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組織を活性化させていく上で外せないポイントを、企業や組織が抱える問題や課題と照らし合わせて分かりやすく解説します。日々現場でコンサルティングワークに奔走するコンサルタントが、それぞれの得意領域に沿って交代でご紹介します。

思考することから始まる戦略人事

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タレントマネジメントシステムの話でお客様先を訪ねると以下の様な会話をします。「タレントマネジメントをしたいです。」「どの様なタレントマネジメントでしょうか。」「例えば適材適所の配置とか、離職率を下げるとか、そういうことをイメージしています。」この会話でわかることは、お客様は何を実現したいのかのゴールを持っていないが、タレントマネジメントシステムが自分たちの課題を解決してくれるのではないかと期待していることです。そしてこの様なパターンに限って、数年後に訪問してみると、「システムを導入したけど全然だめだった、うちに合うシステムではなかった」と嘆いています。本当にシステムが悪いのかは定かではないのですが、この様なシステム導入で失敗する最頻出パターンに良く遭遇します。

そこで良くわかることは(これもあるあるですが)、システム導入の際に、ゴールや目的もなければ、ゴール達成のための仮説もない、その様な状況でシステム導入をしている場合が多いです。仮説がないから、システムに頼って、結局使い方もわからない(使えるようになる気もない)。「データ分析なんかできないじゃん。」とシステム機能のせいにする。この様な流れが一般的に起こっているシステム導入の良くある失敗です。

この様な失敗は経営統合システム時代から起こっており、今タレントマネジメントシステム導入の最盛期でも起こっています。この様な状況の中で、人事部が戦略関連部署に変わる必要がある中で、同じ失敗を起こさないために、またそもそもシステムに人材マネジメントの解決策のよりどころにしないために、問題の洗い出しや構造化する力が必要になります。

よく話題に上がる勤怠管理システムの勤怠データから離職者傾向を割出すサービスを例に、短絡的な問題解決の無意味さとシステムを万能薬と考えることの危うさについて考えていきます。
「離職率が上がる」という事象の要因を勤怠と紐づけて考えると「時間外労働が増える」「直行直帰が増える」「休日出勤が増える」などの理由が見えてきます。


しかし、人が離職する理由は勤務時間が増え、体調不良になったり、精神が不安定になったりするだけが理由ではなく、他の理由も考えられます。例えば、事業戦略や仕事・職場環境なども離職率上昇の要因になり得ます。方針や戦略が明確でないために、何を目指して働いているのかわからないと感じ、離職してしまう。または方針や戦略が不明確なために、能力を超えた仕事をする意義を感じられずに離職してしまう。あるいは、能力を超えた仕事の割り振りが原因で時間外労働が増え離職に至る、などと言うように離職率が上がる要因は複雑に入り組んでいるケースがほとんどです。

従って、一つのシステムのデータを元にして分析をしたとしても、離職率を下げるための解決策(万能薬)にはならず、複雑に入り組んだ要因の一部を探り出すための情報にしかなり得ないのです。仮に自社において時間外勤務が増えた社員が離職するケースが増えているのであれば、勤怠データは離職率を上げる要因の一部になり得ているので、対象社員への迅速なフォローはできますが、フォローの仕方については入り組んだ要因を紐解く必要があるのは言うまでもありません。

以上から見ても、システムは人材マネジメントの万能薬としては機能せず、一部要因を探り出す、または一部要因に対するアラート機能のためのツールにしかなり得ないとわかります。詰まる所、結果を引き起こしている要因は何なのか、その要因は何と連関して引き起こされているのか、を紐解いていく、仮説を立てていくことが肝要になります。仮説を立て、立証するための支援ツールが様々な領域のシステムであり、課題解決の万能薬ではないことを理解すべきかと存じます。

今まで処理業務に追われてきた人事部が戦略関連部署に変革していく時代の中で、目の前の手軽な解決策に目を奪われることは必然であると感じながらも、戦略人事への変革の本質は導入するシステムではなく、その思考にあると考えています。それはフロントに立っている営業職や製品を生み出している技術職と同様に、論理的思考・問題解決力が礎となり構成されている思考です。
経営統合システムと同様の二の舞になるのか、またはアナログとデジタルが融合した新しい人事部が出来上がるのかはその思考力を人事部が持つか、持たないかによって、大きく左右されると考えています。

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