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最低賃金を撤廃すると仕事は増えるのか

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最低賃金は労働者の既得権になっており、新規の雇用機会を奪う理由になっている、とする意見があります。最低賃金を撤廃すれば労働コストが安くなるので労働需要は増え、雇用も増えるという理屈です。

Comics62_lo海外との対比で言えば、それこそ日本の何分の一とか何十分の一という安い労働コストを求めて生産設備を海外移転するという事例は少なくありません。ただ、そのように劇的に安い海外の労働力と日本人の労働力とを直接競争させてしまうことは、日本の物価が劇的に安くならない限り、労働者が暮らしていけない状態を招くとしか思えません。本当にそうなっては困るので「不足分は社会保障でカバーする」という政治家もいますが、本気で不足分を社会保障でカバーしようとするなら、多くの人がより社会保障に頼るようになり、その費用が増えることは予想できても、減るとは思えません

では、(レストランや居酒屋の店員のように)労働力を海外に移転できないような業種ではどうでしょうか。ここで、ある業種で、最低賃金を守らない会社と、守っている会社があるとします。労働や製品・サービスの品質が同じであり、その需要も一定だとすると、前者の方が安くサービスを提供することができ、その結果、客が増えて、シェアが伸びるということは十分に考えられます。つまり、「最低賃金を守らない会社の方が、最低賃金を守る会社よりも労働需要が大きくなる」という理屈は成立します。最低賃金を守る会社の労働需要は少なくなり、そこで働く機会を失った人、つまり“既得権”を持たない人は、最低賃金を守らない会社で働かざるを得なくなることも予想できます。(最低賃金を守っている会社が黙っているとしたら、ですが)

では、最低賃金を撤廃したらどうなるでしょう。どちらの会社も縛りを受けないのですから、いままで最低賃金を守っていた会社も安い労働力を求めるようになります。つまり、サービスを提供する価格が全体的に下がって差がなくなるでしょう。その場合でも、製品やサービスの需要が増えない限り全体としては仕事は増えないのですから、全体としては労働需要が高まることはありません。つまり仕事は増えません。もちろん「価格が安くなれば製品やサービスの需要が増える」ことは予想できますが、たとえ価格に反比例して需要が増えると楽観的に予想したとしても、労働コストの占める割合が100%を下回っている限り、賃金の下落よりも低い割合でしか需要は増えません。

これで思い出したのが、経済産業研究所の田中辰雄氏のレポートです。以前にも取り上げたことがあるのですが、レポートの信憑性に目をつぶるとしても、ここで導かれている結論は「安売りしたものが、(安売りしなかったものより)よく売れた」ということにすぎません。そのような「部分的な成果」は「部分的だから得られた成果」なのであって、全体に広げたら差別化要因がなくなり、効果も得られません。このような容易に予想できる論点を、どうして無視できるのか不思議です。

賃金に話を戻すと、世の中のすべての人が最低賃金で働いているわけではありません。特殊な才能や技術を持つ人がより高い収入を得ているわけですし、そうした人々への需要は変わらないということも考えられます。つまり、最低賃金を撤廃することは貧富の差を拡大させることになります。それを望む人はいるかもしれませんし、「最低賃金レベルの労働に甘んじるつもりはない」とか「俺はチャンスを活かしてお金持ちになるんだ」と意欲を持った人がいてもかまわないのですが、仕事にあぶれている人が雇用機会を求めて最低賃金撤廃を支持するというのは、理屈を間違えているような気がしてなりません。

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