苦戦する日本のエレクトロニクス産業と3つの要因
iPadから見えるエレクトロニクス・IT産業の国際競争力と対応の方向性で、全体像を少しまとめてみましたが、「産業構造審議会産業競争力部会(第4回)」の配布資料をもとに、エレクトロニクス産業が苦戦している原因とその対応について少し整理してみたいと思います。
日本のエレクトロニクス産業が苦戦している原因として、①標準化戦略、②投資競争、③内向き志向の3つをあげています。
まずは、標準化戦略です。
海外有力プレイヤーは「ブラックボックス」と「オープン」を合わせた標準戦略を駆使しています。
インテルのケース
MPUに関して、自社領域を知財で保護し、ブラックボックス化しています。PCIバスやマザーボードなどそれ以外については、徹底的にオープン化で開放、新興国のメーカーの参入を促進しています。その結果、オープン化された周辺領域で新興国が参入し、コスト競争は激化しています。ブラックボックスを確保するインテルは高利益率を維持するも、オープン化された領域の日本勢(メモリ、HDD等)は韓国・台湾勢から猛追を受けています。
シスコのケース
ルータを知財で保護し、ブラックボックス化技術の改版権は保持し、他企業へライセンス提供することでオープン化を展開しています。ライセンスされた企業が世界販売し、シスコのルーターがデファクト標準化となり、日本勢は撤退を余儀なくされています。
ノキアのケース
基地局制御システムなどのインフラ側をブラックボックス化し、相互依存のある携帯電話端末側をオープン化しています。その結果、日本企業が世界最高レベルの携帯電話インフラ・端末を持っていましたが、ブラックボックス化したインフラ領域の技術更新に即時に対応できない仕組みとなっており、日本勢は海外展開が困難な状況となっています。日本の携帯電話のガラパゴス化が指摘されていますが、ノキアのような展開ができなかったのは大きな敗因となるのではないでしょうか。
二つ目が、投資戦略です。サムスンと日本企業の半導体関連投資額比較を見てみましょう。日本5社は、東芝、NEC、富士通、パナソニック、ソニーです。サムスンは市況が落ち込んだときにも積極的な設備投資しています。一方で、日本は業績が悪くなると利益確保のために設備投資を抑制している傾向が伺えます。市場が急激に拡大する分野では、投資競争が勝敗の鍵を握ると言えるでしょう。
また、日本の世界最高水準の法人税負担が投資に与える影響も大きな原因となっています。日米韓台の主要企業の実質税負担率比較を見てみると、サムスンとシャープの税格差のインパクトは大きく、サムスンの実質税負担率は10.5% (韓国の表面実効税率24.2%)に対して、シャープの実質税負担率は36.4% (日本のの表面実効税率40.7%)となっており、実質税負担率の差から生じるサムスンの余裕資金:約1,600億円となり、シャープの亀山第二工場の投資額:約1,500億円をも超えています。
そして、最後に内向き志向です。
サムスンの例がとりあげられています。サムスンは、アジアを中心に各市場・地域の文化や習慣などを熟知するための「地域専門家制度」を1990年から開始し、各市場・地域にマッチした製品を販売するための足し算・引き算の設計手法を追求する等、新興国市場を制するための戦略を周到に進めてきています。
また、ビジネスモデル改革の遅れもあげられており、ものづくり、サービス、コンテンツ等の区分を超え、ビジネス全体を見据えた上でプラットフォームを抑えるという戦略的対応で海外有力プレイヤーに遅れをとっている点があげられています。特に今、顕著となっているのが、「電子書籍化」に向けたビジネスモデル変革への対応です。
次回は、「具体的政策対応」についてとりあげてみたいと思います。