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鳥のように高いところからの俯瞰はできませんが、ITのことをちょっと違った視線から

でもやっぱりEPUBなんじゃないかと思ったので、新しい一太郎を買ってみた

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 佐々木さんが、電子書籍フォーマットに関わる悲しい現実的なブログを書いていた。とはいえ、やっぱりEPUBだよねと思わせるJEPAのセミナーに先日出てきたこともあり、その中でも紹介されていたEPUB3の日本語部分にかなり対応している一太郎の新バージョンを購入してみた。

 佐々木さんのブログを読んで、日本では当面XMDFなのかとちょっと愕然。個人的には、XMDFには将来性はないと思っているので。なぜならシャープの業績低迷な状況を見ても、同社が今後収益拡大がたいして見込めない電子書籍ビジネスに投資をするとは到底思えない。状況によってはXMDF関連のものはオープンソース化したりするんじゃないかとも思われるが、そうなったとしてもそれを受け継いで拡張していく動き(コミュニティ)が活発化するとは考えられない。まあ、体力のあるどこかが買収するとかになれば、話はちょっと変わるかもしれないが。

 既存の紙の書籍ありきの電子書籍ビジネスだと、まあXMDFでもしょうがないのかなぁとは思うところもある。とはいえ、紙の置き換えにすぎないのであれば、なんか、わざわざ電子書籍化するメリットって現時点であるんだろうかとも思ったり。大ヒットしている永井さんの本だって、個人的には紙の書籍として書店に並んでいるかこそのヒットであり、これが電子書籍だったらここまではヒットしなかっただろう。

 日本の大手出版社の思惑や流通機構の複雑さ、そこにからむ政治的なあれやこれやとはあまり関係なく、着々とEPUBは進化し、世界では普及しつつあるようだ。EPUB3の仕様は、昨年の段階で基本的にはFIX。バグフィックスや本体のHTML5の拡張などがあればそれに追随することはあるものの、現時点でEPUB3.5とかEPUB4といったものの計画はされていない。今後の機能追加は、モジュールという形でEPUB3に追加されていく。現状検討されているのが、辞書、索引、固定レイアウトなど。

 固定レイアウトってEPUBのリフローの良さをなくすことだし、固定にするならPDFでいいんじゃないのという話もある。しかし、雑誌などで米国では固定レイアウトのEPUBへの要求は高いとか。PDFでは重すぎる、パフォーマンスとかがリーダー側の実装に依存しやすいといったあたりが懸念され、EPUBを求めることになっているようだ。まあ、PDFだと紙ありきだろうから、デジタルファーストで考えるなら固定でもたしかにEPUBでというのは理解しやすい。

 EPUBについては、日本ではちょっとスタートが遅れそうなのは事実。とはいえ、今年の夏頃までには、けっこうまともなリーダーが出てきそうだし、そうなれば普及に弾みがつくかもしれない。ブックフェアまでになんとか間に合わせようと、いくつかの会社が努力している最中なのだろう。もう1つ追い風なのは、Amazonの動き。Kindleが4月に出て、それに合わせて日本の出版社はいま、大急ぎでKindle用の電子書籍を準備しているようだ。縦書きがどんな表現となるかは気になるところだが、とにかくAmazonで日本語の電子書籍が買えるようになるというのは、日本の電子書籍市場にとっては大きなターニングポイントになるはず。

 で、EPUBがそれにどう関与するのかというと、Amazonへの原稿の入稿形式ではEPUBが推奨されているということ。日本では発売が見送られるであろうKindle Fireの新しいフォーマットであるKF8にしても、既存のKindle用のmobi(AZW)でも、これらを直接エディットなりオーサリングなりして制作するのではなく、基本的にはEPUBなりで作ってAmazon用のフォーマットに変換して利用される。この変換元はPDFでもテキストでもいいわけだが、Amazon的にはEPUBが推奨されているというわけだ。

 紙ありきの既存の書籍なら、PDF入稿となるだろう。実際いくつかの出版社からは、PDFで入稿するという話が聞こえてくる。でも、これから新たに作る書籍の場合は、EPUBで入稿する可能性も増えてくると予測している。電子書籍化するのにXMDFでとなると、Amazonで売るには二度手間になるわけだし。ま、XMDFからEPUBへ変換するようなツールが出てくればいいという話もあるけれど。

 ということで、やっぱりEPUBだよね、とくにデジタルファーストで考えるような場合には絶対EPUBだよねと考えている。そこで、日本語仕様を含むEPUB3にかなり対応している「一太郎 2012 承」をさっそく購入してみた。興味があったのは、これを使って日本語の縦書きの文書をEPUBにはき出した際に、どんなEPUBのソースとなるかというところ。こちらが望むような形で出力してくれれば、あとからCSSに手を入れるなどでEPUB日本語書籍の制作仕事でも十分に使えるかもしれないという期待からだ。こちらの評価については、このブログでもおいおいしていきたいと思っている。とにもかくにも、EPUBだけにこだわるつもりは毛頭ないけれど、もう少しEPUBへの期待は持ち続け、電子書籍のビジネスにさらに力を入れていきたいと思いを新たにするのだった。

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