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クラウド・エコシステム(25)電子書籍ビジネス<前編>

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今回は、電子書籍について整理をしてみたいと思います。競争が激化する電子書籍市場においても、今後の成長が見込まれています。

電子書籍の市場成長

インプレスR&Dが2011年11月7日に公表した「電子書籍に関する国内市場規模をまとめた調査結果」によると、書籍の2010年度の市場規模は650 億円と推計され、2015年には2,000億円に達すると見込んでいます。これまで、市場の牽引役はコミックを中心としたケータイ向け電子書籍でしたが、アマゾンのKindleなどの海外事業者が日本市場に参入し、新たな電子書籍向けのプラットフォーム市場が立ち上がるとしています。そして、この数年間にコンテンツが充実し、著作権などの法制度などの環境も整備され、2013年以降に本格的な拡大期に入ると予測しています。

また、矢野経済研究所は2012年4月18日、「電子書籍市場に関する調査結果2012」を発表しました。2010年度の電子書籍市場規模は670億円で、2014年度は1197億円、2015年度は1500億円まで市場規模が拡大すると予測してます(関連記事)。日本における電子書籍市場は、米国のように爆発的な市場拡大ではなく、外資の参入等を経ながら段階的に拡大していくと予想しています。

一方、米国市場では、2012年6月15日のAssociation of American Publishers(アメリカ出版社協会)によると、2012年の電子書籍の売上が2億8230万ドルに対し、ハードカバーは2億2960万ドルと、電子書籍がハードカーバーを逆転するなど、電子書籍の利用が急速に進んでいます(関連記事)。

アマゾンが市場をリードする電子書籍のビジネスモデル

これまでの書籍ビジネスは、出版の流通を担う出版社や取次事業が、ビジネスの中核的事業となっていました。アマゾンのKindleに代表される電子書籍端末の登場や電子書籍サービスの登場により、コンテンツを提供するプラットフォームとデバイスの組み合わせに競争の基軸が変化しています。

また、電子書籍端末は世界100ヶ国以上で発売され、世界市場を見据えた電子書籍ビジネスの展開が重要となっています。

電子書籍市場をリードしているのは、Kindleを販売するアマゾンやソニーなど、コンテンツを提供するプラットフォームとデバイスの組み合わせに軸足を置いている事業者です。

アマゾンは、100万点を超える巨大な電子書籍配信サービス「Kindle Store」を提供し、話題作を電子書籍で先行販売したり、一部の電子書籍を格安で販売するなど、規模の経済(スケールメリット)を生かし、独特の電子書籍ビジネスを展開しています。

アマゾンは、2011年11月14日にアマゾンは7インチのタブレット端末のKindle Fire(キンドル・ファイア)は199ドル(約1万5,000円)の価格で販売を開始しました。タブレット市場で圧倒的な人気を誇るアップルの「iPad(アイパッド)」の4割以下の価格設定をすることで市場に価格破壊をもたらし、市場に衝撃を与えました。

米調査会社IHS iSuppliが12月2日に発表した「世界における第4四半期(10~12月期)のタブレット市場に関する予測」によると、同四半期のタブレット出荷台数ランキングでは、iPadが1,859万8,000台の出荷で圧倒的な首位(シェアは65.6%)ですが、わずか2週間にKindle Fireが出荷台数390万台を販売し、シェア13.8%で2位に躍り出ています。

アマゾンの発表によると、2011年の12月25日のクリスマスには、1日当たりのKindle書籍ダウンロード数が過去最高を記録し、電子書籍の販売数は順調に数値を伸ばしています。ここ数ヶ月、Kindle Fireの販売実績は鈍化していますが、Amazonは、Kindle Fireのような電子書籍向けのデバイスを次々と投入してくいくことが予想され、デバイスを押さえることで、市場をへのプレゼンスを強めています。

電子書籍ビジネスから「タブレット・コマース」への展開

アマゾンのKindle Fireの199ドルの価格での投入は原価割れで売れれば売れるほど利益はマイナスになると想定されていますが、低価格の端末を投入することで、電子書籍の利用だけでなく、アマゾンの膨大な商品を扱うECサイトへの入り口を増やし、コンテンツで収益を得るモデルでユーザの囲い込みを図っています。

Kindle Fireのようにタブレット端末からECサイトへ誘導し収益を得る「タブレット・コマース」市場が注目されています。Eコマースを提供するグローバル企業は、タブレット端末に対応するため、自社サイトをタブレットに適応させたり、タブレット端末対応のアプリケーションを提供、さらに、Eコマースを快適に利用するためのタブレット端末を発売するなどの対応を急いでいます。

アマゾンのKindle Fireの発売は、今後の市場拡大が予想されるこの「タブレット・コマース」の収益に注目し、新たな市場を創出することで、市場を牽引していくことが予想されます。

米調査会社のガートナーは2012年4月、2016年のタブレット市場をグローバルにこれまでの累計稼動数で 6億6500万台の出荷され、中でもiPadがタブレットの市場の45%を占めると予測しています(関連記事)。

また、米調査会社のフォレスター・リサーチ社の調査によると、米国等の国では、タブレット端末を通じてのオンラインショッピングの売り上げは、オンラインショッピング全体の20%を占めており、また、オンラインショッピングの利用者は、スマートフォンよりもタブレット端末を好むという結果が出ています(関連記事)。

米国の調査会社Econsultancyは2011年11月、「Multichannel Customer Experience Report」によると、iPadでショッピングの経験をしたユーザの満足度が高い結果となっています(関連記事)。

端末のシェアの高く、Eコマースへの満足度の高いiPadが、このままいけば、急速に成長する「タブレット・コマース」でも市場を大きくリードすることが予想され、アマゾンのKindle Fireの低価格による市場投入はその危機感の現われとも捉えることもできるでしょう。

今後、「タブレットコマース」の急速な市場成長が予想される中、電子書籍だけの提供だけでなく、Eコマースのように、端末からサービスまで一括して提供する垂直統合型のモデルによって市場における競争優位を確保していくことが重要となってきています。

電子書籍の主流はHTML5やEPUB3.0に

Kindleの電子書籍サービスは、Kindle Fire以外のグーグルのAndroid OS搭載のスマートデバイスやアップルのiPadにも対応するなど、マルチデバイスの強化を図っています。

また、Kindleは、2011年10月からの新ファイル形式 Kindle Format 8 (KF8)でHTML5やなど150以上の新たなフォーマットに対応しており、電子書籍サービスの利用環境における競争優位を着実にしています。

特に、HTML5は、アプリを立ち上げることなく様々なデバイスで電子書籍を読むことが可能となるため、EPUB3などの電子書籍のフォーマットの考え方を変え、電子書籍市場においても構造変化をもたらす可能性が秘めています。

電子書籍のフォーマットは、EPUB、EPUB3.0、EPUB4、Kindle Format 8、HTML5、PDFなど、多くのフォーマットが存在し、電子書籍の国際標準化の取り組みが急がれています。

米国出版業界の標準化団体である国際デジタル出版フォーラム(IDPF)は2011年10月、「EPUB 3.0」の最終版を公開し、フォーマットの仕様をほぼ確定しつつあります。EPUB 3.0は、HTMLの仕組みを流用しており、Webアプリとの親和性が高いのが大きな特徴です。さらに、縦書きやルビなど日本語独自の表記にも対応しており、国内でも普及が進んでいくことが期待されます。

電子書籍のフォーマットが決まれば、コンテンツやプラットフォームの競争や連携に集中することができるため、電子書籍市場の成長に拍車をかけることになるでしょう。

アマゾンの電子書籍ビジネスを支えるデバイスとクラウド連携

アマゾンのKindle Fireのビジネスモデルを支えているのが、Amazon Web Serviceが提供するEC2/S3といったクラウドサービスです。アマゾンが提供するクラウドサービスは、アマゾン全体の売上高に占める割合は4%程度ですが、成長力ではネット通販を上回っており、パブリッククラウド市場においてもアマゾンのサービスは圧倒的なシェアを確保しています。

アマゾンが自社で開発したネットブラウザーソフト「アマゾンシルク(Amazon Silk)」をAmazonのクラウドサービスのEC2を活用し、ブラウザとクラウドを連動させることでWebコンテンツを高速で表示させることができます。Amazonは自社のクラウドを活用することで他社との差別化を優位にしています。

アマゾンは2011年8月に「Kindle Cloud Reader」というWebアプリも提供しており、デバイスやフォーマットに依存せず、マルチデバイスでクラウド側にある電子書籍を閲覧できる取り組みも進められています。

アマゾンは、年内に日本国内市場で電子書籍のサービスを開始することを明らかにしており、日本の市場にどの程度のインパクトを与え、日本の出版社やメーカが対応していくのか、その動向が注目されます。

国内における電子書籍とクラウドサービスの連携

「ぴあ」は2011年12月16日、マイクロソフトのクラウドサービス「Windows Azure Platform」を利用して構築した電子書籍クラウドサービス「DO!BOOK[SV] 」を採用し、電子書籍としてWeb上に公開する「ぴあ+〈plus〉 」を開始しています。電子書籍はHTML5に対応しており、様々なデバイスでの閲覧が可能となります。「ぴあ」は2011年7月に休刊した雑誌で、クラウドを使いWeb上に電子書籍を提供することで、再出発を遂げています。

利用者が電子書籍を読むと、その読書履歴がクラウド上のデータベースに記録され、専用の分析ツールを使えば、読者の閲覧状況を分析することができます。また、マイクロソフトのクラウドサービス上の決済システムを通じて電子書籍を販売できる「決済システム連携モジュール」を2012年3月から提供するなど、クラウドを活用することで機能の充実を図っています。

追いかける楽天、コボ連合

アマゾンに対抗する国内事業者のグローバル展開の動きでは、楽天が2011年11月に買収を発表したカナダの「コボ(Kobo) 」があげられます。

コボは、電子書籍端末では、市場シェア約5%を持つ世界3位の企業で、米国や欧州などぉ中心にタブレットと電子ペーパーの両方の電子書籍端末を展開しています。現在、180カ国以上で800万以上の登録ユーザーを抱え、ブックストアがそろえるタイトルは250万を超え、100万冊の無料書籍、60言語の書籍を取り扱っているなど、グローバル展開を進め、急成長を遂げています。

コボは2012年6月初旬、前年対比で3けた成長を達成したと発表しました(関連記事)。電子書籍ダウンロード数は400%以上、電子書籍リーダーの販売は160%、端末数は280%の伸びを見せています。

楽天の三木谷浩史社長は「今年前半までに日本版を発売する」と発言しており、国内市場参入とともに、アマゾンにグローバル市場で対抗する事業者としての期待も高まっています。

 

※担当キュレーター「わんとぴ

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