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書評:「社内失業」

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先日のブロガーミーティングで献本いただいた、

B1
社内失業:企業に捨てられた正社員
増田不三雄 著

を読みました。

「社内失業」というタイトルから、何となくマイナスのイメージを持って、読みにくそうな印象を受ける本ですが、書いてあることはかなり大きな社会問題を扱っています。

「社内失業」というのは、失職するのではなく、社員として雇われているのに、仕事がない状態のことです。本書では多くの人のインタビューの内容を紹介しています。せっかく正社員として雇われたのに、なんの仕事も与えられず、日々ただいるだけ、あるいは多少の雑用をやらされるだけ、という状態は、毎日忙しくて苦しんでいる人から見ると「なんとうらやましい状況だ」と感じるかも知れませんが、現実は全く逆です。

仕事がないのに朝から晩までいなくてはならないというのは、時間の進みも遅く、精神的にも非常に辛いものです。さらに、忙しい人からは、あいつは役に立たない、と見られるわけで、社内でのコミュニケーションも取れず、もちろん客先に行く機会もないので、社外とのコミュニケーションもなく、一人孤立してしまうのです。さらに変化の早い世の中なのに、自分自身はなんのスキルも身につかず、転職しようと思っても困ってしまうのです。

そういう話を聞くと「仕事は自分で作り出すものだ」「自分の努力が足りない」と考えると思いますが、現実はかなり違うようです。縦割り組織の影響で、余計なことをすれば叱られ、努力や工夫もふさがれてしまうのが実情だそうです。

本書は、社内失業をしている人に向けて、というより、雇っている側、使っている側に対して警告を投げかけています。とはいえ、多くの企業は不景気の影響で、若手の指導・教育などやっている余裕もなく、おまけに成果報酬の仕組みのため、まずは自分が成果を出さなければならないという人がほとんどなのです。さらに、中小企業は若手の採用をこの10年くらい控えていたので、身近な先輩もおらず、そもそも若手の育て方も忘れてしまっているといいます。

当社の場合は、ずっと新卒採用が中心でしたし、若手を育てるのは当たり前、という環境ですし、若手は入社早々から遊ぶ暇もないほどの仕事量、さらに、客先にもどんどん連れて行かれ、本書の事例とは正反対という感じもします。内定を出した後はすぐに通信教育をアルバイトという感じで開始し、入社までの間に、入社してから困らないレベルに近づけるように指導しますし、入社後もひたすら実戦で鍛えられます。

もともと、採用の段階で、当社の仕事にあう人を厳しく選別しているということも大きいと思いますが、当社では新卒も即戦力と考えています。本書では新卒に即戦力を求めるからおかしなことになる、と警告していますが、確かに営業職などは、仕事の経験がない学生に即戦力を求めても無理です。しかし、技術面は半年くらいの通信教育で十分仕事に役立つ状態に持って行けますし(その素質がある人を選んでいますが)、入社後は、とにかく客先に行くときに同席させ、様々なコミュニティに参加させ、また、電話の問い合わせなどの対応も率先してやらせることで、コミュニケーション力もつけさせます。戦力になっていない人を雇っておくほどの余裕は元々ありませんから、先輩たち、リーダーたちも必死に指導します。

まあ、そう書くと理想的な組織、と見えるかも知れませんが、実際はIT業界は決して楽な状況ではなく、受託仕事は短納期・低コストの仕事が増え、製品もより低コストを求められますし、ここ数年で稼ぐ苦労は増すばかりです。労働集約型の人月仕事で儲けることはかなりの困難な状態になっています。他とはちがう、当社独自の部分を伸ばして行かなければ、生き残るのも難しいと感じています。現状は人が遊んでいる状態などないほどがんばっても、なかなか目標達成ができない状態が続いているので、社内失業などあり得ない状況ですが、忙しければよいというものでもありません。

国の政策で、雇用維持助成金というものがあります。仕事が減るなどして、雇用の維持が難しい状態なら、国が補助金を出す、という感じのものですが、条件を読むと、業績が悪い状態で、なおかつ、仕事がない社員に対して支給する、という感じです。下手をすると、経営者としては仕事を苦労して探してやらせるくらいなら、自宅待機をさせて、補助金をもらっている方が楽、と考えかねず、社内失業を推奨しているような制度なのではないかと心配になってしまいます。

いろいろと考えさせられる本です。事例が多いのと、結局どうすべきなのかがはっきりしないという感じはありますが、まずは問題提起という意味で、雇う側も雇われる側も読んでみるとよい勉強になると思います。

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