アジャイルや機械学習、リーンシックスシグマなど、日々の仕事の中で見て聞いて感じた事を書き留めています。

エンジニアになるんだって?

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先日帰郷の折に一年ぶりに会った甥から、この秋から通い始める大学への入学が決まったという話を聞きました。どんな大学なのかと尋ねると、甥曰く、エンジニアリングを学び、エンジニアになるための大学だそうです。

「それはおめでとう、本当に良かったね。これからの将来を考えれば、エンジニアを目指すことはとても良い選択だと思うよ」

「・・・で、何のエンジニア?」と重ねて聞いてみたところ、どの分野のエンジニアになるのかをまだ決めていないため、大学3年以降に専門を決めることができるという大学を選んだそうです。すると今度は逆に甥の方から、今後の参考にするためなのでしょうか、どの分野のエンジニアがなれば良いのかを、今までなんとか生き延びている古参技術屋である僕に聞いてきました(特に就職について)。

そこでアメリカの企業で働いている僕は、「現在のアメリカの企業の中で、しかも僕が知る狭い範囲の中で話せることなので、あまり参考にはならないと思うけれど」、と但し書きをつけた上で、甥の質問に以下のように答えました。

1. やはり専門分野が必要

アメリカでは、職務内容とそれが必要とする技能や経験が"職務記述書"に明記されているため、それに合致する候補者だけを採用しようとします。日本のように「将来を期待しての"ポテンシャル採用"」ということはほとんどありません。また春季新卒一括採用という制度もありません。

そこでエンジニアとしての求職者は、ある企業のある職種に「空き」が出て、かつ職務記述書が一般(ジョブサイトなど)に公開された時に、それを見て応募することになります。新卒であろうが経験者であろうが、またはすでにその企業に勤めている人であろうが、皆同じ土俵の上で選考されます。そのため、職務記述書に書かれてあるような専門的な技能や経験を得るために、大学生は早い時期からインターンなどを経験します。早くから専門分野を決めておけば、その分、専門的な技能や経験を早く蓄積できるので就職には有利だと思います。

すでに特定の企業に興味を持っているのなら、その企業のジョブサイトに掲示されている職務記述書を定期的に見ることで、どんな職種があってどんな技能や経験が求められているのかを、就職の準備として前もって知ることができます。

一見大変なように聞こえるかもしれませんが、職務記述書によってエンジニアへの要求内容がはっきりしているので、気持ちはかなり楽になると思います。

2. エンジニアで行くか、マネージャーで行くか

エンジニアリングの職場では、エンジニア職とマネージャー職の二つに大きく分かれます。アメリカでは管理職(マネージャー)とエンジニアはまったく別な職種なので、日本のように昇進昇格の一環としてエンジニアがマネージャーに"昇格"することはあまりありません。昇進昇格ではなく、それは職種(職務)が変わることを意味します。

職種が違うため、残念ながらマネージャーに変わってしまうと給料(年棒)が下がることがあります。プロ野球と同じようなイメージだと思ってください。プロ野球では現役選手の方がコーチや監督よりも年棒が高いのと同じように、一般的にエンジニア職の方がマネージャー職よりも年棒が高く設定されています。(例えば、エンジニア達より若いマネージャーが、しかもエンジニア達よりも安い年棒で管理職を務めることは珍しくはない)

エンジニアリングの職場で働きたいのなら、プロのエンジニアを目指すのか、それともプロのマネージャーを目指すのか、どちらが自分の適性に合っているのかを早い段階で見極める必要があるかもしれません。またエンジニアよりもさらに高い年棒を望むなら、むしろCEOまで階段が続くビジネス職に進むことを検討した方が良いかもしれません。

3. 希少価値でエンジニアの年棒は決まる

僕が努める製品開発部ではその製品特性のためか、さまざまな種類のエンジニアが活躍しています。IT系(ネットワーク・システムなど)、ソフトウェア系(PCソフト、UXなど)、ファームウェア系(組込み制御、FPGAなど)、弱電ハードウェア系(デジタル制御基板など)、強電ハードウェア系(アナログ・パワー基板など)、機械系(筐体、配線など)、アプリケーション系(カスタマー/フィールドアプリケーションなど)、品質系(QA、CIなど)、マニュファクチャリング系(コンポーネント、製造システムなど)、書いていてキリがありません。

同じエンジニアという職種でも(またはシニア・エンジニアという職級でも)職務が異なれば年棒も違ってきます。基本的には「取り換えが効く職務は年棒が安く、逆に希少価値の高い職務は年棒も高い」という傾向があります。例えば人材マーケットが大きいIT系のエンジニアは年棒が安く設定され、一方人材の少ない(採用が難しい)アナログ・パワー系のエンジニアなどは年棒が高くなっています。日本のような年功序列ではなく、市場価値(または希少価値)によってエンジニアの年棒が左右されます。

ではIT系エンジニアはあまり良くないのかというと、決してそうではなく、人材マーケットが広く大きいため、レイオフになってもすぐに新しい職場が見つかるという大きなメリットがあります。転職も容易でしょう。一方アナログ・パワー系エンジニアは一旦レイオフになるとなかなか良い職を見つけることができない、というデメリットもあるようです。

同じ企業でじっくりと自分の技術を磨きたいのであればアナログ・パワー系エンジニアなどを、逆に新鮮な空気の中で常に新しい技術を追い求めたいのであればIT系エンジニアなどを薦めます。

4. 採用はエンジニアリング・チームで

春季新卒一括採用を取る日本では人事部が大きな力を持っていて、採用計画を練ったり、応募者を選択したり、または面接を行ったり、最終的な配置を決めることがあるようですが、一方アメリカでは採用計画も、面接も、配置もすべてエンジニアリング・チームが行います。

アメリカでは人事部の主な仕事は、チームの要望に従って求人票を出したり、または採用後の事務手続きに限られているので、面接には最後まで参加しないこともあります。従ってエンジニアとしての求職者は、人事部にウケる様な質疑応答の練習したり、定型的な服装を準備したり、正しい面接態度などを心配をする必要はありません。むしろチーム員(エンジニア)からの技術的な質問にしっかりと答えられるような専門的な知識や経験を持っておく必要があります。

面接は複数のチーム員に囲まれてのグループ面接か、チーム員が一人一人順番に面接する場合の二通りが多いようです。チーム員が一人一人面接する場合はその人数にもよりますが、半日から1日かかることもあります。長丁場になるので大変かもしれませんが、カジュアルな雰囲気を楽しめるかもしれません。

面接で重要なことは、職務に必要な専門的な知識や経験が備わっていることはもちろんのこと、チーム員が「この人と一緒に仕事がしたい!」と思えるかどうかです。

5. エンジニアの賞味期限は10年

僕の過去の経験では、約10年単位でエンジニアに求められている要求内容が大きく変わってきました(今はもっと早いかもしれません)。別の言い方をすれば、今持っている比較的新しい技術や知識を使えば、この10年くらいの間はなんとか仕事にありつけるかもしれませんが、その次の10年は何の保証もありません。エンジニアの賞味期限はおおよそ10年です。だからエンジニアは10年単位で生まれ変わる必要があります。

生まれ変わるためにアメリカのエンジニアは必死になって新しいトレーニングを受けたり、学校に戻ったりしています。だからこれからエンジニアを目指すのであれば、大学時代の勉強だけではなく、次の10年、その次の10年を見据えて、エンジニアリングの勉強を続ける必要があるでしょう。

6. 国際環境の喜び

中国とインドから多くやって来るエンジニア達についてはずいぶん長い間話題になってきましたが、事実ここ10年ほどで、僕の職場も半数近くが中国人とインド人になってしまいました。というのも、職務記述書に合致するアメリカ人エンジニアがなかなか採用できなかったからです。多くのアメリカ人にとってはエンジニアリング職よりもビジネス職の方が魅力的なようです。

また最近は中国人やインド人に加えて、東欧諸国、中東諸国のエンジニアも多くなりました。エンジニアという仕事は以前にもまして国際的になってきました。

皆、本当に勤勉で優秀な人達ばかりです。だから言って国際的な競争をそれほど心配する必要はないでしょう。大学でしっかりとエンジニアリングを勉強すれば大丈夫です。むしろエンジニアリングという仕事を通じて、これからますます国際的な環境が楽しめると期待して下さい。

改めて、大学への入学おめでとう。

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