主にテクノロジー×ビジネス×イノベーションについて考察・刺激・アイデアなどを

「Beyond Advertising」Jerry Wind著 次世代のマーケティングは企業の革新が必須

»

これは、日本マーケティング協会の月刊HORIZONの2016年第5号への小生の寄稿で、「Beyond Advertising」Jerry Wind著の書評に意見を加えたものです。

組織横断とバランスシート型への転換

 ウォートンフューチャーオブアドバタイジング(WFoA)プログラムなる長期の研究活動において、22カ国の200人以上のリーダーの知見を集積して生まれた本書「Beyond Advertising」は、激動するマーケティングの将来展望を示している。

組織横断のチャレンジ

 筆者(本荘)が、拙著「大企業のウェブはなぜつまらないのか」でウェブ時代のマーケティング・コミュニケーションについて組織論から問題提起してから9年余り経つ。縦割りで組織も機能もバラバラで、かつ階層も妨げになり、オンラインのメディアとコミュニケーションの活用があまりできず、さらにはソーシャルメディアに適切な対応ができていない企業が多いのが実情だ。

 出版した当時は、大企業における組織横断の難しさやオンライン・コミュニケーション部門の位置付けなどの問題を正しく理解する人は少なかった。では今はどうだろう。問題としての認識は進んだようだが、解決には至っていない企業がほとんどだ。

 しかし、本書「Beyond Advertising」は、「説得力あるブランドの目的を統合し、全てのタッチポイントをオーケストレート(orchestrate)せよ」、つまり、さらに先に行けと言う。

 拙著では、広告、PRに店舗や顧客サービスなどの機能を横断し、各種メディアの横串を唱えたが、「Beyond Advertising」は、その範囲を広げ、従業員や決済、アプリ、IoTをもオーケストレートすべしと説く。これは容易なことではない。いち早く、既存の組織の壁やサイロとも言われる縦割りを克服しなければならないと、あらためて警鐘が鳴る。

 ちなみに、米国のコンファレンスで集まったCMOにウィンド教授が「Beyond Advertising」の論を説いたところ、「私たちはwrong audienceよ。CEOに言うべきよ。」との反応だったとか。全社的な問題だけに、容易なことではない。企業による差が大きく生じるだろう。

「全てのタッチポイント」が意味すること

 360度マーケティングで、消費者に整合性のあるブランドメッセージを届けるべしという命題にどう取り組むかと悩んでいる間に、現実は確実に進化している。

 ある商品のよさを消費者に伝えるにあたり、テレビや印刷媒体、ネットといった各メディアを駆使し、360度の囲いを作ってコミュニケ―ションしようという時代から、365日のつながりをブランドと消費者の間に築く時代へと進んできた。これがさらに、「全てのタッチポイント」でのつながりへと進んでいく。

 これからの時代は、各タッチポイントでブランドメッセージを発信するだけでなく、顧客のフィードバックを得て、それに応えることが肝要となる。「Beyond Advertising」で提唱しているほどではないが、一部でもこうしたビジネスプロセスを導入して業績と株価を大きく上げた米百貨店チェーンの例も現れている。

 販売員以外の社員の行動もソーシャルメディアで広まる今、インナーブランディングの重要度が増している。アルバイトが店舗で変なことをして、ブランドを傷つけた飲食や小売がある一方、社員を表に出してブランディングのプラスにする会社が現れるなど、これまでになかったタッチポイントが重要化している。

 そして、テクノロジーの進歩と普及により、新たなタッチポイントが出現する。スポーツ品メーカーはウェアラブルとそのユーザーコミュニティに熱心だが、それ以外の企業もIoTがタッチポイントとして浮上する日は遠くない。それまでに準備ができている企業はどれだけあるだろう。

説得力ある統合化されたブランディング

 「Beyond Advertising」は、あらためて説得力ある統合されたブランドの目的を唄う。全てのタッチポイントでのつながりが実現されれば、なおさらブランド自体がしっかりしていなければならない。また「Beyond Advertising」は、ブランド、消費者、社会の三方よしを唱える。多様なタッチポイントを組み合わせることからブランドを問い直し、ブランドの存在意義を高めるという原点に立ち返ることも起こるだろう。

 一部のタッチポイントの組み合わせだが、JICA(独立行政法人国際協力機構)の例が分りやすいので簡単に紹介したい。

 2009年、事業仕分けによるプレッシャーがかかっていたJICAだが、国民にあまり理解がされていないのも実情だった。そこでJICAは、トップジャーナリストの池上彰氏に国際協力の最先端の現場を取材してもらい、そのコンテンツを日経ビジネスオンラインの広告ページで連載した。JICAは、え、こんな、と驚くような各国各地に人を配備し、日本最強のネットワークを持っていた。そこで池上氏は、JICAの手引きなしには行けない各地を回る魅力を感じたのだ。

 連載終了後は、コンテンツはJICAのホームページに掲載され、オンラインの社外報となった。いわゆるオウンドメディアである。また、同連載は「世界を救う7人の日本人」「池上彰のアフリカビジネス入門」なる書籍として出版。さらに、テレビ東京「未来世紀ジパング」と連動し、スーダンウガンダ、イラク、ケニアモザンビークなどテレビ番組化された。

 こうした広告を起点としたタッチポイントの組み合わせによるコンテンツ・マーケティングにより、国民向けの強力なブランディングとなったのである。かつては数%の国民にしか事業内容が理解されておらず興味も持たれなかったJICAだが、いまやJICA主催のイベントには参加申し込みが殺到して抽選でしか行けないほどになっている。また、池上氏の著書「世界を救う7人の日本人」にも登場するJICAスーダン事務所長を務めた宍戸健一氏は、復興支援の専門家として注目され、講演などに引っ張りだこだ。

こうして、オンラインメディアの広告から始まった、タッチポイントを組み合わせたコミュニケーション活動は、JICAの存在価値を再認識させる結果となり、当初は弱かったブランドメッセージ自体も三方よしの刺さるものとなった。

バランスシート型マーケティングへの転換

 しかし、ブランドメッセージありきで、その発信にフォーカスしたマーケティングが大多数だろう。既にある商品、既にあるメッセージを前提に、マーケティングの相談をするブランド企業のマーケターが多いとも聞く。しかも、それが正しくないことも往々にしてあるが、なかなか変えられないようだ。

 ウィンド教授は、マーケティング・メッセージとなるストーリーとともに商品開発するのがよいと言う。広告だけで考えても手詰まりになりやすい。ウィンド教授が登壇の2013年東京で開催のWharton Global Forumで、このトピックも話されたが、こうした取り組みを実践しているのはごく一部の企業であり、より多くの企業の例を聞く日を待ちたい。

 オール・タッチポイントのオーケストレートで避けられないのが、基本重視と柔軟性だ。説得力あるブランドメッセージを発信し、フィードバックを得て、柔軟によりよいものにしていく。そこでは、既にオンラインゲームで実践されているように、リアルタイムでデータを集め分析して改善したり次の手を打つことも求められる。それもオール・タッチポイントでだ。

 そのためにも、組織やメディア横断的に、統合したビジネスプロセスが不可欠となる。企業はマーケティングを捉え直し、これをきっかけに次世代の組織へと進化を図らねばならないと、ウィンド教授は言う。

 これを実行するにはマインドセットが重要だとウィンド教授は指摘するが、さらに深いレベルでの視点の転換が必要だろう。

 911そしてリーマンショック以降、P/L(損益計算書)型からB/S(バランスシート)型へと企業経営の重心は移ってきた。しかし、マーケティングでは、依然としてP/L発想が強い印象がある。上記のように、短期の柔軟性のない施策に偏っているのはその表れだ。B/S的視点から時間軸を設定し、根本的なところからブランディングを構築し、かつ市場と継続的につながり対話しながら改善していけば、資産としてのブランド価値は、P/L型マーケティングより上げることができる。

 前出のJICAの例でも、広告が資産化し、資産が資産を生む連鎖でブランド価値を押し上げている。オール・タッチポイント時代の広告は、消費されるP/L型からB/S型への転換が鍵となるだろう。

アマゾン → Beyond Advertising: Creating Value Through All Customer Touchpoints (英語) 2016/2/15 Yoram (Jerry) Wind (著), Catharine Findiesen Hays (著)

BeyondAdBook.jpg

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する