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一見なんだと思うBABYMETALが世界のファンを惹きつける理由

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一見なんだと思うBABYMETALが世界のファンを惹きつける理由

(日本マーケティング協会月刊マーケティングホライズン 2016 vol.10 (特集テーマ「和える」)に寄稿したものです)

 ヘヴィメタル・サウンドとともに十字架に貼り付けの姿で現れるカワいいアイドル3人組のコンサートは、「Death! Death! Death! BABYMETAL Death!」の掛け声とダンスで始まった。

 BABYMETALは世界中のファンを熱狂させ、この9月の東京ドームでの世界8カ国22公演ツアーを締めくくるライブは、初日のチケットはファンクラブでも手に入らないほどの人気。筆者は追加発売の二日目に足を運んだが、アイドルファンと思しき人もいれば、メタルバンドの大御所ホワイトスネイクの話をするメタルファンもいて、また女性も多くシルバーの方もいるという、多様なオーディエンスが史上最多の5万5千席を埋め尽くした。

 BABYMETALは、異質の組み合わせによるイノベーションだが、アイドルぶりも、メタルの本格さも、妥協なく和えている。良い素材を上手に料理すると良いものができるが、BABYMETALはゴツゴツした素材が組み合わさって、新たな味と食感をもたらしている。

嫌われ好かれる驚きのプロダクト

 会場では、「これ考えた人、ノーベル賞ものだね」との声も聞かれたが、誰もが最初は「えっなんじゃこりゃ」と思うのがBABYMETALだ。そこからファンになる人もいれば、強い批判をする人もいる。これは、強烈なプロダクトの証左でもある。例えば、ハードロックバンドの金字塔レッドツェッペリンは、かつて渋谷陽一(音楽雑誌社ロッキング・オン社長)の人気ラジオ番組で年間ベストアルバムとワーストアルバムを同時に受賞したことがある。関心が湧かなければ、無視されて終わるが、人に驚きを与えるプロダクトゆえの反応だ。

 米国メタル界の有名人ロブ・ゾンビ(元White Zombieリーダーで、ゾンビ=生き返った死人を名にするようにホラー映画的なイメージのアーティスト)が、一般のメタルファンと、BABYMETALについてツイッターでこんなやりとりをしている。

メタルファンA「俺は大人だけど、これには泣きたくなる。BABYMETALはあらゆるメタルへの屈辱だ。奴らの(自称)音楽には何か殺したくなるよ。」

ロブ・ゾンビ「おい。彼女たちはツアーでやってきた良い子だよ。お前は不機嫌なおいぼれしてるだけだろ」

メタルファンB「あいつらは酷いよ。アホらしい。ロブは好きだけど恥を知れ。」

ロブ・ゾンビ「BABYMETALはお前よりイケてるぜ。」

メタルファンC「ロブ、ウソだろ?BABYMETALはJ-Popであってメタルじゃない。まあ好みは人それぞれだろうけど...」

ロブ・ゾンビ「この3人の女の子は、オレが一緒に演奏したバンドの9割よりエネルギッシュだったぜ。」

 筆者がインディーズ・バンドのイベント制作やマネージャーをしていた頃、新しい音楽を自由に楽しむのは子供のような純粋な心を持っている人が多いと感じた。従来のメタルや音楽に染まった心では、BABYMETALを門前払いにしてしまうが、オピニオンリーダーのプロ達が、「えっこれいいよ」と感じて支持しているのは理由がある。

 BABYMETALが支持される背景には何があるのか、WHATとHOWの二つの視点から迫ってみたい。

WHAT いい素材を活かした新料理

 まず素材の品質がいい。バックの神バンドは、若手のエース級のプロを集めている。学校の先生を務め他のプロをサポートする高度なメンバーは、海外のメタルミュージシャンのランキングで2位に入ったドラマーをはじめトップ10に続々と入っている。リードボーカルのSU-METALは、8歳でのオーディションでグランプリ受賞から芸能人養成学校アクターズスクール広島で歌で抜きんでた存在であり、レディガガほかトップスターからの評価も高い。メタルダンスユニットとうたっているBABYMETALだが、ダンスは若さ爆発で可愛くも激しく、ステージは高く支持されている。

 これら素材を活かした料理としてのBABYMETALの衝撃は、素材の質を大きく超えている。これには二つの意義がある。一つは、アイドルもメタルもファンでなかった層を全く新たなプロダクトで引きつけたこと。もう一つは、長年さして革新がなかった古いメタル界に思ってもみなかった形を突きつけたこと。商品開発の視点からは、手詰まり市場への革新的なプロダクトの投入と言えよう。

 そもそも音楽市場は転換期を迎えて厳しさを増している。その中でロックは位置付けが横ばいから低下気味。その中でメタルは古い様式を引きずり、いたずらに細分化を続けて本命不在となり、懐古で穴を埋めている有様だ。

40年以上革新が乏しかったヘヴィメタルの打開

 ここでヘヴィメタルについて簡単に説明しておきたい。メタルは、ハードロックに様式美を加えて発展したとも言われるが、象徴的な起源はオジーオズボーン(ふなっしーが真似ていることでも知られる大御所)らが結成したブラックサバスの1970年デビュー作だ。ホラー映画からバンド名をつけた彼らは、黒魔術崇拝などにより人を怖がらせることにフォーカスし、ジャンルの始祖的存在となった。

 「ヘヴィメタルを定義する」と公言し、ボーカルのロブハルフォードがメタルゴッドの異名を持つジューダス・プリーストは、80年代前半にレザーに鋲を打ったファッションと硬質なサウンドで後進に多大な影響を与えた。80年代にヘヴィメタルは商業的に大きく発展したが、やがて多様化の道へと進む。90年代を代表するメタリカ(BABYMETALのライブを観に来ている)は、重厚な音楽性のオルタナティヴ・メタルとして進化した。この後、実に様々な方向へと細分化が進んだ。

 現在、日本を含む各国でKnotfestなる多数のバンドによるツアーを行うなど中心的な存在であるスリップノットは、「引き結び(輪が絞まる絞首刑や動物捕獲の結び方)」を意味するバンド名で、日本では"猟奇趣味的激烈音楽集団"というキャッチコピーだ。

 振り返ってみるとヘヴィメタルの行き詰まりが見える。40年以上も猟奇性やオドロオドロしさが続いている。ブラックサバスからスリップノットへと引き継がれた様式への飽きもあれば、自らを縛っているようにも見える。猟奇性が薄いバンドも、ジューダス・プリーストらが強めたマニッシュで硬派な文化を引き継いでおり、これも制約となっている。ちなみに、メタルのミュージシャンは男性優位で女性はわずかで、ましてや可愛らしい女の子など全くいなかった。そして細分化しカオスのような状況となり、これだという方向性が見えない状態だ。

 つまりBABYMETALは、行き詰まったヘヴィメタルへの斬新な回答であり、ヘヴィメタルシーン自体を活性化している。同時に、その様式ゆえに目を向けなかった潜在的なヘヴィサウンドのファンの目を開かせた功績がある。

圧倒的かつ面白いと辛口の英編集者が語る

 「Metal Hammer」編集長アレクサンダーマイラスは、同誌の表紙の写真にBABYMETALを取り上げたことついて、「アイアンメイデンの公式カメラマンのジャーマン・マルトレイさんにお願いしました。(中略)最初はジャーマンも他の人と同じようにBMの良さがわからなかったようですが・・・ライブに連れて行ったら理解してくれました。圧倒的な体験なんですよね」と、ライブのスゴさを言う。

 BABYMETALは、うるさい欧米のメタルファンのハートをも惹きつける。中でもメタルではライブステージの出来とエネルギーレベルが問われるが、ロブ・ゾンビが言うようにその点は出色だ(もちろん、最近のアイドルと違って口パクでなくしっかり自分で歌っている)。このライブでのパワーは、メタルと縁のない一般の聴衆にもグッと迫ってくる、それもオドロオドロしさなしに楽しく。

 またアレクサンダーマイラスは、BABYMETALの魅力について、「英語で歌わないこと、変に真似しようとしないところ、そういうところがカッコ良く映っています。」と指摘する。これまで日本から欧米を狙った女性アーティストは、この罠にはまった例が多い。セクシー路線で英語の曲を、とは行かず、ツインテールのロリータ的な二人を含む欧米にない日本のアイドルをそのまま持ってきたのがカッコ・カワイイのだ。

 そしてアルバムについて、「Rock Sound」編集長デビッドマクラフリンは、「このセカンドは完全に違うレベルに行っちゃったよね。もっとクレージーだったり面白さだったり、いろんな要素が良い方向に一つになってるね。時々もう笑っちゃってさ。」「だって面白いんだもん。面白いってことがBABYMETALという存在を理解し、受け入れるカギだと思う。」と語っている。

 この面白さが、和えたプロダクトとしてのBABYMETALの魅力だ。なお、多様化が進んだメタルの実情を逆手に取ったという見方もできる。だからワンパターン(そういうバンドは多い)でなく、色々あって楽しく面白い。

注:編集長コメントはQuick Japan vol.125より

HOW いかに革新的プロダクトを創造したか?

 どうやって、えっという組み合わせを生み、世界のユーザーを獲得したのか?イノベーション創造の視点で考えてみよう。まず異才の活用、そしてリーンスタートアップ的なプロジェクトの進め方が見られる。

 プロデューサーのKOBAMETALはオタク。だからあんな異色の設定ができた。それをさせた所属事務所アミューズらもすごい。いまや多数が納得するような商品案では、埋もれてしまう。ヘルシア緑茶も当初は圧倒的多数が否定的だったが、異端がメジャーになる良い例だ。外れ点に未来があるというのがマーケティングのセオリーになりつつあるが、これを先取りしている。

 とはいえ、博打ややみくもな投資でなく、段階的にPoC(Proof of Concept)していった。海外からの反応を見て、エアの骨バンドから達人たちを集めた神バンドへと一大グレードアップした。つまり最初から今の形になったわけではなく、実験を重ねている。

 グロース=成長の戦略と実践にも着目したい。まずビジネスモデルの転換。同じ客に何枚もCD買わせるのと違い、新規のファンを欧米はじめ世界に増やすという今までにないモデルだ。YouTubeなどソーシャルメディア活用は当たり前だが、欧米のメタル関係のフェスに次々と出演し、ライブで揉まれながら、ファンを獲得していった。賞を何度も受けているが、プロダクトしての実力とともに、米トップエージェンシーのWME-IMGに担がせている点が功を奏している。

愛されるグループを創るには?

 BABYMETALは、アイドルをヘヴィメタルの形式に放り込んだと言うと簡単だが、日本語のアイドルとメタルの素材感は強く維持されたまま、和えて新しいものを創造した成功例だ。

 凄腕の男4人のバンドを従える主役はかわいい女の子3人組。メタルゴッド(前出のロブハルフォード)と共演しても、スタイルを崩さない。従来メタルの逆説で、マニッシュに男と張り合わずに、こちらに巻き込んでしまう。だから女性にも人気があるし、ファンは従えられたくなってしまうのかもしれない。

 色々と理屈を並べてみたが、歌・ダンス・サウンドとごまかしなしで、それも臆することなく自信をもってぶつけてくるBABYMETALは、幅ひろいファンのハートをつかまえる。100%力を出しているコンサートは、見ている方も熱くなるし、BABYMETALをサポートする真摯さと熱気が相まって、かつて見たことのない空間を形成していた。

 BABYMETALはリスナーだけでなく、既存の音楽業界に大きな衝撃を与えた。一定のパターンで産業化されると、ヘヴィメタルでなくとも行き詰まるのは世の常だ。音楽だけでなく、原点に戻って、感動するものを追求することがますます大切になっているのではなかろうか。

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