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計測できそうでできない多くのこと。エンピリカル(実証的)アプローチで。

精神論を語る技術書

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仕事柄、通常営業日に論文を読むことは多いが、書籍を最初から最後まで読むことはほとんどなく、移動中の時間を少しずつ使うか休日に一気に読むかのいずれかだ。連休明けに比較的大きめの締切りが2つあったので5月の連休は例年よりは少なかったが、前々から気になっていた本を2冊が読めた。

普段読んだり書いたりする技術論文では基本的に心構えを書くのはご法度だ。技術論文で提案されている手法や発見について再現性がないことを指摘されたときに「心構えがなっとらんからだ」という前提ではなかなか知見が積みあがっていかない。

読んだ本のうちの1冊は、ある品質向上の手法についての解説書だ。手法について具体的な例や手順をあげながら解説してあるわかりやすい書籍なのだが、意外なほどに心構えが書いてある。たとえば「こういうふうにならないように心がけることが重要」「ここで示す(記述用)シートはあくまで例であり、品質向上の心がもっとも大事」。リスクのことを「心配事」のように自身のこととして書かれている点が非常に印象に残った。ソフトウェアの話の多くは欧米からの輸入が多いせいか、新鮮だった。これぞ日本という感じで読み進めていくうちにうれしくなった。

もう1冊は「ファシリテーターの道具箱」だ。こちらは私にとってはいつも読んでいるような精神論を語らない解説書だ。見開きで1つの手法を紹介していて、細切れの時間でも読める点がよいと思う(今回は一気に読んだが)。

議題に没入感のない参加者と打合せをしていると議論がなかなか進まなかったり、没入感のある他の参加者に申し訳なく思ったり、没入感がない本人にも時間をつぶしてしまって申し訳ないなぁと感じることがある。この書籍に述べられている手法は参加者の没入感を高めることを目的としたシステマチックな方法が述べられている。中で紹介されている「ゴールツリー」「コントロール可能・不可能」「ジョハリの窓エクササイズ」が特に没入感を高めるのに役立つのではないかと思った。

最初の印象では、なんとなく前者の本には心構えや精神論がなく、後者の本には心構えや精神論が書いてあるのではないかとイメージしていたのだが、意外だった。心構えや精神論の記述とは無関係に2冊とも非常に役に立ったが、心構えや精神論を語る技術書への私の抵抗感はこの組合せだったからこそ薄まり、味わい深かったように思う。

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