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外資系金融機関を担当する経営コンサルタントの活動記録 ~ プライスウォーターハウスクーパースの高橋正敏です。

フェルミ推定で、仮説積み上げを楽しむ

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昨今、色々な書籍でフェルミ推定に関する紹介がなされています。フェルミ推定は、戦略コンサルティングファームやソフトウェア会社等の入社試験でもよく使われています。そのため、コンサル業界向け就職対策本のなかで紹介されていますし、また、地頭力の強化、物理学の入門書などでも取りあげられているテーマでもあります。

フェルミ推定とは「実際に調査して把握するには難しい定量的な問題を、可能な限り納得度の高い仮説と論理を駆使して、推論し、短時間で数値を導き出すこと」と言えます。これは、1938年に放射性元素の発見でノーベル賞を受賞した、エンリコ・フェルミに由来するそうです。彼はこの手の問題をよく考えたり、学生に出題していたそうです。

そのなかで彼がシカゴ大学で学生に出題した問題として有名なのが、「シカゴにはピアノ調律師が何人いるか」です。(以下 Wikipediaより抜粋)

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まず以下のデータを仮定する。

1.         シカゴの人口は300万人とする 

2.         シカゴでは、1世帯あたりの人数が平均3人程度とする 

3.         10世帯に1台の割合でピアノの保有している世帯があるとする 

4.         ピアノの調律は平均して1年に1回行うとする 

5.         調律師が1日に調律するピアノの台数は3つとする 

6.         週休二日とし、調律師は年間に約250日働くとする 

そして、これらの仮定を元に次のように推論する。

1.         シカゴの世帯数は、(300/3=100万世帯程度 

2.         シカゴでのピアノの総数は、(100/10)=10万台程度 

3.         ピアノの調律は、年間に10万件程度行われる 

4.         それに対し、(1人の)ピアノの調律師は年間に250×3=750台程度を調律する 

5.         よって調律師の人数は10/750=130人程度と推定される

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基本的には、仮説の検証については、別途、時間を確保して調査を行えばよい、と考えます。無論、その際も効率的に行う必要があります。この手の作業の場合、コンサルティングファームでは、若手の仕事となります。(若手はアナリスト、とか、リサーチャーとか言われる場合もあります)

最近、私が遭遇したフェルミ推定(的な?ケース)は、というと、以下のように比較的確度の高い情報をもとに、早急に数値の推定が求められました。(守秘義務上、一部内容を変えています)

「システム開発で関連するビジネスプロセスフローの量(塊の量)に基づき、テストケース数を求め、その障害発生数を推測し、それに対応する要員数を推定する」

「クライアントのある部門における業務プロセスを精査して、業務量を把握し、3名常駐させることでどのくらいの日数で仕事が完了するか、そしてその結果が適切かを検討する」

ともに、多くのひとが日頃からやっているありふれた仕事です。これらは、現実のビジネスの話ですから、推定結果算出に至るまでのプロセスをクライアントに納得のいくように説明しないとお金をいただくことができません。特にコンサルタントの行うフェルミ推定は、相手に納得をさせ、具体的な行動に結びつけるところまで持っていって初めて、意味のある仕事になります。

それでも、上記の説明を行った際には、日頃から訓練しておいてよかった。。。と思いましたが(笑)。

昔読んだ、シャーロックホームズの「悪魔のダイヤ」の話のなかで、拾った帽子ひとつから、仮説をドンドン積み上げて人物像を詳細に描き出すシーンがありましたが、フェルミ推定はそれに似ていますね。その際、彼は、事件と関係なく、その推理そのものを楽しんでいました。

不確実な物事に対峙し、現時点で持っている情報と仮説構築力、論理展開力で最適の解に近づこうとする、ということは経営管理上必須の仕事でありますが、それ以前に、この推定作業自体が楽しいものだと思います。時にはこの推定を仲間と議論しながら行ったりするもの面白いですね。簡単に答が導けないことを面白がるぐらいの神経でないといけないな、と私は最近痛切に感じています。

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