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シリコンバレー駐在のIT商社マン、榎本瑞樹(ENO)が綴る米国最新ICTトレンド

【速報】O'Reilly OSCON 2009に行ってきた!

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 今年もこの季節がやってきた。オープンソース関連の2大イベント、オライリー出版主催の「Open Source Convention(OSCON)」が、サンノゼ・ダウンタウンのMcEney Convention Centerで開催され、今回で11年目を迎えた。

 ダイヤモンド・スポンサーは、Intel、MicroSoftが飾り、プラチナスポンサーはGoogle、次いでFacebookとなっている。基調講演は、Web2.0の生みの親で知られるTim O'Reilly氏はじめ、Chris DiBona氏(Google)、Tony Hey氏(MicroSoft)、Simon Wardley氏(Canonical)、Mark Surman氏(Mozilla)と蒼々たるメンバーが登壇した。小さい小部屋で行われるセッションは、Java、Linux、Apache、Emerging Topicsに、今年からクラウドコンピューティングが加わり、全15カテゴリー、260セッションと充実した内容になっている。

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 このOSCONは、普段のカンファレンスとは、なんだか雰囲気が違う様子。世界中のソフトウェア・ディベロッパーが集まっているためか、ジーパンにTシャツ、デイバッグ、MACといった風貌の参加者がやけに目立つ。関係者の話によると3,000名程度が参加しているとのことで、この経済不況の時期に、コスト削減を強いられるユーザー企業のIT部門が、オープンソースに熱い視線を注ぐのは、自然の流れなのかもしれない。

 それでは、毎年恒例の「The O'Reilly Radar」と題した、Tim O'Reilly氏の基調講演の様子をお伝えしよう。

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 同氏は、単にオライリー出版のCEOというだけではなく、ICT業界における「ビジョナリー」としても注目されている。彼の発言は、次のビジネスを創出する上で意識しておく必要があるだろう。

 冒頭にイギリスの小説家T.S Eliotの著書「Little Gidding」の一節を引用して、同様なことがテクノロジーの世界でも適用できると述べ、iPhoneからピザ屋を探すというアプリケーションを例に出し、これからのモバイルコンピューティング、さらには、同氏の提唱するインターネットOS論、オープンソース・コミュニティの米国連邦政府への拘わりなど、今後の展望について熱く語った。

We shall not cease from exploration. And the end of all our exploring will be to arrive where we started and know the place for the first time.

我々は、探検をやめることはしない。探検の最後は、スタート地点に着いて、初めてその場所だとわかった時だ。 T.S. Eliot

 iPhoneに代表されるモバイル端末は、クラウドデータ・サービスと連動するためのセンサーの貯蔵デバイスになっている。つまり、タッチスクリーン、マイク、GPSなどのセンサーが搭載され、各々の情報が集まっているデバイスであり、単なる携帯電話ではない。

有意な位置にいるGoogleの音声認識技術

 例えば、iPhoneでピザ屋さんを検索するというアプリケーションは注目すべきだ。iPhoneに向かって「Pizza」と言ったら、近隣のピザ屋さんの情報、連絡先が直ちに表示される。これは、音声認識、検索、ロケーションといったクラウド・データサービスに依存している。音声認識技術は、まだまだ発展途上段階ではあるが、データーベース上にどれだけ情報を蓄積しているかがポイントとなる。そういった意味では、Googleは検索技術で培ったノウハウとこれまでの実績により、人々がどういう情報を欲しているのかというデーターベースを持っているので、有意な立場になるだろうとのこと。

 現在、注目している企業としてMobilizyが紹介された。同社は、2007年に設立されたオーストラリアのスタートアップで、Android上でのアプリケーションを開発している。同社のフラグシッププロダクトであるWikitude AR Travel Guideは、旅先で、建物の映像にモバイル端末のカメラの焦点をあてると、Wikiと連動してその建物の解説をしてくれるというもの。(下段の動画参照)

データーベースは中央集中ではなく、フェデレーションされるべき 

 Tim氏が、以前から掲げているインターネットOSを作り上げるには、サブシステムとしてロケーション、アイデンティティ、検索、購買行動、振る舞いパターン、天気、音声認識、イメージ認識などが重要な要素になる。これらの情報が蓄積されたデータベースは、多くの人々からの利用頻度が、高くなればなるほど良くなっていく。そして、自然と独占化される傾向にもある。つまり、Googleのような企業に、そのデータベースが集中化されてしまうということに懸念を表していた。

 同氏の信条として、これらのデータベースは連携されるべきで、フェデレーション技術が新たなオープンソースになるだろう。」と聴衆に投げかけた。なぜなら、電子メールの歴史をみても単一メールシステムから異なるメールシステムの連携が可能になり、今ではどこにでも送れるようになっているからだと、ソーシャルメディアも同様だと力説する。1994年に出版された同氏の著書で、「ソーシャルネットワーキングも近い将来、異なるソーシャルネットワークが相互運用する」と述べ、15年たった今、実際に”Open Social”などのSNSの標準化が進んでいることからも、説得力があるといえる。先日発表されたGoogle Waveはまさにこのフェデレーション技術の賜物ともいえる。フラットかつシステムの垣根を越えた連携が可能となる設計されており、コミュニケーションやコラボレーションのためのオープンなエコシステムが可能となっている。

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米国政府は自動販売機政府モデルから脱皮しよう!

 これらの動きを推進しているがオバマ大統領だとも述べていた。オバマ政権は、国民が正確なデータを入手できることが重要だとし、政府のデータをデジタル化し、公開することに熱心になっている。CIOに任命されたVivek Kundra氏は、政府の支出に関する情報をUSAspending.govサイトで公開している。Data.govサイトでは、各種の政府データを未加工のオリジナルデータ状態で公開している。さらには、データを公開するだけではなく、国民が政府に直接、意見、提案を述べる場として、Open Government事業を展開している。

 特に印象深かったのは、「従来の”Vending machine Government(自動販売機政府)”を辞めて、新しい政府の形をつくっていくべきだ。」との言葉。Vending Machine Governmentとは、国民が税金を入れると、学校や道路、病院などが政府から提供されるというモデル。新しい政府の形とは、①政府が国民にサービスや情報を与える。②国民は、政府に問題を与える。③国民間で問題を解決する。④政府間で協力しあう。といった4つのインタラクティブなコミュニケーションが成り立つモデル。これをGov 2.0と提唱していたことだ。

 それを実現するために、“Open Source for America”というコンソーシアムを結成したと発表した。

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 これは、米国政府に対してオープンソースの啓蒙活動を行う団体で、Google, Oracle, Red Hatなどの企業やOpen Source Initiative(OSI)などの関連団体、大学など70以上の組織が参加する。そのアドバイザリー・ボードとしてTim O'Reilly氏が就任している。各々のオープンソースプロジェクトの力を結集し、自らの手で、新しい政府のプラットフォームを作り上げようという意が込められている。

 最後に、「このOpen Source for Americaの取り組みに、是非参加していただきたい。自らの手で、より良い政府を再建するとてつもないチャンスだ」と講演を締めくくった。

 講演後、ミーハーな感じで名刺交換し、クラウドとオープンソースのかかわりに関して情報交換したが、やはり何とも言えないオーラを感じましたね~。

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