自動化では対応しにくいところの企画、制作といったことが肝となるだろう。現状、大手出版社は既存の紙の書籍をとにかく安く素早く電子化する動きなので、どんどんコストは安くなる方向性。これに対し小さい出版社などが、新しいじっくり作る電子書籍にチャレンジする流れがでてくるのだろうと境氏。そんな中、DTPのデザイナーの可能性としては、リフロー型でも複雑なレイアウトを行う「アドバンスドレイアウト」の制作といったあたりが今後は進んでくるはずだと境氏は言う。

PODもあればEPUB以外の世界もある

 境氏のあとに、直接電子書籍の話ではないけれど、アマゾンジャパンの渡部 信氏が登壇し、Print On Demand(POD)の話を行った。AmazonのPODは、完全受注生産でAmazon上の表記としては「常に在庫あり」と表示されるのが特長とのこと。これで機会損失がなくなるわけだ。国内の事例としてはインプレスのNext Publishingがあり、すぐに読みたければ電子で、紙で欲しければPODというビジネス展開をしている。PODではパーソナライズ化した本も出すこともでき、たとえば表紙の色を自分の好きな色にするとかも可能。インプレスでは紙版、電子版の制作はAdobe InDesignを利用し、基本的には1つのソースをベースに2つを制作しているとのこと。そのための仕様については、Adobeのサイトでも公開されているとか。

 この他にも、InDesignを使って具体的にどうやってEPUBを制作するかをデモを交え詳細に説明するセッションも行われた。いちからEPUBを新規に作るのはだいぶ楽になっているようだけれど、既存の紙のレイアウトのInDesignデータをEPUB化するのは、まだそれなりに手間と苦労がありそうだ。CS6になってからはかなり進化しており、EPUB3、EPUB2、EPUB3の固定レイアウト付きなども出力形式で選べるようになっているとか。とはいえ、吐き出されるEPUBのソースはまだまだプロが求めるレベルにはいたっていないという指摘もあった。細かいことをやろうと思えば、EPUBのファイルを開いてソースレベルで手を入れることになる。

 EPUBではない電子書籍の形として、Adobeの電子書籍用コンテンツFolioの紹介もあった。Adobe InDesignを使えばFolio形式でコンテンツを出力でき、 Acrobat.comと合わせて利用すれば、iPad 用のインタラクティブコンテンツを作って共有することが、容易にできるようになる。閲覧には無料のビューワーが用意されており、企業などのiPad用のインタラクティブなドキュメント共有などにも利用価値が高そうだ。この他にもモリサワのMCBook/MCMagazineの紹介も行われた。これらはさすがに日本の出版を知り尽くしているモリサワがやっているだけのことはあり、細かいところまで気を使った作りになっていると思える。InDesignから簡単に制作できる点も含め、標準のEPUBではないけれど面白い存在だと思うところだ。

続々と大手も参入、今後の電子書籍のビジネスはどうなる

 最後に行われたのが「電子書籍はビジネスになるのか? どうやったらビジネスにできるのか?」と題したパネルディスカッション。登壇したのは有限会社樋口デザイン事務所代表で、書籍『ADPS & EPUBがやってくる InDesignで作る電子書籍』の著者でもある樋口泰行氏、前出の境氏、イーストでEPUBの仕様策定などにも関わっている高瀬拓史氏、司会進行は技術評論社の馮 富久氏。

 最初に取り上げた話題はPOD、流通として紙も電子も用意することでユーザーの利便性が向上するという点が指摘された。そして、InDesignで紙も電子も最初から両方作るつもりで制作すれば、2つ用意するのにそれほど手間はかからないとのこと。また電子の売り方についてもディスカッションが行われ、境氏は本を買う層を理解しそのコミュニティに継続的に情報を提供する方法があると言う。たとえば、途中まで書いた本をすぐに公開する手もあり、これは海外ではすでにやっている例も多数あるとか。そして、電子とソーシャルネットワークの親和性は高いとの指摘もあった。DSC_1905.JPG

写真左から、境氏、高瀬氏、樋口氏、馮氏。PODの書籍と普通の印刷の書籍を示してPODについてディスカッション

 高瀬氏は若い人に電子書籍が届いていないのではと言う。若い人にはケータイゲームなど、時間的に電子書籍と競合するものがたくさんある。また、クレジットカードなどの決済方法も電子書籍への敷居を高くしている。若い人たちが気軽に電子書籍を購入できるような、電子図書券があってもいいのではとの意見だった。樋口氏もGREEのようなところで電子書籍を売ってもいいだろうし、電子書籍を売るためのソーシャルネットワークみたいなものがあってもいいだろうとのこと。1冊いくらではなく、仕組みとしての「読み放題」も欲しいとも言う。この話を受け、馮氏が現状の電子書籍世界はまだまだ紙ありきの仕組みから脱していないと指摘。馮氏も読み放題は支持していた。

 電子書籍をいつ読むのかということについてもディスカッションが行われ、日本ならば通勤時というのが1つの時間帯になる。その際に、じっくりと読むものではなくスマートフォンなどで気軽に読めるショートコンテンツがいいのではとの話しも出た。このショートコンテンツについては、eBookProで電子書籍に関わっていても、ここ最近必要性を強く感じているところ。紙の書籍はどちらかといえばじっくりと腰を据えて読んで、電子書籍は気軽に移動中などに読むという棲み分けがなされてきそうな予感がする(もちろんすべてがそうなるというわけではない)。なので、小さい単位でコンテンツを提供するというのは電子書籍では重要で、そういった性格を活かす企画を柔軟に立てていくべきだと考えている。

 楽天koboの参入、Amazon、Google、Appleの動きも出てきそうな状況、こらについては「いままで興味がなかった人が手を出しやすくなり、裾野が広がる」という点に一番期待していると高瀬氏。樋口氏は楽天koboは価格が魅力、ただ日本人にモノクロE-Inkがどこまで受け入れられるのかはちょっと疑問だと言う。ちなみに当日の参加者にkobo Touchを購入したかを訊ねたところ、1割程度が手を挙げた。うーむ、参加メンバーが電子書籍よりなメンバーなだけに、感覚的にはちょっと少ないかなという印象。

 最後に今後の電子書籍ビジネスの動向を訊ねたところ、樋口氏は今年は昨年から思ったより進んでいないので、来年も思っているほどは進まないのではとのこと。現状はさまざまなブラウザに対応していたかつてのWeb制作の状況であり、しばらくは電子書籍マーケットごとに制作し売るしかない状況が続きそうとのことだ。

 高瀬氏は、EPUBの標準化作業に参加している立場から、固定、ハイブリッドをより良いものにしていきたいとのこと。電子書籍元年と呼ばれた年から3年あまりが経つことになるので、来年は少し良くなっているのでは。そして、楽天次第でさらにもう少しよくなるのではとも言う。

 境氏は、いま電子書籍の著者としてもやっているので、世界が広がってくれないと困ると言う。対象を絞って収益を上げる、海外でも売る、ライブイベントと書籍の組合せなどさまざまなアイデアも披露してくれた。境氏の言う、電子書籍だけを単純に売るのでは、なかなか収益を上げていくのは難しいという意見には、多いに頷ける。コンテンツを核にしていかにして新たな世界を作っていけるか、電子書籍という形に拘っていてはだめだなと改めて思うのだった。そんな境氏とは、26日にもEPUBに関するセミナーを開催する。今回はeBookProとして佐々木さんも登壇し、最新のEPUB制作現場事情についても話をする予定。興味がある方は、是非参加してみてはいかが。

EPUB3技術解説セミナー3(フォント埋め込み、ウェブフォント、EPUB制作最新情報)主催
株式会社オープンエンド/共催 eBookPro/運営 一般社団法人メディア事業開発会議
2012年7月26日 15時から、会場は浜松町、詳細はコチラ

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