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グローバル化する中で日本人はどのようにサバイバルすればよいのか。子ども×ICT教育×発達心理をキーワードに考えます。

【4週連続短期集中シリーズ 3】ChatGPT等、生成AIの学校における活用について(後編)

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情報教育に関するさまざまな取り組みをされている望月陽一郎 先生に、2013年から教育現場の状況や先生のお考えについてインタビュー形式で伺っています。前回の「前編」に続き、今回も「ChatGPT等、生成AIを用いた教育は現時点(2023年夏)でどのようになっているのか」についてお聞きします。

【望月先生 プロフィール】

大分県立芸術文化短期大学非常勤講師。Forbes Japan電子版オフィシャルコラムニスト。公立中学校理科教諭(理科)・大分県教育センター指導主事(情報教育)・などを経験されています。自作の「micro:bit『サンプルプログラミング集』」などをサイトにて公開されています。

望月陽一郎 個人サイト:http://mochizuki.net/

●ChatGPT等、生成AIを用いた教育について

―前回、望月先生が最近行った「学校における生成AIに関するアンケート」結果を見せていただきました。とても興味深い結果だったと思います。

前回の記事:【4週連続短期集中シリーズ 2】ChatGPT等、生成AIの学校における活用について(前編)https://blogs.itmedia.co.jp/kataoka/2023/08/chatgptai.html

まだ「学校の授業で生成AIを使っている」という回答が少ないということがわかりましたが、今回はその理由を中心にお話を伺いたいと思います。

―アンケート結果の記述を見ると、生成AIについて「誤りがあるので、利用は慎重にしなければならない。結果を分析・考察する力がなければ利用することは難しい。プロンプトのスキルがなければ期待した結果を得られないので、国語力が必要である」というご意見が印象に残りました。

先生方の中では、こうした意見が多いのでしょうか。

望月先生:実際に使っているという先生が少なかったのですが、私もこの意見については、考え方は近いですね。

私も昨年11月にChatGPTが公開されてすぐ無料版を使ってみました。

しかし、ある知識について質問してみても、AIは、「わからない」と回答するのではなくて、間違った回答を返してきたり、質問の仕方(プロンプト)を変えたらその回答がどんどん変わっていったりして、はたしてAIの回答を信用してよいものか疑問に思いました。

―たしかにChatGPTなど、生成AI自体は便利なもののようですが、一方で架空の情報や誤った情報を示すこともありますね。人間がきちんと判別するスキルが必要だと思います。

―望月先生のアンケートでは、「先生方の生成AIの理解度」が興味深いと思いました。

  • 全員の先生が理解している   ・・・ 0.8%
  • ほとんどの先生が理解している ・・・ 8.3%
  • 一部分の先生が理解している  ・・・55.8%
  • ほとんどの先生が理解していない・・・35.0%

となっています。

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「先生方の生成AIの理解度」(2023年7月)

あくまで望月先生が調査した先生方が把握している範囲内のことだと思いますが、約65%の学校で誰かしら生成AIを理解していると認識している点が興味深かったです。

望月先生:どのように興味深いのでしょうか。

―プログラミング教育を担当している情報科の先生や技術家庭科の先生はITスキルが一定のレベル以上あるだろうと考え、どの学校にも誰かしら生成AIを理解している先生がいらっしゃるのではないかと思っていました。しかし、誰かしら生成AIを理解している割合が約65%というのは意外に少ないのではないかと私見ですが感じた次第です。

望月先生:回答者の半分以上は小学校の先生です。高校情報科・中学校技術家庭科の先生は回答者の中では少ないと思います。回答者が把握している範囲ですから、全体を示しているわけではありませんね。

誰かしら生成AIを理解している割合が約65%もあるというのは予想以上です。

―「先生方のAIの使用度」については、

  • 全員の先生が使った経験がある   ・・・ 1.7%
  • ほとんどの先生が使った経験がある・・・ 4.2%
  • 一部分の先生が使った経験がある ・・・67.5%
  • ほとんどの先生が使った経験がない・・・26.7%

となっていますね。

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「先生方のAIの使用度」(2023年7月)

望月先生:理解度のグラフと比較すると、「ほとんどの先生方が使ったことがない」という割合が低いため、少しさわってみたという先生もいるのではないかと思います。

「使ったことがなくて、理解していない」先生がまだまだいるのもわかりますね。

―先生方の記述を見ると、「個人的に、たまに授業の導入のトピックスとして活用」する先生から「ひとまず禁止。触らない。わかりやすくなってから教員が使う。生徒には使わせない。という考えがほとんど」という先生まで、意見が分かれている印象を受けました。

そこで気になったのが、学校で現在「生成AIについての研修」が行われているかという質問の結果です。

「学校で生成AIについての研修を実施したか」という質問については、

  • 実施した      ・・・ 9.2%
  • 実施する予定    ・・・21.7%
  • 実施する予定はない・・・69.2%

となっています。

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「学校で生成AIについての研修を実施したか」(2023年7月)

約7割の回答が「研修を実施する予定はない」となっています。たしかに先生方の中で生成AIの活用について指導できる方がそもそも少なかったり、先生方が多忙すぎたりするので、研修の実施は難しい面があるのかもしれないと思いました。

―先生方の理解度や先生方への研修の実施について望月先生はどのようなご意見をお持ちですか。

望月先生:ChatGPTが話題になり始めたのが昨年の11月ですが、特に学校に関連して注目され始めてきたのが、「夏休みの読書感想文」に生成AIを使うのではないか、というものでした。

それまでは、学校との関連を意識することがそれほどなかったのではないかと思います。それが夏休み前に急に学校と生成AIが結びつけられてきた。前回取り上げた文部科学省のガイドラインが通知されたのも夏休み直前です。

つまり、ごくごく最近急に学校との関連が取り上げられてきたため、まだ研修実施以前の学校が多いのだと思います。「実施する予定がまだわからない」というのが正直なところかもしれません。

―先生方が生成AIをなぜ使っていないかという理由を見てみると、「活用場面がわからない」「使い方がわからない」という意見が多いようですね。

望月先生:まだ使った経験がない先生にとっては、「未知のもの」という感じなのでしょうね。また、使ってみたことがあっても、授業でどう使うのかイメージがわかない先生もいるでしょう。まだこれから、なのですよ。

―望月先生はChatGPTなどの生成AIをどのように活用されているのでしょうか。

望月先生:文章を書くときに、

 1 文章を書く。
 2 ChatGPTに、その文章を「校正」させる。

という方法を使っています。校正後には、

 3 修正した箇所と修正した理由を表で示させる。

採用するかどうかは、それを見て自分で判断するので、最終的には自分の文章です。一から創作させることはほとんどありません。

また、作業を自動化するためのGoogle Apps のプログラムアイデアを思いついたときに、

 1 どのような作業をGoogle Apps でさせたいかを文章化して、プログラムを作成させる。
 2 そのプログラムをGoogle スプレッドシートで実行させて動作確認を行う。

ということもありました。

Google Apps なので、最初Google Bardで試してみましたが、なんとエラーがでてうまくいかなかったため、ChatGPTでもつくらせてみると、こちらは正常に動作しました。
おかげで、作業効率がかなり向上しました。

―たしかに校正やプログラミングに使うと便利ですよね。ご紹介くださり、ありがとうございます。

望月先生:こうやって、生成AIを 使うのは、本人のイメージ次第だと思います。プログラミングの宿題で、先ほどのようなエラーが出るプログラムをそのまま出してしまったら合格しないでしょうし、文章作成でも全部生成AIにつくらせるか、自分の文章をよりよくするために使うかも、使う人の判断力でしょう。基礎的な知識や判断力がある人が使えば、ほとんど問題はないと思います。

―ずいぶん前に情報格差という言葉が話題になりましたが、知識や判断力は大事ですね。

そして、アメリカの裁判でAIに裁判の資料を作らせたら架空の判決が混ざっていたのでトラブルになったというニュースを見ました。AIを使いこなすリテラシーがあるかないかは大事だと改めて思いました。

参考資料:ChatGPTで資料作成、実在しない判例引用 米国の弁護士 日経新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN30E450Q3A530C2000000/

―最後にまとめをお願いしてもよろしいでしょうか。

望月先生:アンケートの最後に先生方の捉え方について質問したのですが、その記述をすべて読み込ませ、ChatGPTに傾向をまとめさせました。すると、

  • 教育現場での生成AIの活用に対する不安や未知の部分が多い。
  • 職員の中には活用に前向きな意見もあり、学校業務の効率化などでの利用を考えている人もいる。
  • 児童や生徒の利用に関しては慎重な姿勢が見られる。個人情報の取り扱いや情報モラルについての教育が必要と感じている。
  • 利用方法や効果についての共通理解がまだ固まっていない。教員間での情報共有や研修の必要性を感じている。
  • 生成AIを教育に有効活用するためには、情報リテラシーや情報活用能力の育成が重要だと考えている人がいる一方で、技術に頼りすぎないようにする必要性も認識している。

となりました。

記述の文章をすべて読んだ上で見てみると、よくまとめているな、と思いました

―わかりやすいご説明をありがとうございました。生成AIを有効活用するとこのようなこともできるのですね。生成AIがまとめたもの、すべて記述を読んだ私から見てもわかりやすいです。

もちろん実際のデータと付き合わせて生成AIによる事実誤認がないか確認する必要があるとは思いますが、うまく活用すれば大変便利だと私見では思いました。

千葉県印西市の小学校では生成AIを学ぶ講座が行われたようです。学校の先生方が今後、どのようにAIと向き合っていくのかさらに注目していきたいです。

参考資料: 小学生がAIとの対話ソフトの使い方を学ぶ授業 千葉 印西 NHK News Web
https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20230613/1000093803.html?fbclid=IwAR2kKKtpkULo3YRrfL3iP4PWJaYxD_WxSZW3nHB3mc2yV4EB6mZ_OSo_Qx4_aem_AeW3sAlLrg6Eh3SbNie1xZIEcqhQqIcrVhr__05pDwmmjJkhoDJsKSy98bd_aFczUIg

お忙しい中、生成AIの調査結果等についてお話ししてくださいました望月陽一郎 先生、この記事を読んでくださった皆様、大変ありがとうございました。

>>「【4週連続短期集中シリーズ 4】端末を用いた、学校におけるプログラミング教育について」につづく(2023年9月11日 公開予定)

編集履歴 2023.9.5 20:58 2番目の太字の部分とGoogle Appsの部分に誤字があったため修正しました。

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