オルタナティブ・ブログ > 『ビジネス2.0』の視点 >

ICT、クラウドコンピューティングをビジネスそして日本の力に!

データセンターの特区創設と国内立地推進について(まとめ)

»

調査会社のIDC Japanは9月28日、国内クラウドサービス市場の予測を発表しました。2010年のクラウドサービスの市場規模は、2009年比41.9%増の443億円、2009~2014年における年平均成長率は37.5%。2014年の市場規模は1534億円と予想しています(関連記事)。

このまま、市場が成長していくとすれば、プライベートクラウド及びパブリッククラウド関わらず、クラウドサービスを提供していく上で大前提となるデータセンターの需要への対応が必要となってくるでしょう。

クラウドの特徴の一つにデータがどこにあるのか、場所を気にせずアクセスできるというものなのですが、日本国外でのデータ保存はセキュリティなどの安全性に不安を感じるユーザも多いことでしょう。同時に、国外にデータが今後も増えていくことになれば、情報の空洞化が進み、IT産業等にとってのマイナスも懸念されています。

グーグルやマイクロソフトなどは世界各地にデータセンターを新設しています。アジアの地域では、特に、シンガポールや香港などに設置をするケースが見られます、外資系のクラウド事業者の一部が、国内のデータセンターを利用するということが明らかになっていますが、大規模なデータセンターを新設するという情報までは明らかになっていません。

   

政府の対応について

政府は、「クラウド(データセンタ)特区(仮称)に関する公開情報まとめ(2010.6.23)」などでもご紹介させていただきましたが、総務省では、5月に公表した「原口ビジョンⅡ」、「スマート・クラウド研究会報告書」、「クラウドコンピューティング時代のデータセンター活性化策に関する検討会」報告書、経済産業省では、5月に公表した「情報経済革新戦略」、そして8月に公表した「クラウドコンピューティングと日本の競争力に関する研究会」報告などでデータセンターの国内立地推進について、記載されています。もちろん、「新成長戦略(6月18日) 」や「新IT戦略(5月11日) 」にも記載されています。

また、「構造改革特別特区にコンテナ型データセンターを提案する自治体一覧(2010.8.3)の中で、ご紹介させていただきましたが、内閣官房 地域活性化統合事務局にて、「構造改革特別特区域推進本部」を設置し、構造改革特区創設に向けて各自治体から提案を募集をしています。地域活性化統合事務局が7月21日に公表した「構造改革特区及び地域再生に関する検討要請の実施について(お知らせ)」の「資料1(PDF)」では、提案自治体や要望事項などの一覧が確認できます。これが総合特区の流

要望事項一覧で目立っているのが、コンテナ型データセンターの規制緩和に関する要望事項です。

                                     
                                
                                
                                
                                
                                
                                
                                
                                
                                
                                
                                                                  
                                
                                
                                
                                
                                
                                
                                
                                
                                
                               
提案主体名要望事項規制所管庁/         
関係省庁
北海道コンテナ型データセンター(サーバー機器などを収容した輸送用コンテナ)の建築基準法の建築物からの除外国土交通省
美唄市コンテナ型データセンター設置にかかる要件の緩和国土交通省
石狩市データセンターの電気設備に係る主任技術者の兼任基準の緩和経済産業省
石狩市データセンターの電気設備に係る法定点検周期の緩和経済産業省
石狩市コンテナ型データセンターにおける建築確認申請の省略国土交通省
石狩市コンテナ型データセンターのみを収容する建築物における建築確認申請の省略国土交通省
石狩市コンテナ型データセンターについては、建築基準法上の建築物としては扱わない。国土交通省
石狩市データセンターにおけるサーバー類及び電気設備の法定耐用年数の柔軟化         

総務省            
経済産業省

      
石狩市データセンター建築に係る事前着手国土交通省
石狩市データセンター建築に係る建築確認手続きの簡素化国土交通相
石狩市企業立地促進法の計画期間の緩和経済産業省
石狩市企業立地促進法に基づく交付税補てん対象の拡大経済産業省
石狩市寒冷高緯度地域における情報通信基盤整備等への財政支援制度の創設総務省
石狩市環境配慮型データセンターへの支援制度創設         

総務省            
経済産業省            
環境省

      
石狩市データセンター移設費用に対する支援制度創設         

総務省            
経済産業省

      
岩見沢市ほかコンテナ利用による「環境配慮型クラウドデータセンター」実現に向けた省エネ法に関する特例措置         

総務省            
経済産業省

      
岩見沢市ほかコンテナ利用による「環境配慮型クラウドデータセンター」実現に向けた評価指標の確立         

経済産業省            
国土交通省

      
岩見沢市ほかコンテナ利用による「環境配慮型クラウドデータセンター」実現に向けた官民協働など利用促進措置         

総務省            
経済産業省

      
青森県コンテナ型データセンターの建築基準法に関わる規制の緩和         

国土交通省

      
青森県コンテナ型データセンターの消防法に関わる規制の緩和総務省
茨城県45ftコンテナに係る諸規制の緩和国土交通省
宮城県         

コンテナ型データセンターに係る建築基準法及び消防法の緩和

      
         

総務省            
国土交通省

      
 

また、政府は、7月16日に「ICTの利活用を阻む制度・規制等についての意見募集」を行ないましたが、これらの意見を踏まえて、「情報通信利活用促進一括化法(仮称)」を国会に提出し、例えば、コンテナ型データセンターの設置にあたって、ハードルとなっている建築基準法や消防法の規制緩和を進めていくことも検討されていると想定されます。

   

自治体の誘致の動きについて

これらの政策の流れを受け、各自治体もデータセンターの国内立地について、積極的に誘致策を展開しています。

日経新聞(6月21日)の一面に、クラウド特区に関する記事が掲載された同じ日にさくらインターネットが「クラウドコンピューティングに特化した国内最大級の郊外型大規模データセンターを北海道石狩市に建設」という報道発表をしています。竣工時期は2011年秋を予定しています。

全体図(最終8棟:合計4,000ラック)

完成予想図(報道発表資料より)

北海道では、北海道GEDC推進フォーラムを立ち上げ、産官学が一体となって、積極的にデータセンターの立地推進を進めています。石狩市では、情報通信関連企業が集積する「石狩データセンターバレー」を目指しています。

なお、北海道のデータセンターの立地については、「北海道データセンター立地アセスメント委員会」を立ち上げ、平成20年11月~平成21年3月の期間、どの地域がデータセンターの立地に適しているか調査を実施しています。なお、北海道や石狩市などの「優遇制度」についても確認することができます。

その他の自治体でも、積極的な誘致が始まっています。

宮城では、産学官が参加する立地検討委員会が立ち上がっています。東京に本社を置く5社が進出に意欲を示し、検討会では10月以降、個別面談を始め、立地場所などを協議するとしています(関連記事)。

また、既に「コンテナ・モジュール型」のデータセンター設置が明らかになっている地域もあります。IIJは、8月26日に、 「松江データセンターパーク」を構築開始すると発表し、2011年4月の稼動開始を目指しています(報道発表資料)。松江では電源立地の優遇制度を受けることができ、データセンターではネックとなっている電力料金の低減が期待されます。

松江データセンターパーク 完成予想図

松江データセンターパーク 完成予想図(報道発表資料より)

自治体のデータセンター誘致を支援するASPIC

ASPIC(NPO法人ASP・SaaSインダストリ・コンソーシアム)は、「ASP・SaaSデータセンター促進協議会」を立ち上げ、国際戦略委員会の中で、国際競争力のあるデータセンターのあり方について検討を進めています。9月1日には、「地方公共団体データセンター誘致施策情報」という自治体のデータセンターの誘致サイトを解説しています。

地方公共団体データセンター誘致施策情報

9月29日現在では、佐賀県、愛知県、茨城県、山梨県、青森県、沖縄県、香川県、宮城県、岐阜県、群馬県、和歌山県、新潟県、北海道、石川県の14自治体が情報を掲載しています。(詳細情報はASPIC会員しか見られないようになっています)

特に積極的に情報を公開しているのは、茨城県で、6箇所の地区を掲載しています。

image

 

まとめ

以上のように政府も自治体も国内立地に向けて、取り組みを始めつつあります。円高や法人税の問題など、国内立地に向けては必ずしも追い風ではありません。これらの政策の動きを見て、外資系事業者や国内の事業者がどのような判断をし、立地を進めていくのか、今後の状況が注目されます。

Comment(0)