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お客様の価値を優先できなくてはやがて愛想を尽かされる

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なぜ、ユーザー企業は自らハードウェアを購入し、アプリケーション・システムを開発し、それを運用するのでしょうか。その理由は、そうやって構築されたシステムを使って、売上を拡大する、経費を削減する、顧客満足を高めるといったビジネス価値を手に入れたいからです。

つまり、ビジネス価値を手に入れることが目的であって、システムの構築や運用は手段に過ぎません。もし、そんなめんどうな手間をかけなくてもビジネス価値を直接手に入れられるとしたらどうでしょうか。ユーザー企業は、当然のことですが、そちらを選択したいと思うはずです。クラウド・コンピューティングの登場は、そんな選択肢をユーザー企業に与えることになったのです。

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アジャイル開発が注目される理由も同じところにあります。このチャートは、米The Standish Group International Inc. 2002のレポートから抜粋したものですが、ユーザーが所有するプログラムの64%が「決して使われない(Never)」か「めったに使われない(Rarely)」という衝撃的な事実がここから分かります。使っていないシステムの開発に投資し、運用や保守にも経費を払い続けています。明らかにユーザー企業のビジネス価値を大きく毀損していることになります。なぜこんなことになるのでしょうか。

使うかもしれない機能も含めシステムの全機能を洗い出し、システム要件や仕様を確定させます。その上で確定させた仕様を一旦凍結させ、そこに盛り込んだ機能をひたすら全部作ることを使命としたウォータフォール開発では、仕方のないことかもしれません。

しかし、ビジネスは生き物ですから、ビジネス要求は日々変化しています。ところが仕様を凍結してしまって以降はこの要求の変更に対応できません。また、「使うかもしれない」機能が本当に使われる保証はありません。さらに、現場に実際のシステムを見せることなく紙の上に描いた図表や文書での説明、UMLといったユーザーには直感的に理解できない方法での「仕様の合意」です。仕様書通り作っても、ユーザーが納得してくれる保証はありません。

売上を拡大する、経費を削減する、顧客満足を高めるために、確実に貢献する業務プロセスを明らかにし、効果の一番大きなプロセスから優先順位を付けて開発して欲しい。予算の範囲内で高品質なシステムを開発してほしい。業務要件が開発の途中に変わってもその変化に対応してほしい。優先順位を変更したり新たな業務プロセスを先に作ったりといった要求に応えてほしい。効果の大きな業務プロセスをいち早く使いたい。そんなユーザーの要求に応えようと生まれてきたのがアジャイル開発です。

クラウドにしてもアジャイル開発にしても、ユーザー企業のビジネス価値を高めることを追求し、その結果として生まれてきたものです。だからこそ、広く受け入れられ、普及し、洗練されてきたとも言えるでしょう。

しかし、クラウドにしろ、アジャイルにしろ、従来のやり方と比べれば、ハードウェアやソフトウェア・ライセンスの売上は減少します。保守やサーポート、工数需要も減少することは避けられません。そんなこともあるのかも知れませんが、この現実に真剣に向き合おうとせず、従来のやり方を変えようとしないSI事業者も少なからずあるようです。

「30台のオンプレミスPCサーバーをクラウドに移行するのに3億円かかります。」

クラウドへの移行をお客様から相談され、そのような提案したSI事業者がいたのだそうです。機能も変わらずサービスレベルも変わりません。何の付加価値も生みださない移行作業に3億円もかかるという提案を受け取ったユーザー企業はどのように思うでしょうか。運用コストが大幅に下がり、サービスレベルも品質も大幅に向上するのであれば、まだ検討の余地もありますが、そういう付加価値が一切ありません。既存のオンプレミスのシステム構成をクラウドに移行し、運用の手法もそのままです。クラウドであればこそできること、あるいは、クラウドだから対処しなければならない新たな課題にも配慮が見られません。それにもかかわらず、このような提案をするということは、暗にクラウドへの移行を辞めた方が良いとお客様に諭したかったのかもしれません。

しかし、IT予算の頭が抑えられ、新しいことをやるにも余裕がなく、変更への柔軟性も担保できない状況を何とか打開したいという、お客様の「ビジネス価値」を無視したこのような提案をお客様はどのように受け取るでしょうか。

例え、お客様が現行システムの機能や性能をそのままに移行したいというご要望であったとしても、お客様の価値を追求すれば、このような提案が如何に現実離れしているかは、容易に想像がつくはずです。

お客様のビジネス価値を実現することではなく、自分たちのビジネス価値を実現することが目的となってはいないでしょうか。手段を提供することが目的になってはいないでしょうか。

かつては、お客様の目的を満たす最適な手段を提供できたかもしれません。しかし、ビジネス環境が変わりテクノロジーも進化しました。最適な手段も当然変わりました。その前提となるシステムの思想や原則も変わっています。その変化に追従できず、いつまでも過去の思想と原則をそのままに、手段だけを新しいものに置き換えてもうまくいくはずはないのです。

ビジネスはお客様の価値が起点でなくてはなりません。その価値を実現するための手段が変われば、収益モデルも変えなくてはなりません。

本当にお客様の価値を実現しようとしているでしょうか、それとも自分たちの価値を優先しようとしているでしょうか。もし後者のままであるのなら、いつかお客様から愛想を尽かされてしまうことを覚悟しておくべきでしょう。

最新版【3月版】を更改しました。

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プラットフォーム&インフラ編
【新規】従来システムとハイパーコンバージド・システムとの違い p.136
【新規】ハイパーコンバージド・システムのメリット p.137

ビジネス戦略編
【新規】デジタル・トランスフォーメーションの定義 p.18
【新規】ITをビジネスの成果に結びつける考え方 p.48
【新規】事業会社の担うべき責任 p.49
【新規】注意すべきITベンダー・SI事業者の行動特性 p.50

サービス&アプリケーション・先端技術編/AI
【新規】人間は何を作ってきたのか p.10
【新規】知的介助: amazonの戦略 p.32
【新規】学習データと結果の関係 p.93

サービス&アプリケーション・先端技術編/IoT
【新規】デジタル・コピー/デジタルツイン p.25
【新規】amazonのデータ収集戦略 p.26
【新規】IoTビジネスはモノをつなげるのではなく物語をつなげる取り組み p.42
【新規】様々な産業に変革を促すデジタル・トランスフォーメーション p.95

運用と開発編
【新規】変わる情報システムのかたち p.6
【改訂】アジャイル開発の基本構造 p.17
【改訂】スクラム:自律型の組織で変化への柔軟性を担保する p.25

テクノロジー・トピックス編
【新規・改訂】armについての解説を新しい内容に置き換えました p.19-35

ITの歴史と最新トレンド編
【新規】量子コンピュータとは何か p.4

クラウド・コンピューティング編
*変更はありません

サービス&アプリケーション・基本編
*変更はありません

その他
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