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「生還の保障はない。わずかな報酬」南極探検隊の募集広告が超ネガティブだった訳、あるいはモチベーションが下がっても進み続けるチームの作り方

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南極探検隊員募集
求む隊員。
至難の旅。
わずかな報酬。
極寒。
暗黒の日々。
絶えざる危険。
生還の保障はない。
成功の暁には名誉と賞賛を得る。
        by アーネスト・シャクルトン卿

 

100年以上前にロンドンの新聞に掲載された募集広告だ。こんなネガティブなことを書いても、5000人もの怖いもの知らずが応募した。そして(予想通り?)絶望的な遭難にあった。奇跡的に全員生還することができたのだが。
カネやポジションで釣るのではなく、厳しい現実を提示しての人材募集の成功例といえる。


僕も、2011/5/25に出したメールの冒頭にこの一文を載せた。
もちろん南極探検に行くのではなく、ある困難なミッションにボランティアで参加するメンバーを社内から集めたかったからだ。

なぜ人を集めるのに、思いっきりネガティブなことを最初に言うのか。
それは、そうするのがチームの勢い・モチベーションを維持する一番いい方法だからだ。



以前セミナーで講演した際に
「20人のメンバーを公募して業務革新活動を始めたのですが、成果を出す前にダレてきてしまいました。どうすればいいでしょうか?」というご質問を受けた。

メンバーを募集すれば、熱しやすく冷めやすい人も沢山応募してくる。そういう人はどんどんモチベーションが下がるので、旗振り役としては厄介なのだ。
最初に「南極探検はとても困難である」と宣言することで、興味本位だけの応募者(お調子者)をある程度排除することができる。

それでも、実際に業務革新などのプロジェクトを始めると、冷めてしまう人々がいる。たいていは本業と掛け持ちなので忙しい。なのに最初は中々目に見える成果が出ない。だからやる気が持続しない。

問題は、冷めてしまった人が早々に脱落していくと、残った人たちがつられてやる気を下げてしまうことだ。かと言って無理やり引き止めるのは不毛。モチベーションとはごく個人的なものなのだから、他人からはコントロールしにくい。


防ぐ方法は1つしかない。予め「このプロジェクトは大変厳しいから、脱落者が出るであろう」と最初に宣言することだ。
こうすることで例え脱落者が出ても、それは現在歩んでいる道の困難さを確認し合うだけのことで、残った人たちのモチベーションは下がらない。


僕が2年前に出したメールは、業務改革についての本を作るプロジェクトのメンバー募集のメールだった。アーネスト・シャクルトン卿の引用の後、以下の様に続く。

 

南極探検隊員募集ではなく、出版チームの参加者募集のご案内です。
だいたい南極探検と同じくらいの覚悟は求められます。
報酬はわずか。
出版できるかどうか分からない。
家族や仕事との軋轢。
多分、著者欄に名前が載ることもないでしょう。

関わりの度合いに応じて、間違いなく得られるモノは、成長です。
白川が10年前に何も知らない費用対効果分析のトレーニングを企画したように、現時点で業務改革について本を書くほどは知らなくても、貢献をしながら学ぶ方法もあります。


業務改革について、正面から描いた本。
普通の読者が、自分の会社の業務を変えるための教科書。
プロジェクトの立ち上げ方のノウハウを懇切丁寧に書いた本。
こういう本を、自分たちの体験を紬ぐようにしてゼロから書くのが、どれほど大変かは、書き始める前から分かっていたつもりだった。
だから、シャクルトン卿に習って、困難な道であることを最初に宣言したのだ。


僕は意図していなかったのだが、この出版チームは自然に「南極プロジェクト」というコードネームで呼ばれる様になった。

 

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このメールから本が出るまでに、2年半の月日がかかった。

難しいとは思っていたが、これほど難航するのは、さすがに想定外だった。プロのコンサルタントとして、自分たちが業務改革プロジェクトでやっていることを、きちんと言語化するのが、これほど難しいとは・・。


南極探検隊の名前の通り、途中で脱落したメンバーもいた(お客さんとのプロジェクトに全力を尽くすのが本業だから、ある程度は仕方がない)。

それでも、ついには書ききることはできた。本を出してくれる出版社も決まった。イラスト、過去プロジェクトで使った資料、写真、図表が非常に多かったので死にそうだったが、少しメンバーが入れ替わった南極チームが、最後の編集追い込み作業でとてもいい仕事をした。


南極隊がついに作り上げた本「業務改革の教科書」は9/20発売。アマゾンでは予約も始まっています。ご贔屓に。
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「業務改革の教科書―成功率9割のプロが教える全ノウハウ」新刊情報
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表紙デザインが決まりました。
教科書なので結構カッチリしてます。

でも内容はもう少しソフトなので(文体もカジュアルだし、イラストやサンプル資料が多い)、その辺を表現するために本文で使ったイラストが帯につきました。
こういうのって吉とでるか凶とでるか、全然予想がつかないですね。
「堅い外見の本が好き」という人もいるでしょうから。

タイトルや表紙デザインは、基本的には出版社の責任範囲です。
著者としては、アイディアや意見は言えますが、決定権は出版社にあります。
(村上春樹級の売れっ子なら違うでしょうが)


その辺りはプロにお任せするしかないですね。
皆さんも書店でこの赤い表紙を見たら手にとってみて下さい。

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