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成熟資本主義からシェア型経済へ ~21世紀型サービス革命の起動~(転載記事)

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これは株式会社明治発行の明治マーケティングレビュー vol.25 2017 Springのcompassインタビューに掲載されたものです。

成熟資本主義からシェア型経済へ ~21世紀型サービス革命の起動~

本荘事務所 代表 本荘 修二 Shuji Honjo

豊かさと技術革新がもたらした
新たな消費のカタチ

―今、注目されている「シェアリングエコノミー」とはどういう経済なのでしょうか。

本荘(以下略) シェアリングエコノミー(sharing economy)ついて、まだ一般的には理解が深まっておらず、思い浮かべられることはさまざまあります。代表的なものとして、ライドシェア(相乗り)サービスのUber(ウーバー)や、自分の部屋を宿泊に貸すAirbnb(エアビーアンドビー)などがあげられますが、これは現象面であり、なぜこういうことが起こり始めたのか、ということが理解されていません。シェアリングを可能にした要素は2つあります。
 1つは《モノの飽和》です。先日、元東京大学総長の小宮山宏先生にお話を伺ったのですが、たとえば人口1人当たりの鉄鋼の量は、先進国では既に一定になっているそうです。本来、産業の発展に伴いその量は増加していきますが、あるところまでいくと頭打ちになる。なぜかというと、リサイクルをはじめるからです。するとモノの量は一定になる。これはマテリアル(原材料)だけの話ではなく、それを使ってつくられた製品にも、同じような現象が起こります。自動車の普及台数をみても、先進国では大体1人当たり0.5台となっています。
 『マーケティング3・0』の著者の1人であるヘルマワン・カルタジャヤ先生も、「モノをつくって売っているビジネスでも、サービスを売っているというふうに捉えなさい」といっています。たとえば時計をみても、時を刻むという機能性よりも、「ロレックスだ!」と自慢する価値のほうが大きくなってきています。モノの概念が変わってきているのです。モノよりもベネフィットを欲していることに、消費者も気づきはじめたのです。そうなると流通業も、再定義をしなくてはいけない時期がきているのかもしれません。
 もう1つが、《トランザクションコスト》の問題です。これがIT技術の進歩・普及により、人と人、あるいはモノと人をつなぐというコストを劇的に下げました。またコストが下がったことで、繰り返しつなぐことが容易となり、そこから得られた体験をレビューや点数評価という形でフィードバックし、新たな失敗やトラブルの回避にもつながっています。

シェアリングで働き方も変わる?

―そうした背景を負って、シェアリングエコノミーがスタートしたのですね。

 モノをシェアするというのは分かりやすいのですが、今ではモノだけではなく人間もシェアの対象として捉えています。
 アメリカで最近出てきているものに、犬の散歩やペンキ塗りというサービスがあります。人の場合、お手伝いレベルの人もいれば、プロの職人レベルまでさまざまです。これまでペンキ塗りなどは工務店等が取次でいたので、その分、コストがかさみました。しかしシェアリングではダイレクトにつながることができるので、依頼側は内容に応じてレベルを選べるうえ、その分、安くなり、提供側も自分の取り分が増え、仕事も増えるということで、お互いハッピーとなります。
 また中国では、料理好きの奥さんによるミールシェアがヒットしています。このように意外にサービスの提供者がたくさんいたということですね。
 直接つながることで、多少のトラブルはあるでしょう。しかしそれ以上に、「安い」とか「すぐに」というプラス面のほうが魅力的なのです。これからは車や宿に限らず、いろいろな場面でシェアリングが増えるのではないでしょうか。日本にも昔から、貸しレコード業の黎紅堂のようなお店もありましたが、企業という形だけではなく、個人がサービスの提供者になるというP2P(Peer to Peer)の形がもっと増えるのではないかと思っています。

個人のシェアリングの活用

―サービスを提供する側がたくさんいたというのは、経済的な理由なのでしょうか?

 経済性は大きな要因です。しかし、それだけではありません。
 自動車をみても、これまで「マイカー」という夢を売ってきました。自分の車をもつことで、さまざまなベネフィットが得られるといわれました。しかし現実はどうでしょう。自家用車の稼働率は低いですよね。
 そこで使わない時間は車を貸してもいいなという提供者がでてくる。車だけではありません。Uberのように、時間があるので運転してもいいという人とマッチングし提供するシェアリングもあります。こうした手軽なバイト感覚で学費を稼いだり、家計の足しにする人もいれば、そこにやりがいを感じる人もいます。人それぞれなんですね。
 意外だったのが、最近日本でもサービスをはじめたUber EATS(ウーバーイーツ)で働く人の女性比率が非常に高いのです。もちろん経済性もあるでしょう。ただ他のバイトやパートより給金がいいかというと、そうでもない。レジ打ちよりもUber EATSのほうが楽しいと感じる人も中にはいる、ということではないでしょうか。個人がダイレクトにつながれ、そこにコミュニケーションが生まれるところが、働く理由になるのかもしれませんね。

―個人となると、何かあった時にどうしようという不安もあるのではないでしょうか。

 当然そうだと思います。シェフ派遣を行なっている会社では、女性シェフの場合、お客さまに一定の基準を設けて対応していると聞きます。Uberの場合は、企業の側できちんと保険をかけています。
 こうした個人の場合、人の奪い合いでもあるのです。ビジネスがうまくいき市場が拡がれば、さらなる人材が必要となり、ドライバーやシェフの確保が難しくなります。うまくいけばライバルが必ず現れるので、好条件でより働きやすい環境をつくってあげないと、人は集まりません。

アメリカ、スウェーデンに学ぶ

―シェアリング・エコノミーから、小売業が学ぶべき点は何でしょうか?

 アメリカで大成功しているInstacart(インスタカート)という買い物代行の会社があります。日本でも最近、ネットスーパーがありますが、現状では自分のお店の商品しか運ばないですよね。地域密着という観点から考えたら、エリア内のお店同士が提携して、希望する商品を一括して届けてあげてもいいわけです。在庫やシステムの問題など、解決しなければならないこともありますが、今後の社会を考えると、こうした提携活動があってもいいのではないでしょうか。
 お客さまのニーズが何か、問題が何かということを、小売業もメーカーも白紙から考え直す時期がきていると思います。昔と同じようなことばかりやっていても、課題は刻々と変わっていくのです。現状ではおばあちゃんの買い物を、子どもや孫、近所の仲良しさんに頼むこともできるかもしれません。しかし20年後の日本では、そうはいかない気がします。社会の仕組みとして、こうしたサービスが確立されないと、自助努力だけでは厳しくなると思います。
 スウェーデンでは、コレクティブハウス(collective house)と呼ばれる共同生活を前提とした集合住宅の形態があります。ここには多世代の世帯が居住しながら、居間や台所などを共同で使用できるスペースを通じて、住民同士の密接な交流や、子育てや高齢者の生活支援が図られています。まさにシェアリングエコノミーの実践だといえましょう。
 ここでの夕ご飯は当番制です。ハーフメイドの食品が増え、だいぶ楽になったとはいえ、毎日のご飯づくりは負担です。中国のように、料理が得意な人がビジネスとして調理を請け負う形もありますが、スウェーデンの当番制というやり方も、少子化、核家族化が進行する日本の今後のあり方を考える時、ヒントになるのではないでしょうか。

過剰なサービスが、
労働力不足を生んでいる

―日本の場合、完璧なサービスクオリティーを求める傾向があると思いますが...

 シェアリングの場合、クオリティーはある程度諦めてもらうしかありません。その分、リーズナブルなのですから。
 ただ、日本の消費者はデフレが続いたせいかもしれませんが、低コストでも高度なクオリティーを求めます。それはありえません。結局、コストは消費者が払うのです。

―物流についても、さまざまな問題が現れ出してきています。

 先進国比較でみても、日本のデリバリーというのは異常です。時間指定に再配達、ヨーロッパでこんなことをやっている国は他にありません。そこに対価という概念を入れないといけません。お客さまに気に入られようとして、いつまでも過剰なサービス競争を続けていくのは限界にきています。
 日本の今後の経済をみるうえで、大きな課題があります。それはレイバーショーテージ(労働力不足)の問題です。ヤマト運輸の例は、その序章に過ぎません。日本はこれからあらゆるところで労働力不足が起こるので、人のシェアをせざるを得ないというのは必然的現象です。

期待される市中の達人

―昔の日本では、家族の中で役割分担をしていたものが、今後はシェアリングでカバーしていくということでしょうか。

 先にお話した中国の料理好きの奥さんも、セミプロじゃないですか。世の中には、プロではないが何かの達人という人材はたくさんいるのです。こうした人たちの活躍の場をつくるには、シェアリングというのは最適です。正式なワインの先生を呼ぶと高額ですが、世の中にはプロ並みの知識をもった人はたくさんいます。簡単に教えて欲しいというケースであれば、そういう人で十分です。埋もれた人材を使うという意味では、シェアリングエコノミーというのは打って付けです。
 地域に密着した小売業であれば、人と人、人とモノのつながりを育むビジネスというのも可能なのではないでしょうか。地域の達人のデータベースや、トレーニングや発表の場として、またコミュニティもつくってみたりと、やりようはいくらでもあると思います。

今と将来のお客さま
を見据えて

―シェアリングエコノミーが進むと、需要が減るのではないかというネガティブな見方があります。

 一概にそうともいえません。たとえば購入するのに気が引ける、使用頻度の少ないマイナーな調味料のようなものは、シェアすることで、生活者が気軽に購入することができ使用機会のきっかけにもなり、市場拡大の可能性を秘めているともいえます。
 ただし、既存産業の中には市場が縮小するものも現れると思います。日本の場合、これまでがイビツだったのです。日本車を見ても、故障率が低いので10~15年ぐらいは十分乗り続けることができるのに、5~7年で買い換えませんかといって、年間生産販売台数をキープしてきました。車をもっているというだけで、羨望の眼差しで見られていた時代ならよかったのですが、だんだんステイタスとしての効力が弱まり、それに対しての対価がシビアになってくる。人生に喜びを感じることが他に増えたのです。 
 既存産業はよほどの努力をしなければ衰退するでしょう。モノは溢れ、シェアリングで足りてしまうのですから。昔型のマーケティングは、もう通用しなくなってきているのです。今と将来のお客さまの両方をみていくという努力が必要です。お客さまは日々変化しているのです。千篇一律のことを続けて、10年後も儲けようというのは虫のいい話です。商品そのもの、売り方、届け方も当然変わっていかなければなりません。現在、スーパーにとって脅威となっているAmazonも、20年前にはこれほどまでの影響を及ぼすとは、誰もが想像していなかったのではないでしょうか。

リアルな接点が最大の強み

―シェアリングエコノミーにおいて、ブランドは武器になるのでしょうか。

 ブランドは、ある種の保証となります。怖いけれど使ってみようという時に、安心材料の1つになるでしょう。
 格安のスマホ用SIMカードは当初、通販で販売されていました。しかしIIJ(インターネットイニシアティブ)は、ビックカメラで買えるようにしたらシェア1位となりました。やはりリアルな接点があるということは、もの凄いパワーになるのですね。小売業もリアルな店舗をおもちなわけですから、オンラインサービスを始める場合も凄い強みとなります。蛇足ですが、楽天携帯も、最近慌ててお店を増やしています。やはりリアルなショップがないと売上が増えないということが分かったわけです。

―シェアリングエコノミーが進展しても、実店舗をもっているほうが強者となるのですね。

 なります。しかし本当に取り組むつもりならば、実験やテストを繰り返し行なうことが必要で、いきなりやっても、うまくいくはずはありません。お客さまと一緒に成長していく、というマインドをもたなければ厳しいです。お客さまに支持されて、はじめて成功の道は開くのです。

ブランド1番、人も1番

―こうした取り組みを通じて信頼を醸成し、お店のブランドを確立していくわけですね。

 もう1つのブランド力は、看板だけでなく、店長や従業員など、顔になるような人材を育てることです。オンラインだと機械的で没個性になりがちですから、人の要素は今までの10倍、20倍は効いてきます。個人をフィーチャーすることが、企業のブランドの醸成につながります。
 アメリカのZappos(ザッポス)という靴の通販会社には、「インナーブランディング」とも呼ばれる教育システムがあり、社員や従業員に対し、企業文化や行動規範のコミュニケーションやトレーニングを徹底的に行なっています。その教育を受けた社員、従業員は、私自身がZapposなのだという自覚をもち、お客さまと接するようになります。するとお客さまが、対応に対する満足ぶりをSNSに書き、これが噂になり評判になって拡散していく。これは地味ですが、大切なことです。しかし、地場で顔になっている会社は、これに意外に気がついていません。
 人を中心することが原則です。デフレが続いたことで、過剰に効率中心に考えてしまう企業が少なくありませんが、結果的にパフォーマンスを落としたり、ブランドを毀損することになりかねません。ブランド1番、人も1番、その中で効率をあげるために、論理的に経営をしなくてはいけません。

―シェアリングエコノミーを、明るく捉えられそうな気がします。ありがとうございました。

Profile・ほんじょう しゅうじ

福岡県生まれ。本荘事務所代表として、新事業を中心に、イノベーションやマーケティング、IT関連などの経営コンサルティングを手掛ける。日米の大企業、ベンチャー企業、投資会社などのアドバイザーや社外役員を務める。
500 Startupsのアドバイザー他、Founder Institute、福岡県他のメンターを務め、起業家育成、コミュニティづくりに取り組む。
多摩大学大学院経営情報学研究科(MBA)客員教授。日本マーケティング協会会員誌「マーケティング・ホライズン」編集委員。「医療のイノベーションを担うベンチャー企業の振興に関する懇談会」座長。ボストン コンサルティング グループ、米Computer Sciences Corp.にて経営コンサルティングに従事の後、CSK/セガ・グループで会長付・グループ戦略室マネジャーを務める。IT特化の投資育成会社General Atlantic LLC日本代表などを経て、現在に至る。
東京大学工学部卒業、ペンシルベニア大学ウォートン経営学修士、早稲田大学博士(学術)。ウォートンクラブオブジャパン理事。
「明日をつくる女性起業家」、「インキュベーションの虚と実」などの連載の他、『エコシステム・マーケティング』『成長を創造する経営』など著書多数。翻訳に『ザッポス伝説』がある。
ウェブサイト http://www.honjo.biz

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