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計測できそうでできない多くのこと。エンピリカル(実証的)アプローチで。

東証次世代システムの取組み

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表題は、東京証券取引所の次世代取引システムの開発での取組み内容を東証の鈴木CIOが紹介されている論文(出典は後述)のタイトルだ。論文では、証券取引所をとりまく状況を4つ挙げている。そのうちの1つとして、証券取引システムのレスポンス性能による差別化が挙げられている。グローバル化とネットワーク化により、証券取引システムのレスポンス性能が証券取引所の評価となるそうだ。このあたりは、ITmediaエグゼクティブの記事でも取り上げられている。

性能が重視される理由の1つは安定運用にあるが、他にもアルゴリズム取引と呼ばれる自動発注端末による証券売買をする投資家がおり、そうした投資家を引き込む重要な項目となるそうだ。ここでも少し紹介した(システム性能と競争力強化の話であり、今回のエントリとは観点が異なる)。

興味深い論文なのでぜひ次の原典を参照いただきたいと思う。原典は「情報処理で世界を守る」という特集論文の1つだ。この論文では東証さんが置かれているビジネス環境がきちんと書かれており、東証さんにとって価値のあるシステムとその実現に向けた取組みが明確に記述されている。

鈴木 義伯, “東証次世代システムの取り組みについて”, 情報処理学会誌 Vol. 49, No. 4, p. 398~403 (2008/4) URL

証券取引所にとって、システム性能、拡張性、信頼性は重要な項目であり、それらを確保するために以下のような問題を挙げている。

システム開発工程におけるV字モデルでは、要件定義の品質が受入テストで検証されることとなるが、・・・(中略)・・・発注者の要件がきちっと漏れなく要件定義書に書けていたのか、我々の要件がきちっとベンダに齟齬なく伝わっているのか、この結果が、システムが完成してから判明したのでは、手遅れとなる。

その対策の1つとして以下を挙げている。

また、全工程を通じてのリスクモニタリングの仕組みを組み込んでいる。抽出されたリスクに関しては、発生確率と影響度を定量化(リスクスコア)し、あらかじめチェックポイント(マイルストーン)と具体的評価基準を策定した上で、開発日程の進捗に応じて定期的にリスクスコアによる可視化管理を行っている。

ベンダとユーザの間の情報共有を計測により進めているという点で計測を道具としてうまく使われていると思う。計測を道具としてうまく利用されている例として、過去にIBMのインスペクション部門の取組みをここで紹介しているので、あわせてご覧いただくと参考になるだろう。

本エントリで紹介した内容は、PM Conference 2008でのお話に含めた内容だ。前回のエントリと同様に、当日興味深く感じていただいた感触を得たので、エントリにした。

また、10/29 六本木で開催されるエンピリカルソフトウェア工学研究会において、東京証券取引所 品質管理部の清田部長より「ソフトウェアタグへの期待」というタイトルで本エントリと関連するご講演を聞けると思う。詳細はこちら

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