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IT業界のコメントマニアが始めるブログ。いつまで続くのか?

歴史は繰り返す

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津田さんとのお話……というと対談のような誤解がありますが、実際には「ニセモノの良心」の方、「半可思惟」の方、「お気に入りのカレー屋さん500」の方が同席されていたという、ただの吞み会です……で想起されたことに、音楽や映像コンテンツで行われているさまざまな“実験”は、ソフトウェア業界で経験済みのものが多いということがあります。

クリエイティブコモンズは、必ずしも等価ではありませんが GPL(GNU General Public License)の影響を受けています。動画共有サイトは、ベクターのようなソフトウェアの共有サイトを思わせます。ベクター以前のパソコン通信時代にも「フォーラム」のようなものが運営されていて、そこで無料のソフトが配布されていたということもあります。たんにアマチュアが作成した自作ソフトを無料で公開するというだけでなく、実用に耐えるソフトがシェアウェア(自由に試用でき、気に入ったら対価を払う仕組み。方式は多様)という形で公開されるものもあります。秀まるお(斉藤秀夫)氏の「秀丸エディタ」などは、よく知られているシェアウェアだと思います。Radiohead の In Rainbows における“実験”は「気に入ったら支払う」というスタイルではありませんが、利用者に自由な値付けさせるというソフトはありました。

もちろん、すべてのスタイルを経験したわけではありません。たとえば、(不正投稿問題は脇に置いておきますが)ニコニコ動画に相当するものを考えても、しっくりくるものは思い浮かびません。しかし、以前書いたように「高価なソフトはコピーされて当然」と言ってのける“ユーザーの味方”がいたり、プロテクト外しを紹介してフリーライドを助長するようなメディアがあったりするところは、けっこう現在のコンテンツを取り巻く状況とダブって見えてしまいます。

そして、Linux が着実に浸透したのは、(まず gcc があったからだ、という理由もありますが)有償OS の違法コピーを蔓延させられたからではありません。現在も秀丸エディタを使っている人は多いようですが、別にオープンソースでもないし、完全無料というわけでもありません。あるいは、“ユーザーの味方”の掛け声が、イノベーションをもたらしたということもありません。結局、何かのソフトが使われ続けているのは、「ソフトそのものの力が(実用に耐えうる程度に)すぐれているから」に他なりません。もちろん、オープンソースなどでコミュニティからのフィードバックが、品質向上に寄与したということはあるでしょう。しかし、ソースネクストの1980円シリーズのように安い商用ソフトが登場した理由は、けっして不正コピーが増えたからではなく、薄利多売というビジネスが成立するようになったことや、オープンソースのような無料のソフトウェアとの“競争”が起きているためだといえます。不正コピーが招いた“効果”は、せいぜいプロテクトやユーザー認証の仕組みが強化されたことくらいでしょう。

インターネットが普及して、配布や共有が簡単になり、パソコン通信時代にはできなかったことができるようになってきているのは事実です。それこそ、ほんの10年ほど前は動画を公開したければ対価がかかって当然でした。現在、享受できるこうした“自由度”を各種のコンテンツで活用するためには、ソフトウェア業界の成功や失敗に学んでもよいと思います。

たとえば、学割が適用される携帯がありますが、そういう携帯に限定して楽曲購入にも思い切った学割価格を適用するというのはどうでしょう。ソフトウェアでも、アカデミックライセンスというものが登場して、単に不正利用を取り締まりだけでなく、正規利用を促進するという活動があり、今では定着しています。日本の音楽配信市場は、携帯中心に広がっていますし、違法着うたを取り締まるのとは別に、収入の乏しい(であろう)学生に魅力的なプランを提供するのは、正規利用を促進するという意味で効果的だと思います。きっと、携帯会社の評判もよくなるでしょう:-)

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